「フィンランドという国を知っていますか?」
「北極の近くにある国でしょ」
「それは、アイスランド!」
「ディズニーランドならよく知っているんですけど……」
「あのね……。フィンランドはロシアとスウェーデンにはさまれた北欧の国です。日本と置かれた地理的環境が全く違うのですが、自分たちのアイデンティティを確立して立派な国づくりをしています」
「ロシアと国境を接しているのですか……。大変そうですね。ただ、どうしてまた、その国のことを」
「ロシア・ソ連という大変な隣人との付き合いが今一段落して、少しホット一息をついているところです。日本は太平洋と日本海に囲まれていることもあって、敗戦後の一時期を除いて、他国に占領された歴史がありません。そういうこともあり、国民の国防意識が極めて希薄だからです」
「尖閣付近の領海内で日本漁船が追尾されたというのに、知らん顔しているマスコミもありますからね」
「それと未だに9条さえ守っていれば平和が維持できると本気で考えている人もいる位ですからね」
「さすがに最近は少なくなってきましたけどね」
「大国と国境を接しているがために、常に国防のことを考え、そのためには相手に迎合的な外交戦術を駆使しながら難局を乗り切り、経済的成果を挙げているのがフィンランドです。その歴史を概観するなかで、日本としても学ぶべき点が多いと思いますので、見ていきたいと思います」
「他国の歴史から学ぼうということですね」
「学ぶ姿勢と問題意識さえあれば、他国の歴史からも学ぶことができると思います」(ここからが本論です。以下、続きます)
フィンランドの苦難の歴史
フィンランドの位置を確認したいと思います。スカンジナビア半島の東側、ちょうどロシアとスウェーデンの両国に挟まれたように位置しています。
よりによってと思うような位置にいます。実際にその歴史を調べてみますと、フィンランドをスウェーデンとロシアがキャッチボールのように領土を取りっこしています。
『世界各国便覧』(山川出版社.2009年)によりますと、1世紀頃に東方からフィン人がこの地方に移動してきて住み着いたようです。その後13世紀にはスウェーデン領となります。18世紀にはロシアによる戦争・占領があり、人口が30万人まで減少したそうです(現在、約600万人)。19世紀にはロシア領となりますが、1917年のロシア革命の際の混乱に乗じて独立を宣言します。
独立を果たしたものの、そこから苦難はさらに続きます。1939年にソ連に領土の一割を割譲されます。フィンランドは、隣国ロシアとヨーロッパのどの国よりも長く国境を接している国です。ロシア民族は、領土的野心が非常に強い国です。国土の1割を割譲された戦争の時は、10万人の戦死者が出たそうです。総人口の割合にすると2.5%になり、日本の人口を仮に1億人として計算すると、250万人という数字になります。
第二次世界大戦後はソ連と友好関係を築きつつも、東側の軍事同盟であるワルシャワ条約機構には加盟せず、中立政策を実施します。ソ連の崩壊後、ソ連経済と結びつきが強かったため、フィンランド経済は深刻な影響を受けます。しかし、そこから立ち直ってからは西欧諸国に接近し、1995年にはEUに加盟し現在に至っています。
フィンランドのアイデンティティ
その国が他国と対抗して存立していくためには、国家の中心軸とアイデンティティ、そして国家目標を定める必要があります。その3つが崩れた場合は、国は崩壊に向かっていきます。フィンランドは、この3つがきちんと揃っています。
中心軸の役割を大いに果たしたのが2人の大統領です。特に、「国家の乗っ取り」を図ろうとするソ連相手に2人の大統領による「予防外交」が戦後のフィンランドの危機を救っています。「予防外交」というのは、「危機が間近にくる前に察知し、危機を回避する対策を講じることである――望ましいのは、対策が講じられたこと自体が察知されない方法」(ジャレド・ダイヤモンド『危機と人類 上』日本経済新聞出版社.2019年/115ページ)というものです。
時には外部から、ソ連に迎合していると言われながらも「パーシキヴィ=ケッコネン路線」(2人の35年間にわたる綱渡り的な名外交のこと)により、「ソ連から国の独立を守り、経済発展を遂げるというふたつの目標を実現した」(ジャレド・ダイヤモンド 前掲書.118ページ)のです。
フィンランド人は、独特のフィンランド語を使います。フィンランド語は「インド・ヨーロッパ語族とはまったく関係のない、ヨーロッパでは数少ない言語のひとつなのだ」(ジャレド・ダイヤモンド 前掲書.78ページ)。それが彼らの民族の誇りでもあり、アイデンティティです。団結の基盤ともなっています。
教育に力を入れて、科学技術立国として自立していく
