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「下意上達」で新規事業開発に取り組む「積水ハウス」 ―— 温故知新の精神を忘れずに / 聖徳太子の透徹した俯瞰力

女性

「先日、ウチの社長の社内講演がありました。若い頃からの苦労話をいろいろ聞かされました。昔は大変だったんだなと勉強になりました」

「社長さんは、おいくつくらいですか?」

女性

「75才とおっしゃっていました。会社をここまで大きくしたのは、彼の力だと誰もが認めています」

「カリスマ経営者ということですね」

女性

「私のことをアイデアマンと言う人が結構いるけれど、会社を興してから毎日のように新商品や新規事業のことを考えてきたとおっしゃっていました」

「陰ながらの苦労があったということですね」

女性

「いつもニコニコされていて、苦労知らずみたいな感じの人でしたので、話を聞いて少し驚きました」

「話は聞いてみるものと思ったでしょ。今の会社を興してから何年位ですか」

女性

「ウチの会社は創業してまだ1/4世紀です。社長は21才で洋服を売る会社を立ち上げたのが最初と言っていました。その後、いろいろな業種の会社をつくっては行き詰まり、また立ち上げてというように繰り返したみたいです」

「逞しい社長さんなんですね」

女性

「そして、アイデアマンです。新商品の開発を30位手掛けています」

「彼の後継者はいるのですか?」

女性

「息子さんが取締役で入っています」

「そういうことではなく、商品開発をするシステムが整備されているかどうかを知りたいのです」

女性

「その辺のことは私にはよく分かりませんが、とにかくウチの会社は社長がアイディアを常に出して成長した会社なんです」

「それはそれとして凄いことですが、それでは会社は長続きしません。社員、特に新入社員の力を借りろと聖徳太子なら言うと思います。その上で持続的な発展を図るべきだと思います」

女性

「聖徳太子ですか? ここからが本論です ↓表紙写真は「朝日新聞デジタル」提供です」

 温故知新の精神を忘れずに

聖徳太子の十七条憲法の第一条の始め「和をもって貴し」であることは誰でも知っていると思いますが、最後の文章―—「上和(かみやわら)ぎ下睦びて事を論(あげつらう)に諧(かな)う時は、則ち事理自ずから通ず」―—がある意味、一番重要な文章です。肝心なことが読み取られていないのではないかと思っています。

公文書は重要な順番に載せます。そう考えれば、第一条は最後の文章までどのような意味なのか、吟味する必要があるのです。「最後の文章」の意味は、上の者と下の者とが仲良く議論が出来れば、困難なこともすべて解決するだろうというような意味です。

主語が「上」になっていますので、大事なことはまず「上」が行動を起こすことと言っています。ところで「下」は具体的に何を指すのでしょうか。これは民(おおみたから)を指します。ここで言う「下」は自分より下の官職の者を指すのではありません。そういった地位とは無縁の民と「睦びて事を論に諧う時は」万事がすべて上手くいくと言っているのです。よく考えると、不思議な文章です。なぜ、組織のトップが一番下の者たちと胸襟を開いて話し合わなければいけないのか。本来は、その理由も含めて憲法学者あるいは歴史学者が解釈する必要があるのですが、完全に見逃してしまっています。

(「株式会社新経営サービス」)

 新事業開発は「下意上達」

ところで、なぜ「上」の者が「下」の者の意見を聞くために行動しなければいけないのでしょうか「上」の者は多くの場合、権力闘争も含めて、政治課題に巻き込まれて「渦中」にあるからです。渦中にあって目が回っている状態なので、正常な判断を下しにくく、場合によっては間違った判断をしてしまう場合があるからです。その点、「下」の者は渦中にないために、逆に俯瞰的に全体像を見ることが出来ている場合が多いのです。そんなことから、上の者は自分の立ち位置を知り、判断が正しいかどうかを知るためにも「下」の者と対話をされよ、というのが太子の言わんとしたことであり、彼のメッセージなのです。

太子のメッセージを事業開発に生かしている会社があります。『日経』(2024.9.16日付)は「新事業開発は『下意上達』で」というタイトルで積水ハウスとTDKの取り組みを報じています。積水ハウスの仲井社長は「今までのような上意下達で『俺の背中を見てついて来い』という風土から、みんなでイノベーションを起こそうという風土に変えたい」と言います。

積水ハウスでは社内で「新規事業プレゼンコンテスト」を開催しているそうです。要するに、会社として取り組む新規事業のアイディアを広く社員から公募するという考えなのです。「3人寄れば文殊の知恵」という諺がありますが、3人どころか社員全員の知恵を集めようとしているのです。それを社長はじめ社内取締役全員が審査するということです。

(「クロス・ヘッド株式会社」)

 聖徳太子の透徹した俯瞰力

新規事業のアイディアがあれば応募するということですが、その応募件数は年々増えています――843件(2021)、1496件(2022)、1713件(2023)。基本的には10人位のチームで応募するのがルールのようです。2回の予備審査を経て、いよいよ最終審査となります。最終審査には社長以下、社内取締全員が出席します。発表者が緊張しないように役員はノーネクタイ、社長は「さん」付けで呼ぶという配慮をしています。

最終審査に残った10チームが7分間のプレゼンをします。社員の服装もラフで、ネクタイをする人は誰もいないそうです。グランプリを受賞したアイディアにはすぐに予算と人をつけるよう仲井社長が指示をします。9月からアイディアを募集して、2度の審査を経て翌年6月に最終審査会という流れで、今年度は3回目だそうです。

歴史は浅いのですが、新規事業が次々と生まれていると言います。太陽光発電の余剰電力を水素に変換し貯蔵するという水素住宅がその一つです。2025年度夏にも水素住宅事業に参入する予定とのことです。積水ハウスの社内あげてのこの取り組みは大変理に適っていると思いますし、この理屈を日本で一番最初に説いたのが実は聖徳太子なのです。改めて彼の透徹した俯瞰力に驚くばかりです。

(「環境金融研究機構(RIEF)」)

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