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文科省の「大学全入政策」批判 / 大学改革3つのキーワード――開放化、IT化による単位互換性、地域再生

「書店の雑誌コーナーで表紙を見て、ついつい買ってしまいました。『Wedge』の8月号です」

女性

「特集「大学はこんなにいらない――迷走する教育 増殖する大学」ですか。なるほど……。ところで、読後の感想など……」


「もう少し突っ込んで欲しかったというのが率直なところです。大学問題については、このブログでも話題にしたことがありますが、社会の関心が今一歩なので、こういう問題提起をしてくれる雑誌は珍しいのです」

女性

「大学入試には関心がありますが、大学経営とか、大学教育については関心がないと言いますか、私の及ばない世界という感じです」

「それが国民の一般的な意識かもしれません。ただ、その意識を「隠れ蓑」にして文科省が「変な動き」をしたのが、この平成の30年間だったと思います」

女性

「平成ということは、令和の今は、もう大丈夫ということですか?」

「鋭く突っ込みますね。令和の現在も、その延長線で蠢(うごめ)いています」

女性

「まさに迷走する教育、迷走する文科省ということですね」

 「今日(7/24)の『日経』の1面記事ですが、「遠隔学習 端末配備に遅れ」とあり、小中向けで年内配備ができないのが、全体の8割に及ぶとあります」

女性

「これは自治体のデジタル化の遅れとも関係しているんでしょ?」

「そうですね。簡単に言えば、自治体の首脳部の方々の頭がアナログなので、デジタル化のイメージが湧かず、どうしても遅れてしまうということです」

女性

「どうすれば良いですか?」

「デジタル化の「旗振り役」を誰か決めて、その人を中心に業務のデジタル化を進めるということだと思います」

女性

「教育のデジタル化は、OECD加盟国の中で最下位(2018年統計)だったそうです」

「文科省といった官僚組織の場合、トップの問題意識が重要です。トップの問題意識が低いと官僚は勝手なことをやり始めます。政府の人事方針の問題もあります」

女性

「それは、どういうことですか?」

「過去20年間で20人の文科大臣。これでは、腰を据えて日本の教育や科学技術について頑張ろうという気持ちは起きません。官僚が勝手なことを考えて、勝手なことをやり始めますし、現に今までがそうでした。まず、そこから直す。直せなければ、地方に権限を委譲してしまう」

女性

「コロナの対応もあるので、地方に移して欲しいと思います」

「人口減対策にもなると思います。これについては、どこかで話をしましょう」

女性

「ここからが本論です ↓」




 無計画に大学だけ増やした文科省


18歳人口が1992(平成4)年をピークに減少しているにも関わらず、平成の約30年間に大学数は約1.5倍に増えました。2018年統計で、私立大学 587校、短期大学 315校ありますが、その入学定員をすべて合計すると、484,686人になります。

国公立大学の定員合計の約9万5千人を足すと、約58万人になります。この数は、大学入試センター試験の受験生(2020年度/55万7698人/利用大学数は過去最多の858校)より約2万人多い数です。センター試験を使わないで入学する生徒もいますが、センター試験の受験者数より大学の受け入れ定員が多いという事実はある意味問題でしょう。定員割れが起きる大学が当然のように発生してしまいます。

そんなことは、普通の頭があれば分かることですが、こういう状況の中でも「私立大学も新設が進む。だが、約600ある大学のうち、約3割が定員割れを起こしている。また赤字経営の大学は約4割にのぼる」(「日本の研究力向上に必要な大学の『規模』の見直し」『『Wedge』8月号』)あり様です。

これから少子化が本格化しますので、それらの割合が増えることは間違いありません。

ただ、問題はそれだけで留まりません。大学には私学助成金が支払われているからです。定員割れするような受験生に不人気の大学にも、多くの血税が投ぜられます。教育予算は限られています。結局、そういうことにお金が回された挙句に、公立小中への端末配備、環境整備が遅れたりします。

