「日本経済新聞社の主催で、『地方創生フォーラム』というのを昨年(12/10)開催しているのですね」
「少し前になりますね。何で知ったのですか?」
「今日の『日経』(1.22日付)に当日のことが見開き2ページで報道されていましたので、それで分かりました」
「講演会ですか?」
「いえ、5人のパネラーがそれぞれ基調講演をして、その後コーディネーターの司会によってパネル討論をするというかたちですね」
「ユニークな内容、あるいは斬新な意見はありましたか」
「いくつか面白いアイディアはありますね。例えば、グリーンインフラという言葉を使っていたのが清水建設のグリーンインフラグループ長の橋本氏です」
「建設会社がグリーンインフラの部門を作る時代なのですね」
「そうですよね。グリーンインフラについては、「多自然型の公共空間を整備し、水と緑豊かな住環境」「地域の植物を使った緑の整備」と言っています」
「ただ、夕張市のように誰もいなくなったところで「グリーン」と叫んでも空しいですよね」
「まあ、そうですね(笑)。すべての地域に当てはまるコンセプトではないことは確かでしょう。こういうのはいかがですか?「結果が伴う自治体PR動画」と言っているのがビデオマッチングという会社のCEOの満居氏です」
「殆どの自治体が観光用のPR動画を作成していますよね。どこをどうすれば良いといっているのですか?」
「カギを握るのは、その地域の『人的資源』だと言っています」
「もう少し具体的にお願いします」
「具体的には、まちおこし団体、NPO法人メンバー、ボランティアの大学生、大学の教職員ですね」
「どのような地域の創造を想定しているのでしょうか?」
「『動画を作れば地方創生が実現するわけではない』と言っていますので、地域内の『動き』を重視していると思います。ただ、具体的には少し分かりかねます」
「ここからが本論です ↓」
目次
「地方創生」ではなく「地域創生」――東京も地域を有機的に創っていく課題が遺っている
大正大学に地域構想研究所というのがあり、その研究所の教授が出席をしています。さらに、高橋学長も出席していますので、大学として地域再生に大いに力を入れていることが分かります。私自身、大学が地域創生の中心的役割を果たすべきと考えていますので、大変良いことだと思っています。
このフォーラムでは「地方創生」というように、「地方」という言葉を使っていますが、大正大学は敢えて「地域」という言葉を使うとのこと。確かに、「地方」という言葉を使ってしまうと、大都市はそこに含まれないことになります。東京、大阪に多くの人が集まっていますが、「根無し草」が多く寄り添っているというのが実状なのです。
つまり、職場や生活の利便性を考えた上で住んでいるだけで、地域の住民として定着して住んでいる訳ではありません。だから、コロナ禍をきっかけに在宅勤務の動きが地方へのテレワークに動き始めた途端に、東京から人口が流出し始めました。そのように、地方に向かうベクトルが発生すると、すぐに反応する位に根が生えていないということです。
実際に、2020年の5月に、2013年以降で初めて転出超過となり、6月は持ち直したものの、7月以降は転出超過が続きました。「その規模は直近8か月で4万人、前年比で13%の減少に相当する」(『日経』2021.1.21日付)ということで、結構大きな移動になっています。
地域創生はフォーマルとインフォーマルの両面から考える
何故、東京はこの間、転出超過になったのでしょうか。簡単に言えば、東京という地域に文化がないからです。下町はそれなりに文化がありますが、特に都心部は何もないと思います。単に、スマートに生活をしたい、都心のシティライフを満喫したいという程度だと思います。今回の転出は23区内からの転出が多かったのは理の当然のことなのです。
地域創生で考えなければいけないことは、人を集めることです。人を多く集めるためには、子育て中の家族を引き寄せ、定着させることを考えます。定着させるためには、地域の中で主体的に活躍する場面を用意する必要があります。
そういった観点から、様々なプロジェクトが日本各地で発進しています。「子ども×自然体験プロジェクト」(長野県小谷市)、「10代~80代が地域で学び起業やスキルアップを目指すプロジェクト」(和歌山県上富田町)、「白滝の里を整備し、自然体験と環境保全の拠点へ」(高知県大川村)、「平和を語り継ぐ桜並木の植栽事業」(熊本県錦町)などです。(以上、JABふるさと開発事業部 提供 https://furu-con.jp)
新しいプロジェクトも良いのですが、古くから行われている地域での祭りや慣習・風習を遺す努力をする必要があります。それらは、先人たちが様々な思いとともに地域の中に遺してきたものだからです。
古いもの、新しいもの、それを後世に繋いでいくためには、その意義を語り継いでいく場がなければいけません。どうしても学校の協力が必要だと思います。そして、それを理解した上で、その役割を担う人材を育てる必要があり、更にそれを継続的な動きにするための組織が必要です。組織には人が集いますので、それを経済的に支えるシステムが必要です。支える主体は行政もしくは地元企業ということになるでしょう。
そこまで出来れば、そのイベントなりプロジェクトは地域の文化として定着するでしょう。そして、それが20年、30年の長きにわたって伝承されていけば、今度は観光資源として外部の人を呼ぶ力となります。
それと同時並行的に、保育園、幼稚園、小学校での活動を親子だけではなく、地域に開放していきます。子供が小さいうちは、親も子育てに夢中になりやすいし、その姿を見て周りも応援したいと思うからです。
このように、フォーマルなものと、インフォーマルなものが有機的に結合できたならば、この地域は自然に人口が増えるものです。
沖縄県はこの実践を行って、人口増加県となっています。よい見本は、沖縄にすでにあるのです。
縦割り行政的な発想が、人口減社会を到来させた
文科省 → 中央集権教育行政、学校統廃合
自治省 → 市町村合併
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総務省 → 地域プロジェクトマネージャー制度(「地域おこし協力隊」)
政 府 → ふるさと納税、地銀再編プロジェクト、デジタル庁の創設
交響楽を演奏する時に、音程が外れた演奏者がわずか1人、2人いただけで、すべて駄目になります。何かを創造することの難しさがそこにはあります。上の模式図は、客観的にマイナスに作用しているものを上に、プラスに作用しているものを下に書いてみました。
官民一体、一糸乱れず同じ方向に努力したいところですが、そうはなっていません。どこか音を外しているかを認識して欲しいと思って作った図です。ただ、この音外れの状態が長年続いたため、逆に多くの人に何の違和感もなく自然に受け入れられてしまっているのです。
「近代国家の形成、高度成長の達成には画一的な中央集権が必要だった。その後、地方分権が叫ばれ、2000年の地方分権一括法の制定を機に、国と地方が上下主従の関係から対等の関係に変化した」(北川正恭 キーノートスピーチ「『産学官金言』の協調を」/日経地方創生フォーラム)
地域創生のためには、地方分権を推進し、官民一体の協力体制が必要と言っていますが、実は教育行政だけは中央集権体制なのです。教育課程編成権も文科省が握っているため、多少の裁量はあるのですが、地域で自由にカリキュラムを組むことはできません。コロナの陽性患者が殆どいなくても、全国の公立小中学校を一斉休校にできるのは、文科省に権限が集中しているからです。
まず、そこを何とかしないといけないでしょう。
読んでいただき、ありがとうございました。