
「前回の話で、国体の意味が少し分かったような気がします」

「議論が錯綜としていたのは、「シラス-ウシハク」のことを理解しないまま議論するからです」

「私は今の象徴天皇制が伝統のかたちだと思っていました」

「古代の天皇は権力者でしたが、天武天皇の時代からシラス者、つまり権威者として権力者をサポートする側に回ります」

「それが江戸時代まで続くのですよね」

「そうですね、京都にある朝廷と幕府とで共同して統治をするかたちをとります」

「その時代をお手本にすれば良いのではないかと思いますけど……」

「歴史学者の中からも、江戸時代を見直すべきという意見が出ています。司馬遼太郎さんなんかも、晩年はそういう発言をよくされていました」

「普段は幕府に任せるけれど、国にとって大事なことについては意見を言ってもらうということですね。井伊直弼が勅許を得ないまま外国と通商条約を結びましたが、制度化されたものではなかったのですね」

「一つの盲点であったことは確かです。朝廷の意向を聞かない、そういうことはまず起きないだろうと誰もが思っていたのです」

「それが一つの前例となって、明治の時代に常態化するのですね」

「日清・日露戦争、そして先の大戦について、歴代の天皇はすべて反対の意思表示を示しておられます。意見を言う場面も制度も設けられていましたが、すべて無視されたかたちです」

「シラス者になってもらえば良いと思っていますが、どのようなシステムにするかというのは、もの凄く難しい問題なんですね」

「ここからが本論です ↓ 表紙は「precious.jp」提供です」
「象徴」天皇の歴史はわずか80年
日本の皇統は、1945年の敗戦を機に大きな転換点を迎えました。戦前の大日本帝国憲法では、天皇は「統治権の総攬者」とされ、表面的には国家の最高権力を握る存在と位置づけられていました。しかし、ポツダム宣言の受諾とGHQによる占領政策のもとで、このような位置づけは根本から見直されることになります。
1946年1月、昭和天皇はいわゆる「人間宣言」を発し、神格化の否定を公表しました。そして、同年公布・1947年施行の日本国憲法において、天皇は「日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴」と定義されました。これがいわゆる象徴天皇制です。
この制度は、天皇を政治から切り離しつつ、精神的な支柱として国民の前に存在させるという、いわば“矛盾を内包した設計”だったと言えます。明確な役割や権限を持たず、あくまで「象徴」であるという表現に留められたことで、天皇の活動範囲や発言のあり方には、今もなお解釈の幅と制限がつきまとっています。象徴天皇制は、戦争責任の所在を曖昧にしつつ、国体を形だけ温存するための妥協の産物でもあったのです。
(「line store」)
「象徴」であり続けることの限界
象徴天皇制は、戦後日本の民主主義体制と調和させるために制度設計されましたが、時間の経過とともにさまざまな矛盾や限界も浮かび上がってきました。そのひとつが、「象徴とは何か」という問いに対して明確な答えが出せないことです。
天皇は政治に関与しないことが求められていますが、一方で「国民統合の象徴」としての役割を果たすことも期待されています。しかし、この期待と制限の間には常に緊張関係が存在します。政治的な発言はできず、国民の意見を代弁することもできないまま、沈黙を貫かなければならない場面が多いのです。
また、現代のように価値観や社会構造が多様化した時代において、「国民の統合」という任務自体が極めて困難になっています。天皇が国民全体を精神的にまとめるという役割は、果たしてどれほど現実的なのか。平成時代の退位問題においても、制度が天皇の高齢や心身の状態に対応しきれていないことが明らかとなりました。
象徴天皇制は、平和主義の象徴としては機能してきた一方で、制度的な補強や再定義がないままでは、形骸化や機能不全を起こす危険を孕んでいるのです。
(「line store」)
天皇制の未来と「安定的皇位の継承」
これからの日本社会において、象徴天皇制のあり方を再定義する必要があります。象徴という抽象的な概念を具体化し、天皇がどのような社会的役割を果たし得るのかを制度として整理することが重要です。もともとシラス者としての役割を千年以上果たして来られたのですから、そこに戻すことを考えるべきでしょう。
欧州の立憲君主制、たとえばイギリスや北欧諸国では、君主が政治的には中立でありながら、文化・教育・福祉などの分野で積極的に社会貢献する姿が見られます。日本でも同様に、社会的重要課題について意見を述べたりできる場面を考えるべきでしょう。
象徴天皇制は、「守る」だけで成り立つ制度ではなく、「育てる」必要がある制度です。天皇が単なる形式的存在にとどまらず、時代の中で信頼と尊敬を得られるような存在として制度的に支えること。それこそが、象徴天皇制の持続可能性を確保するための鍵となるのではないでしょうか。シンボルではなく、シラス者としての地位に戻すことを考える必要があります。現行憲法を改正しなくても、それは可能です。
また、制度の持続性という観点からは、「安定的皇位の継承」が避けて通れない課題です。現行の男系男子継承が「日本のかたち」であり、文化でもあるので、それを守るためにどうするのかということですが、すでに現在、衆参正副議長の下で進められている議論は、岸田文雄内閣の下での有識者会議の報告書の内容を踏まえて行われています。有識者会議は、①女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持して皇室に残る②旧宮家の男系男子を皇族との養子縁組で皇室に迎える―をセットで示し、①②で皇族数の確保ができない場合は③旧宮家の男系男子を直接、法律によって皇族にする―との案を示しています。国会は議論を前に進めるべく努力をして欲しいと思っています。
(「日テレNEWS NNN-日本テレビ」)
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