なぜ、私大の乱立といったことが起きたのでしょうか。簡単に言えば「天下り行政」が生み出した弊害です

文科省は大学の設置について、許認可権を握っています。少子化の中での大学設置、当然経営難が予想されるにも関わらず、設置の認可をする。一瞬首をひねりますが、再就職先のポストを増やすために大学の設置を許可したと考えれば、一応辻褄は合います。

「天下り」について、元文科省幹部だった寺脇氏は「……先輩の紹介などで私立大学の学長、副学長、理事長、理事、教授、事務局長などに就いている例が多い。かく言うわたしも定年を待たず54歳で退職した後、京都造形芸術大学の教授として職を得ている。文化庁で仕事をご一緒し、個人的にも私淑した河合隼雄元文化庁長官の勧めでこの大学の門を叩いた。現在の文部科学省キャリアの再就職先は、圧倒的に私立大学が多数を占めている」(『文部科学省』中公新書ラクレ.2013年/225-226ページ)。

小中高までは教員免許が必要ですが、大学の場合はそれは必要ではありません。理事会で履歴を含めた書類審査をするでしょうが、理事長や学長との繋がりを生かして容易に再就職できてしまいます。多くの私立大学を天下りの受け入れ先として確保するという発想で動いたとしても、不思議ではないでしょう。

 大学改革3つの柱  

今後において、考えることは3つです。1つは、大学の設置認可についてです大学の設置認可事務は「大学設置・学校法人審議会」で密室審議の上、最終的に文科大臣が決定します。文科大臣の専権事項になっていることが問題です(学校教育法第60 条の2)。

ただ、20年間で20人も文科大臣が変わるような状況では、ほとんど「めくら判」だと思います。法を改正して、設置認可については、国会報告事項とする等、透明性を担保した方が良いでしょう

2つ目は、大学授業改革の一環としてのITの活用です。コロナ禍は今後しばらく続くことが予想されます。マスプロ授業の実施は、当面できないことが予想されます。そういう状況下だからこそ、オンライン講義を積極的に導入したらいかがでしょうか。

アメリカのミネルバ大は開校6年目ですが、キャンパスがない大学です。講義はすべてネットを通して行われます。大変な人気で、「ハーバードよりも行きたい大学」と言われているそうです(「大学に迫る地殻変動」『日経』2020.7.9日付)。アメリカには、提携する他大学の単位を取ることができるシステムを導入しているところもあります。そういったシステムを使って、二重学位をとる学生もいるそうです

大学の枠を固定的に考えないで、例えば地方の単科大学は都市にある総合大学と提携関係を結んで、ある講義の単位については互換性をもたせるといったことを考えても良いのではないでしょうか。

文科省は、今年からデジタル技術を駆使した大学の授業改善に乗り出すようです。今のようなことを考えているかどうか分かりませんが、関係者の提言と努力に期待したいと思います。

将来的には、国内にいて、海外の大学の講義を聴く、そしてゼミにも参加するといった時代がすぐに来ると思います。午前中にオックスフォード大学の講義を聴いて、午後の3時からハーバード大学のゼミに参加し、なんていうことが当たり前のように行われ、もしかしたら「留学」という言葉すら死語になる時代が来るかもしれません。

3つ目は、地域に開かれた大学を目指して欲しいということです。大学全入時代の大学は「象牙の塔」であってはいけません。学生にも地域の住民にも開かれた大学を目指すことが大事だと思います

教養講座的なものを大学で行っても良いと思いますし、市民の中にはすぐれた技術、技能を持った職人や芸術家もいるでしょう。そういう地域の人材を生かす、時には学生と交流する、大学を地域文化発信の場として位置付けるという捉え方をする必要があると思います。

未来の大学像と地域創生を有機的に結び付けて考えることが重要だと思います

読んで頂きありがとうございました。

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