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【書評】『檻の中のライオン』感想。 誤った憲法観が子供や国民に広がる

無題

内容紹介
憲法は権力をしばるもの。憲法を「檻」に、権力を「ライオン」にたとえ、イラストで解説。立憲主義がわかる憲法の入門書。
内容(「BOOK」データベースより)
ライオン=権力、檻=憲法で語るいま、一番わかりやすい憲法の入門書。 (Amazon)

Amazonでの評価☆4.5(2020/01/06現在)

感想

憲法を檻、権力者をライオンに例えて作られた憲法読本であるが、所詮は思い付き、巧みなレトリック(修辞法)を用いたかのように見えるが、突っ込みどころ満載の代物である

憲法は、中学の公民、高校の政経や現代社会でも扱うし、さらに大学で専門に学ぶ人がいる。

基本書の中には、かなり分厚いものもある。

その位の時間と労力をかけて学ぶものを、1つの例え話で説明できるはずがない。

無題

無理なことをやろうとしている、その狙いは一体何なのかと思ってしまう。

絵本にしたということは、小学生あたりの低年齢の子供たちをターゲットにしている。

それが普遍的な考えのものであるならば良いが、社会科学関係のものは、いろいろな見方や考え方があるので、単純に絵本にして、自分たちの見解を広げようとするやり方には反対である。

幼い者たちは、物事を批判的に見ることはできない。

大人に言われたことを素直に聞くしかない。

そういう年齢の子供たちに、ある特定の考え方を植え付けることは、ひいては彼らの思想信条の自由を奪うことになる。

各地で講演活動をしているとのこと。

子どもを巻き込むのだけは、やめていただきたいと思う。

この絵本のベースとなっている憲法観はいわゆる「東大憲法学」の立場に立ったものであり、憲法学会では主流の考え方である。

政党で言えば、日本共産党、立憲民主党がこういった憲法観をもっている。

2016年出版とあるので、多分、立憲主義的な憲法観を広げ、憲法改正運動を阻止しようという狙いがあるのだろう。

最初に場面設定の問題点を指摘してから、内容について批判を加えることにする。

 

 (1) 場面設定に関する問題点

 ① 檻の外に住む動物が、すべて善人である

絵本に多くの動物が登場するが、ライオン以外はすべて善人であるという、あり得ない状況が設定されている。

最初の方に、動物たちがそれぞれの生き方をしている様子が描かれている。

その次には、動物たちが楽しそうに手をつないでいる絵がある。

その後のページを見ても、悪しきこと、犯罪を犯す動物は一匹もいない。

そのような夢の世界を前提にして、社会問題、ましてや憲法の問題を考えること自体が間違っている。

自分の都合の良い結論を導き出すために、ありもしない状況をあらかじめ設定することは許されないことである。

 

② ライオンが暴れん坊で危険な動物として描かれている

無題

世界には190の国がある。当然、ライオンも190匹いるのだろう

190匹のライオンすべてがそのように危険な動物なのか、それについて一切説明がない。

そんなにライオンが危険な動物であるならば、殺してしまえば、檻もいらなくなって皆で楽しく暮らせるのではないだろうか。

ライオンに助けてもらいたいこともあるという説明のページがあるが、他の動物はみんな仲良しなので、お互い困ったら助け合えば良いのではと思う。

とにかく、この絵本の説明では、ライオンを存在させる意味が分からない。

それから、本の中で突然「みんなで選んだライオン」が出てきたり、3頭のライオンが出てきたりする。

こういうのをご都合主義というのだが、どういうライオンが何匹いるのかをあらかじめ言う必要があるだろう。

 

③ 肝心の天皇はどこにいるのか

憲法の第1章は「天皇」である。日本の歴史の中においても重要な位置を占めているし、そもそも日本国の象徴である

改めて考えてみると、天皇は権力者ではないので、ライオンではないだろう。

では、どこにいるのか。いないという設定自体がおかしいであろう。

それともこれは、共産党が政権を握ったあとの革命憲法を想定しているのか?

ただ、どこかのページで憲法を改正できないように檻を頑丈にしている絵がある。

当然これは現行の日本国憲法の解説であろう。

また、質問が元に戻るようだが、であるならば、天皇はどこにいるのか?

