
「「常民」という言葉を知っていますか?」

「さあ、どなたの言葉ですか?」

「民俗学者の柳田国男さんの言葉です。政治体制がどのように変わろうとも、庶民の暮らしは「常に変わらず同じである」というところから名付けられた言葉です」

「初詣やお祭り、豆まきや雛飾りといった庶民の習俗のことですか?」

「そういった行事も含めて、地域で行われている様々な生活模様を柳田さんは大事に考えたのです」

「そのような視点が歴史を視る場合、重要ということでしょうか?」

「そうですね。今までは、どちらかというと歴史学と民俗学という感じで、お互い我が道を行くという状況がありました」

「どうして、独自の道を歩み始めたのですか?」

「近代日本の歴史学は、公文書、政治記録、書簡といった文字資料を読み解くことを重視しますが、民俗学は史料に残らない口承、風習、祭礼、民話といったものを重視します」

「問題意識が違っているのですね」

「役割分担の考えで別々になっても良いのですが、総合する作業をしないといけないと思います」

「ここからが本論です ↓表紙は「キャリアガーデン」の提供です」
常民社会と日本文化
社会構造そのものを変える革命的な転換があったとしても、人々の日常生活は依然として村落共同体を中心に営まれていた。この生活を送る人たちを柳田国男は「常民」と名付けたのです。つまり、柳田国男が言う「常民」とは、土地に根ざして生活を続けてきた普通の人々です。彼らの生活は長い時間をかけて文化を継承してきたため、大きく変化することはないのです。常民社会は、日本文化の基盤を形成してきた存在です。農村共同体や町人社会の中から、多くの文化が生まれてきました。
奈良・平安の文学、室町文化、江戸の町人文化など、日本文化が豊かに花開いた時代の多くは、常民社会が活力を持っていた時代でもあったのです。紙数の関係で、江戸時代を振り返ることにします。
江戸時代を振り返ると、まず驚かされるのは文化の豊かさです。わずか二百六十年ほどの間に、日本文化は幾度も花開きます。元禄文化、宝暦・天明期の文化、そして化政文化と、時代ごとに新しい文化が生まれ続けたのです。

(「NHK」)
連続して花開いた江戸文化
文学、絵画、演劇、出版、学問など、文化の領域は多岐にわたります。井原西鶴、松尾芭蕉、近松門左衛門に代表される元禄文化、与謝蕪村や上田秋成などの宝暦・天明期の文化、そして十返舎一九や葛飾北斎、歌川広重などの化政文化に至るまで、江戸時代の文化は極めて多彩です。
このような文化の広がりを支えた重要な要因が教育です。江戸時代の終わり頃には、日本の識字率は七割から八割に達していたと推定されています。これは当時の世界の中でも非常に高い水準です。その背景には寺子屋教育がありました。町や村には多くの寺子屋が設けられ、読み書きや算術が教えられていました。また各藩は藩校を設置し、儒学や兵学、さらには蘭学などの新しい知識を積極的に取り入れていようとしていたのです。
教育によって人材が育成され、その人材が文化を生み出す。この循環が江戸社会には存在していたのです。江戸時代を高く評価した作家の 司馬遼太郎 が「江戸時代は立派な時代である」と述べたのも、この文化的厚みを見てのことだと思われます。

(「taketakechop の小話の世界」)
地方分権と競争が生んだ社会
江戸文化の豊かさは、単なる偶然ではありません。その背景には社会構造がありました。江戸時代は地方分権の時代だったのです。徳川幕府が全国を直接支配していたわけではありません。日本列島には約300の藩が存在し、それぞれが一定の自治権を持って統治を行っていました。大名は自らの藩を運営し、農業、生産、教育、財政などの政策を独自に進めていたのです。
ここで重要なのは、武士が土地の所有者ではなかったことです。武士は領主ではなく、徴税権を持つ統治階層でした。領地そのものは固定的な私有財産ではなく、将軍の命令によって領地替えが行われることもあったのです。つまり大名にとって、自らの藩を繁栄させることが極めて重要な課題でした。農業生産を高め、商業を発展させ、藩の財政を安定させることが求められたのです。
そのため大名は常民の生活を無視することができませんでした。農民や町人の生活が疲弊すれば、藩の生産力そのものが低下してしまうからです。農民の評判が悪ければ領地替えや改易の危険もありました。
この構造は、一種の競争社会を生み出していたと言えます。そのため、各藩はそれぞれの方法で生産力と民力を高めようとしていました。農業改革、産業振興、教育の充実、行政改革など、さまざまな政策が試みられていたのです。江戸社会は、分権と競争が組み合わさった社会でした。その中で常民社会の活力が引き出され、多彩な文化が生み出されていったのです。

(「学びエイド」)
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