スタートはECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)です。1958年にEEC(ヨーロッパ経済共同体)が発足し、それが母体となって1967年にEC(ヨーロッパ共同体)が発足します。1993年にEUが発足し、1999年にはユーロを導入して、加盟国間で通貨同盟を結びました。東欧諸国がEUに加盟するようになり、2013年には加盟国数28か国の規模となったのですが、その頃を境に風向きが変わり始めます。
まず、経済的な地殻変動が起きます。2013年統計(IMF統計)によると、ヨーロッパ地域のGDPが世界で占める割合は28.9%であり、アジア地域に並ばれます。アジア地域のトップは中国で、今や世界第2の経済大国です。二番目の日本の2倍以上です。その他、インド、インドネシア、ベトナム、マレーシアといった国々が経済発展をしており、ヨーロッパとの経済力の差は開く一方です。
経済的な地殻変動に伴って、政治的な風向きも変わり始めます。グローバリズムからナショナリズム(ポピュリズム)の風に転換するようになります。アメリカのオバマ大統領が世界の警察をやめると言い、トランプ氏がアメリカンファーストと言って大統領になったのです。
香港の動きや台湾の総統選の結果、さらには今回のイギリスのEUからの離脱もそのような流れの中で起きたと説明できます。
ただ、そうなってくると、その流れがイギリス自身に返ってくることも考えられます。イギリスの正式名称は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」と言い、ラグビーファンはよく知っているかもしれませんが、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの王国から成っている国なのです。
実際に、スコットランドでは2014年にイングランドからの独立の是非を問う住民投票が実施されています。その時は、55対45で独立は否決されたのですが、再度行いたいということで、若者を中心に動きが始まっています。
人口約540万人、面積は北海道くらいの大きさのスコットランドは、1707年にイギリスの一部となるまで、独自の王国を維持し、イングランドと戦争を続けてきたのです。併合された後は、議会は解散させられ、民族衣装であるスカートのような「キルト」が禁止されるなど、地続きにも関わらずイングランドへの不信感が今なお残ると言われています。それに加えて、もともとEU残留の住民が多くいたので、今回の離脱があったため、分離独立してEUに加盟という動きも当然出てくると思われます。
政治的な出来事は、飛び火します。そういった動きが実際に出てくれば、海峡をはさんだところにある北アイルランドでは、独立の是非が議論されるようになるかもしれません。北アイルランドの中にはアイルランドとの統一を目指す政党もあるからです。
以上見てきたように、イギリスと呼んでいる国が、場合によっては分裂する危険性があり、実はそういう流れにあります。経済的に強くなることはないでしょう。日本はイギリスに約1000社の企業が進出していますが、今回の離脱を受けて、撤退する企業も出てくると思います。
日本は今後、イギリスとどのように接すれば良いでしょうか。イギリスとの付き合いは1902(明治35)年の日英同盟から始まっていますが、その同盟のお陰で日露戦争に勝つことができたと言っても過言ではありません。イギリスは当時は大英帝国、その国がアジアで最初に同盟国として選んだのが日本だったのです。
イギリス王室と日本の皇室は家族ぐるみでのお付き合いをしていますが、そのつながりが深まり始めたのは、昭和天皇の頃です。1921(大正10)年に昭和天皇は初めてイギリスを訪問されています。それ以来の親交です。そんなご縁もあり、今の天皇陛下が23歳の時に、イギリスのオックスフォード大学に留学をされています。そんなことから、天皇に即位して最初の訪問国として今年の4月ころにイギリスを訪ねられるとのことです。
国と国との付き合いも人間と同じで、打算抜きで考える必要があると思いますし、イギリスと日本はユーラシア大陸を挟んで対極的な位置にあります。日米同盟が未来永劫にわたって強固な絆で結ばれるという保証は全くありません。イギリスは気品ある国なので、お互い伝統と文化の交流もできます、同じ島国同士ということもあります。中国や北朝鮮のこともあります。
自由で開かれた東シナ海、南シナ海、インド洋、太平洋のために、新日英同盟を結ぶことを考える時期なのかもしれません。
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