今回改めて綱領なるものを読みましたが、突っ込みどころ満載の代物です。とにかく、やたらと副詞や強調する言葉、抽象的な言葉や品のない言葉が多いのが気になります――「いくつかの大きな変化」「とりわけ」「根本的な」「つまづき」「ほしいままに踏みにじって」などです。基本的な部分についての認識の誤りや疑問について指摘しておきたいと思います。
(1)2つの敵論(「 」内の言葉はすべて綱領からの引用です)
①「大企業・財界」
共産党独特の世界観です。国内の「敵」は、「大企業・財界」であり、彼らは
「日本と国民を支配する中心勢力の地位を占めている」
ここでいう大企業の企業名を明らかにして欲しいと思います。財界とは、経団連を指すのでしょうか。とにかく、具体的に何を言っているのかよく分からないのですが、それでは中小企業は味方なのでしょうか。
仮に、中小企業が業績を伸ばして大企業になった途端に「敵」になるのでしょうか。逆もあります。「大企業」の中で業績不良で上場企業でなくなった場合は、今度は「敵」ではなく味方になるのでしょうか。それも、おかしな話ですね。資本主義社会は競争社会なので、物事を動態的に捉える必要があると思います。
②「アメリカ帝国主義」
「アメリカ帝国主義は、世界の平和と安全、諸国民の主権と独立にとって最大の脅威となっている。その覇権主義、帝国主義の政策と行動は、アメリカと他の独占資本主義国とのあいだにも矛盾や対立を引き起こしている。また、経済の『グローバル化』を名目に世界の各国をアメリカ中心の経済秩序に組み込もうとする経済的覇権主義も、世界の経済に重大な混乱をもたらしている」
と綱領にはあります。とにかく、抽象的な言葉のオンパレードなので、何を具体的に指しているのかよく分かりませんが、率直に言って違うと思います。
国際連合という組織が世界の国々をリードできるような国際環境であれば問題ないのですが、そうはなっていません。であれば、どこかの国がリーダーとなって世界をまとめていく必要があります。その役割を担っているのがアメリカです。歴史的に見ると、経済力、軍事力が一番の国が世界の国々のリーダーとなるという国際不文律があります。それにアメリカが従っているだけです。ただ、トランプは「アメリカファースト」と言って大統領になった人ですので、その役割をできる限り減らしたいと考えていると思います。
アメリカを敵視しているのは、単純に政権を奪取しようとした時に、妨害勢力として立ちはだかる可能性があるからでしょう。ただ、それだけの理由で、理屈をこね回しているだけだと思います。
③アメリカとアメリカ独占資本主義
「アメリカの対日支配は、明らかに、アメリカの世界戦略とアメリカ独占資本主義の利益のために、日本の主権と独立を踏みにじる帝国主義的な性格のものである」
アメリカとアメリカ独占資本主義とアメリカ帝国主義は、どう違うのかを含めて、この文章も具体的に何を言っているか分からない、いわゆるアジテーション文章です。よくもまあ、こういう文章を綱領として採択したものだと感心しています。長年受け継がれているうちに忖度が働いて、誰も何も言えなくなっているのだろうと思われますが、「明らかに」という余分な言葉、「踏みにじる」という品のない言い回しなど、文章が分かる方に一度見てもらった方が良いと思いました。
自己陶酔に陥っている文章もあります――
「日本国民は、真の主権を回復するとともに、国内的にも、はじめて国の主人公となる。民主的な改革によって、日本は、戦争や軍事的緊張の根源であることをやめ、アジアと世界の平和の強固な礎の一つに変わり、日本国民の活力を生かした政治的・経済的・文化的な新しい発展の道がひらかれる」
今の主権はニセと言っています。「戦争や軍事的緊張の根源」って、何ですか?
(2)中国の覇権主義
日本にとっても、東南アジア諸国にとっても脅威に感じているのは、中国の覇権主義です。新聞でも報道されているように、香港やウイグルでは、重大な人権侵害が起きています。
「いくつかの大国で強まっている大国主義・覇権主義は、世界の平和と進歩への逆流となっている」
という記述を入れて中国批判をしたと言っていますが、国名をいれていません。具体的には、中国、ロシアだと思われますが、腰が引けている印象を持ちますし、アメリカには名指しで、言いたい放題。方や中国に対しては配慮をするということで、極めてバランスが悪いと思います。
(3)社会主義・共産主義について
「資本主義を乗り越え、社会主義・共産主義の社会への前身をはかる…」
とあり、夢物語が書かれています。生産手段の社会化、つまり国有化によって社会主義国にするというプラン、そうなれば国民が主人公の社会が地上社会に実現すると書かれています。
ソ連を筆頭に社会主義経済はすべて失敗しています。中国も当初導入した社会主義経済、人民公社システムが上手くいかず行き詰ってから、資本主義的な生産システムを取り入れて経済的な発展を遂げました。成功例がないものを敢えて導入するからには、緻密な経済設計ないしは制度設計が必要です。
「帝国主義・資本主義を乗り越え、社会主義に前進することは、大局的には歴史の不可避的な発展方向」
とありますが、そんな法則はありません。大企業に限らず多くの企業は国境を越え、取り引きのネットワークを世界中に張り巡らしています。その国の枠を超えて自由な経済活動をしている企業の生産手段を社会化するなど無理な話ですし、あえて社会化したところで、どのような経済的メリットがあるというのでしょうか。
搾取がなくなる、という返事が返ってきそうですが、搾取という言葉は今から約150年前にマルクスが使い始めた言葉ですが、モノ作りが主流の資本主義成立期に成り立つ概念です。目に見えないデータ、サービスなどが資本を生む時代には、通じない考え方です。
(4) 天皇制をどうするのか
「民主共和制の政治体制の実現をはかるべきだ」
という記述があるので、天皇制をなくすということが書かれています。その際の理屈が
「民主主義および人間の平等の原則と両立するものではない」
というものです。天皇制は古代の大和の時代から約2千年にわたって続いてきた日本独自の制度であり文化です。民主主義とか平等権という概念は、18世紀頃の西洋社会で成立したものです。時代的に後から出てきた考え方で、すでに成立しているものを否定することはできません。
そして、
「国を統治する全権限を天皇が握る専制政治(絶対主義的天皇制)」
という記述がありますが、明治憲法の曲解がなされています。日本の歴史を紐解けば分かりますが、天皇が権力者として振舞ったことはありませんでした。日本では、朝廷に権威を集め、そこから任命された者が実際の権力を握って政治を行うというシステムが天武天皇の頃にほぼ確立をしていました。明治の時代もその例外ではありません。江戸幕府から奉還された権限を大臣に委任しています。
(5)憲法改正について
共産党は潜在的改憲政党です。現行憲法は占領憲法です。アメリカ帝国主義によって制定されたものなので、当然改正の対象と考えていますが、それを言うと良くないので、当面の戦術として護憲を掲げて国民の支持を得ようということだと思います。
自衛隊は「人殺し部隊」と言っていましたので、解散させられ、新たに人民解放軍を創設すると思います。天皇制を廃して、共産党の一党独裁体制を敷く、自身が最高指導者として君臨することを考えていると思います。社会主義・共産主義は一つの前衛が人民を指導すると考えるので、当然一党独裁となります。それが日本の人民にとって幸せな唯一の道と考えると思います。ヨーロッパで共産党が活動をしているのは、今やフランス位のものです。共産主義ゴッコにそろそろ見切りをつける頃だと思います。