ロシア、ソ連と戦っている間、ヨーロッパのどの国も援軍をフィンランドに出すことはありませんでした。変に助けを出せば、それを口実に攻撃されると思ったからでしょう。そういった歴史の中から、いかに自立するか、どうすれば自立できるかを必死で探ったのだと思います。場合によっては、国が無くなってしまうという恐怖心が国全体を覆ったこともあったでしょう。
戦後、2人の良き指導者に恵まれたということもあり、1人当たりのGDPは世界16位で約5万ドル(2019年)です。日本(24位)の1.25倍、経済成長率は2.4%(2018年)、国際競争力(IMD発表)は15位(日本は30位、2019年)です。サンナ・マリンという34歳の女性首相が昨年末に誕生しましたが、世界最年少の首相です。
(サンナ・マリン)
その辺りの「鍵」は教育改革にあるようです。「フィンランドでは教員採用の競争が非常に激しく、もっとも優秀な学生が教員になる。社会的地位は高く(大学教授よりも上)、給与も高く、全員が大学院の学位をもっており、教授法についても大きな裁量がみとめられている」(ジャレド・ダイヤモンド 前掲書.119ページ)のです。日本とは見事に真逆ですが、その結果、フィンランドの生徒たちの学力はPISA(読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシー)で世界トップクラスに入るという結果になっているのです。
フィンランドでは、2019年4月に「働き方改革関連法」が施行されたそうです。その結果、一般的なビジネスアワーは午前8時〜午後4時までとし、企業で働く人々には、週休2日制、夏季休暇4週間、冬季休暇2週間、未就学および就学児童がいる家庭はこれに加えて秋休み1週間、スキー休暇1週間などの年次休暇が与えられます。現在は、週休3日制の導入を検討する考えとのこと。そんなこともあり、フィンランドは2年連続して幸福度世界1位の国となったのです。
(参考: 堀内都喜子『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』ポプラ新書.2020年)
日本との比較
国家が国家として繁栄していくためには、中心軸を定め、アイデンティティを確立し、基本戦略を立てます。企業も同じです。先日、会社更生法を申請した「レナウン」ですが、指揮系統という中心軸がぶれて、中国企業の傘下に入って基本戦略がはっきりしなくなったからです。時流にも乗り遅れました。「昔の名前で出ています」は、バーチャルな世界だけにしか通用しません。国家も会社も現実世界の法則で動きます。
日本の場合は、中心軸は皇統です。これをさらに安定したものにする必要があります。アイデンティティの確立のためには、日本語という世界的に珍しい言語文化を中心にして、様々な日本文化を発展させることです。
敢えて言えば、基本戦略が問題でしょう。まず、観光立国という他律的な戦略は駄目です。コロナ禍であっという間に目算が狂いました。何かあるとすぐに吹き飛ぶようなものは、戦略の柱としてはふさわしくありません。アベノミクスは中心戦略にはなりません。国がその時々の経済情勢に合わせて財政政策を行うのは、ある意味当たり前で常識だからです。
これからのAI時代、さらにはナショナリズムの時代を見据えて、考えるべきことは人材育成でしょう。時代が見通せなくなった場合は、足元を照らした上で足元を固めながら進むことです。そうないと、転んだり、誰かが仕掛けた罠にはまるからです。不確実な時は、原点である人づくり、教育のあり方をフィンランドあるいは戦前の日本を見習って策定したらいかがでしょうか。
フィンランドの教育戦略は、実は1941年と44年のソ連戦の中から学んだことだったのです。継続戦争と呼ばれる戦争ですが、幼い子供たちはすべて隣国のスウェーデンに疎開させ、徴兵制を復活させます。「兵役についたのは16歳から50代前半までの男性だが、前線近くで戦う女性もいた。性別に関係なく、軍務に就かない15歳から64歳までのすべての人が軍需産業、農業、林業など防衛上必要とされる職場では働かなければならなかった」(ジャレド・ダイヤモンド 前掲書.106ページ)のです。まさに総力戦でしたが、ヨーロッパの国の誰もが、そして戦っているフィンランド人もこの戦いは負けると確信していたのですが、ゲリラ戦を展開して持ちこたえます。現場の兵隊たちに工夫して戦うように命じたのです。それぞれの持ち場に応じた作戦がとられ、ソ連軍の足止めに成功します。
戦後になり国を立て直す時に、人材育成を考えるのですが、現場の教師の力量を高め、権限を与えることをします。子供たちや現場の状況に合わせて、カリキュラムを組む権限を与えます。
日本の場合は、文科省による中央集権教育体制がとられ、反日的な学者が書いた教科書を現場で使わされています。当然、教育は歪みます。フィンランドのように現場の教師に権限を与えろとまでは言いませんが、教育も地方分権の時代だと思います。
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