「卒業した大学の学部は、確か文学部でしたよね」
「ええ、そうですが……。突然、どうしたのですか?」
「今日の『日経』に「さよなら文系大国」という記事(12/17日付)があったので、つい聞いてみたのです」
「文系の学生が多いのですか?」
「約半数が文系の学生です」
「文系と理系、半数ずつでバランスが取れていると思うのですが、ダメなんですか?」
「結局、どういう国づくりを考えているかに関わってくると思いますが、科学技術立国を目指すのであれば7対3くらいだと思います」
「そうなんですね。何でも半々であれば良いというものではないのですね」
「『日経』が各国の理工系学生の割合を掲載していますが、これを見ると日本はかなり低いことが分かります」
「そうですね。OECDの平均が27%に対して、日本は19%程度ですものね」
「今、話題の韓国が32%、ドイツは37%です」
「私は高校の数学の授業と進路指導の問題が多分にあると思いますけど……。高校の数ⅡBで落ちこぼれてしまいました」
「経験者は語るですね。とにかく日本の大学、特に人文社会科学系、いわゆる文系学部が厳しい状況に置かれています」
「ここからが、本論です ↓ 表紙写真は「www.ac-illust.com」提供です」
日本の大学は「帝国大学令」から始まった
欧米の名門大学は、近代国家成立以前に創設され、近代国家が建設されるにあたって、そこで育った人材が大きな役割を果たします。例えば、イギリスの名門オックスフォード大学の創設は1096年だと言われています。アメリカのハーバード大学は1636年の創設です。日本の場合は、江戸時代の藩校で育った人材が明治時代に活躍するのですが、その藩校は廃藩置県の施策の中で取り潰されます。
そんなことから明治政府の主導で帝国大学が創設されることとなります。1886(明治19)年に帝国大学令が制定され、その第一条に「帝国大学ハ国家ノ須要ニ応スル学術技芸ヲ教授……」することが謳われます。国家に有為な人材を養成するという目的のために設立されたことが明記されています。学問や真理探究のためではないということです。
最初に創設されたのが、東京帝国大学です。その後、京都、北海道、東北、名古屋、大阪、九州の帝国大学が創設されます。明治政府が中央集権国家を目指したので、中央で働く官吏を養成する必要が出てきました。その期待に応えるべく誕生したのが帝国大学だったのです。現在も東大からは多くの上級公務員試験に合格しています。戦前からの伝統がいまだに受け継がれているということです。
(「三井住友トラスト不動産/東京帝国大学」)
日本に文系学部が多い理由
官主導の大学が作られ、その後政府の要職にあった人たちが私立大学を設立するという流れが起きます。大隈重信の早稲田大学、山田顕義の日本大学がそうです。帝国大学は戦後に国立大学となるのですが、もともとの「エリート官吏の養成機関」という残滓(ざんし)を引きずっていくことになります。戦後の私立大学は、そういった影響を多分に受けつつ、併存状態でここまで来たのだと思います。そして、もともとの出発が官吏養成機関が出発だったこともあり、比較的文系学部が多いのです。
大学というのは、もともとは学問の府です。勉強はすでに答えが分かっていることを理解するためのものですが、学問は分かっていないことを探究するために行うものです。だから、何かを探究するためのグループが最初自然発生的に出来て、やがてカレッジが成立をし、それが一つのユニバーシティを形成していくことになります。その過程における様々な学問成果が人々の敬意を集めることになります。
ところが、日本の場合は、上からユニバーシティを創設し、大学に権威を与えたのです。戦後に大学の進学率が高まりますが、受験生は真理の探究ではなく、権威を求めて大学進学を目指すようになったのです。
(「Life Journy Education」)
「総合文系学部」の創設を
権威を維持するためには、希少性を維持する必要があります。その「手綱さばき」を文科省は誤ります。90年代以降、18歳人口の減少が始まったにも関わらず、大学の認可申請を素通ししたため、大学や学部が増え続けることになります。戦後の新制大学発足時には大学の数が約200校位だったのですが、90年には約500校となり、ここで止める必要があるのですが止まりません。中央集権国家には、よくあることです。戦前の陸軍と同じで止まらなくなるのです。
2000年に650校、2010年に780校になります。少子化が進行していますので、当然経営悪化となります。2024年度のデータですが、入学の時点で定員割れをしている私大は全体の59.2%です。私立短期大学に至っては、約9割が定員割れとのことです。私大経営者にとって冬の時代に入ったということですが、これからは大学の原点に返って、真理探究の府として出直すことを提言します。
そのためには定員割れが激しい文系学部の再編を提案します。「総合文系学部」としてありとあらゆる学問を総合的に学ぶカリキュラムを導入して、総合的に思考し、機動的に行動できる文化人を養成して欲しいと思います。法学、経済学、社会学、文学というように、専門を細かく分け過ぎです。理系分野の学問は細かく分析することにより新しいものが発見されることがありますが、文系の学問は総合することによって新しいことが発見できます。学問体系で特に気になるのが文学部史学科です。歴史学が他の学問分野よりも下に扱われていますし、他の学問分野を学ぶことができません。そして、経済は分かるが、法律は分からない。歴史は分かるが、経済のことは分からない。これでは現代の複雑な社会を読み解くことはできません。社会の様々な分野のリーダーとして生きていく上では、文系の学問を総合的に学ぶ必要があると思っています。そして、歴史学を必修科目とします。
(「AGU NEWS-青山学院大学」)
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