「パンデミック条約の採択が見送られましたね」
「私の友人が大変なことになるって騒いでいたのです。彼女に聞いても何が問題なのかよく分かりませんでした」
「コロナの時の教訓を踏まえて、WHO(世界保健機関)が考え出したものです」
「そもそも、パンデミックというのはどういう意味ですか?」
「世界的大流行という意味です。コロナ騒ぎ、つまりパンデミックがありましたよね。今度あのようなことが、もし起きたならばどうすべきなのかをWHOの立場から考えたものです」
「今聞いた感じでは、特に問題はないと思いますが、結構様々なところで反対運動やデモも行われていたと思います。あれはどうしてですか?」
「実は、私もよく分からないのです。そもそも条約について国際機関で協議中の案件でデモをする意味がないと思っています」
「だから、マスコミもほとんど報道しなかったのですね」
「そうだと思いますし、条約についての誤解が恐怖心を煽った部分もあると思います」
「パンデミック条約が通ると、ワクチン強制接種が始まるかもしれないと私の友人は言っていましたからね」
「仮に通ったとしても、そんなことが出来るはずがないのですが、結構真剣に心配していた人もいたようです」
「政党の中には、パンデミック条約を危険な条約として問題視していたところもあります」
「実は、採択協議は2021年末から行われていたのです。ですから足掛け2年半の協議を重ねるうちに、様々な憶測が流れたのだと思います」
「ここからが本論です ↓ 表紙写真は「ロイター」提供です」
なぜ採択できなかったのか――埋まらなかった「溝」
総論賛成、各論反対ということだと思います。「パンデミックの予防及びサーベイランス能力を段階的に強化」(第4条)、「人、動物、環境の分野横断的な連携を通じ、ワンヘルスアプローチを推進」(第5条)、「保健システムの 開発、維持及び強化」(第6条)などの条文は、特に問題なく同意できる箇所です。
特に問題となったのは、「医療製品の製造技術及びノウハウの移転を促進する」(第11条)と「特に途上国のパンデミックの予防、備え及び対応に関する能力を持続可能であるように強化するために協力する」(第19条)といった条文です。
第11条が具体的に求めているのは、製薬会社から新興国への技術移転やWHOへの医薬品供給などです。一つの薬やワクチンをつくるためには長い時間と膨大な研究開発費が必要です。製薬会社からすれば、「パンデミック」という理由だけで何で技術移転をしなければいけないのか、大いに疑問が残るということでしょう。さらに第19条は、途上国への協力義務を謳っていますが、いつまでも先進国を頼るのではなく、自国で人材を育て、何とか工夫して国家運営を行い、自立して欲しいというところでしょう。そもそも、先進国、途上国の判断に困る国もあると思います。
(「TBS NEWS DIGーTBSテレピ」)
採択の見通し立たず
新聞報道によりますと、WHO総会は国際条約「パンデミック条約」の採択を見送ると同時に加盟国間の交渉を最大1年延長する方針を定め、6月1日に閉幕したそうです。
ただ、その一方で「国際保健規則(IHR)」を全会一致で改正しました。感染症の拡大が「緊急事態」よりも深刻化した場合に「パンデミック緊急事態」を発令することを可能とする規定を盛り込んだのです。感染症が「複数の国家にまたがって広がる」「重大な社会、経済的混乱を引き起こす」可能性がある状況などと定義し、国際社会により高いレベルの警戒と国際協調を促しています。そういった総論部分においては、どの国も反対する理由はないと思います。
(「ロイター」)
パンデミック条約反対デモ――過剰な反応
5月31日の日比谷でのパンデミック条約に反対する集会・デモを毎日新聞が報じています。集会名は「WHOから命をまもる国民運動大決起集会」だそうです。テドロスWHO事務局長の解任やWHOからの脱退を求めたとのこと。平日の昼間にも関わらず、集会に約1万2千人が集まったとのこと。その後に行われたデモの様子を写した写真がインターネットで見ることが出来ます(『zakzac by 夕刊フジ』)。日の丸が乱舞するデモというのも珍しいと思います。
条約そのものが総会で議論している段階です。はっきり言って意味のない集会・デモだと思います。仮に条約が成立したとしても、その条約を批准して初めて国内で法的効力を持ちます。「ワクチンの強制接種」という変な噂を信じている人もいるようですが、そんなことが出来るはずがありません。条約を批准しても法律と同等の効力です。上位法である憲法で個人の自由権を保障していますので、接種するかどうかは個人の選択の自由となります。何ら騒ぐことでもないと思います。
毎日新聞の記者が「ここに集結した人々は、現状とかけはなれた異世界、パラレルワールドに住んでいる」と述べていますが、私もそう思います。
(「ZAKZAK」)
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