「日経」が、つい先日の1/24~26にかけて世論調査を実施しています。IRを見直すべきという意見が67%です。注目したいのは、自民支持層でも61%が見直すべきとしている点です。ちなみに野党支持層になると、82%がいらないと言っています。
「IR実施法」は、カジノを中心とした統合型リゾートの整備・運営を定めたもので、正式名は「特定複合観光施設区域整備法」と言います。2018年7月に公布され、3年以内に施行される予定です。だから現在は施行の準備期間ということになります。
「IR実施法」の目的が第1条に定められていますが、かなりの長文です。長いということは余り良いことではありません。とって付けたような理屈が、いくつも並んでいることが多いからです。シンプル・イズ・ベストです。
それはそれとして、どのような目的なのかということですが、言葉を拾うと、「経済社会の活力の向上および持続的発展」、「国内外からの観光客の誘致」のためとなっています。「国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現する」ことが、「観光及び地域経済の振興に寄与」し、「財政の改善に資する」としています。
大言壮語を吐いているので、かなり「前のめり」になっていることが分かります。カジノ施設を建てただけで、財政の改善に資する訳がありません。よく、こういう文言を入れたなと感心していますし、ギラギラするものが感じられて厭な文章です。
法律の条文に「魅力ある」という修飾語はいらないと思いますし、「国際競争力の高い魅力ある滞在型観光」の資源はすでに日本にはあるので、観光庁を2008年に設立して、観光立国を打ち出したのではないでしょうか。外国にはない、日本の伝統美、自然美が日本の各地には豊富にあります。その掘り起しを官民一体となって地域ぐるみで行っていく。そして「おもてなし」の精神で心ゆくまで日本の文化を味わっていただき、満足感をお土産にできるような観光の国にするというのが、当初の目的だったのではないでしょうか。
どうして、ここに「カジノ」を入れる必要があるのでしょうか。「カジノ」は西洋賭博です。「カジノ」はマカオや韓国に任せれば良いでしょう。猿真似をする必要は全くありません。
成長する企業は重心を下げるために、絶えず自社のコーポレート・アイデンティティは何なのかを自問自答しています。ただ、中には利益が出そうだからといって、違うことに手を染める企業もあります。本業を忘れて、副業に精を出し始める場合もありますが、大体上手くいった試しがありません。国のあり方・生き方も同じです。
「IR実施法」の第1条の中に「カジノ」という言葉が6回出てきます。ところが、ここで敢えて「カジノ」を新たに導入することについての必然的理由が書かれていません。
この法律が国会で審議された時に、議員は誰もこの辺りについて何も指摘しなかったのでしょうか。条文は言葉が生命(いのち)なので、目を皿のようにしてよく見て欲しいと思います。
新たに法を制定する場合は、必ず日本のアイデンティティを意識していただきたいと思います。日本のアイデンティティ、それは世界のどこ国にもない文化と伝統、そして科学技術です。その特徴をさらに磨き上げることが求められているのであって、脇道にそれることをしてはなりません。正道を歩めば、日本は生き残ることができますが、余分なことを行って自分を見失うと、場合によっては滅びの道に行くことになるかもしれません。
この法律を考えた人は、お金がとにかく入ってくるようになるので、地域経済や国の財政にとってプラスになるだろう程度の思慮のもとに決断をされたと思いますが、浅はかのそしりは免れないでしょう。日本人の感覚は鋭敏なものがあります。約2/3の国民がカジノに嫌悪感をもっています。
なぜなのか、ということですが、日本には「清貧」という言葉があるように、お金は多くの人が汚れた手で触る汚いもの、そういうお金を喜んで欲しがる拝金主義をとりわけ忌み嫌いました。「武士は喰わねど高楊枝」という言い回しもあります。「清貧」に通じる一つの日本人の生き方がそこにあります。
「IR実施法」が施行される前に、すでに贈収賄で逮捕された国会議員が出る始末です。カジノがオープンすると、世界からカネ目当ての人種が日本に集結することになります。安倍首相はカジノだけではなく、家族も楽しめる総合エンターテインメント施設と言っていましたが、カジノ施設とファミリーは結びつかないと思っています。
「IR実施法」の第2条の中にカジノ施設と「我が国の伝統、文化、芸術等を生かした公演その他の活動を行うことにより、我が国の観光の魅力の増進に資する施設」を併設することが書かれています。具体的にどうなるのか分かりませんが、日本の伝統・文化と拝金主義は両立しないでしょう。
IRは2021年中にも、最大3か所の地域が選ばれる見込みです。海外の事業者がその参入を目指して水面下で活発に動いています。横浜市や大阪市が前のめりで動いています。地方自治体の本来的業務は地域住民の暮らしの安全と教育、福祉。きめ細かな部分に目を配り、光の当たっていないところに行政の光を当てることが基本的なあり方。
「庇(ひさし)を貸して母屋を取られる」ことがないようにと願っています。
読んで頂きありがとうございました。