 

④このライオンの隣の国はどういう国なのか

これについて詳しくは書かれていないが、向こう岸でトラ(?)がアカンベーをしているイラストが書かれている。

どうして、ライオンではないのか? 地球に日本1国だけであるならば、この物語のようなことも有りかなとは思う。

ただ、現実の世界はそうではない。

アカンベーだけならまだ良いが、ミサイルを飛ばしたり、核爆弾を飛ばそうと考える国もある。

無題

半ば現実離れした世界を想定して、現実の憲法を考えること自体が、最大の矛盾であろう。

さらに、向こう岸のジャングルから軍隊が攻めてきても、ライオンは常に檻の中なのか?

いざ、非常事態という時には、ライオンの力を見せてもらう時ではないのか?

これでは、ライオンはいらないと、ジャングルの住民は思うのではないだろうか。

 

(2)内容に関する問題点

これは憲法一般の話なのか、日本国憲法の話なのかが分からない。

表紙には「憲法がわかる46のおはなし」とあり、日本国憲法と書かれていない。

その辺りを明確にする必要があるが、日本国憲法の条文が引用されているので、多分後者のつもりで書かれたものであるという前提で問題点を指摘する。

① 「ライオン(権力者)が私たちに襲いかかることがよくありました」というのは西欧の話。日本の話だとするならば、ウソになる。

西欧では、権力者が民衆に牙をむいた歴史が確かにある。

だから、実際に革命が起きたし、ギロチンにかけられた王もいる。

権力者の横暴を許さないために、民衆の側から文書を突き付けてそれを権力者に守らせようとした。その文書が憲法であり、そんなところから社会契約説の考え方が出てきた。

ただ、それはあくまでも西欧の歴史である

日本にはそのような歴史は全くない。

日本ではライオンとその他の動物たちは、手をつないで仲良く平和に暮らしてきた。革命が起きていないのが、その証拠である。最初の憲法にも聖徳太子がみんなで仲良く(和の国)と書かかれてある。明治時代になってその方針が、五箇条の御誓文で示されている。その中にみんなで力を合わせて(上下心を一にして)と書かれてある。それら日本の歴史を踏まえて、明治憲法が定められた。

権力の象徴である城は日本では、国民にとって生きるシンボルでもあるし、「お城のお殿様」という言い方が残っているのは、愛着をもって見ていたということであろう。

天皇についても、一般参賀に動員をかけなくても何万人が皇居に集まるのを見れば、どういう存在として受け止めているか説明しなくても分かるだろう。

筆者の頭にあるのは、西洋の歴史であるが、日本国憲法のことであるならば、日本の歴史を踏まえた上で憲法を考える必要がある。

② ライオンは檻の中にいるのか、外にいるのか

ライオンに政治を任せようと言っておいて、別のページでは檻の中に入れられている。

ライオンは檻の中にいるのか、外にいるのか、どちらなのか

中にいれば、政治はできない。

外に出るのであるならば、檻はいらない。

そして、ご都合主義的に「みんなで選んだライオン」が突然現れて法律を作っているが、それは「安心」だと言う

であるならば、憲法を新しく作ってもらっても「安心」ということになると思うのだが……。

 

③ 砂川事件の判例は、前時代の遺物

重要判例とあるが、戦争の傷もまだ完全に癒(い)えていない時代の判例である

社会的価値が時代の流れの中で変化するように、判例の価値も変わる。手本として考えなければいけないものもあるが、葬り去って良いものもある

元になった事件は、1957(昭和32)年に起きた立川飛行場の測量反対のデモ隊が基地内に入ったという事件である。

事件自体は軽微な事件であるが、その根底には日米安保条約があるので、最高裁までいってしまったという事件である。

60年安保闘争は「安保反対」の声が日本全土を覆った。

その頃の日本国民の安保条約の受け止め方は今とは全く違うし、当然それが裁判の判決に影響を与えた。

時代背景も日本周辺の国の状況も今とは全く違う。様々な観点から検証しても、賞味期限が切れている判例だと言える。

まだまだ、いろいろあるが、ある条文解釈において、何かの例え話としてするのは構わないと思うが、憲法という国の中心となるべきものについて、1冊の絵本にまとめてしまおうとするのは乱暴ではないだろうか

憲法学者に背中を押されたと文中に書かれてあったので驚いたが、その学者は「憲法学に対する冒涜だからやめろ」と言って背中を叩いたのではないだろうか。

確認して欲しい。

読んで頂きありがとうございました

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