「今日の『産経』(2021、3,26日付)の「正論」で、ガン研医療研究センター長の中村祐輔氏が「日本の科学力高いは幻想だ」を書いていましたね」
「『裸の王様現象』がこれから続くと思っています。識者たちがデータに基づいて『日本の科学力の現状』を発言し始めています」
「何がいけないのですか?」
「国の制度・態勢の問題、そして教育の問題と、大きく分けて2つあります」
「国の制度・態勢の問題を具体的に言うと何ですか?」
「これは予算の問題であったり、学術会議の問題も絡んだりしますが、そもそも教育と科学技術をまとめ合わせて省庁をつくったところから間違いが始まったと思っています」
「確かに、重要なものは、一つにまとめませんからね。統合したのは、いつですか?」
「2001年ですが、教育も科学技術も日本の未来や国力に大いに関係がある分野です。どうして、ひとまとめにするのかと言いたいですね。軽視していたということだと思います。しかも、2つとも環境整備行政であるならば理屈は成り立ちますが、そうではありません」
「科学技術については環境整備行政ですが、教育については前面に立って積極的に指導行政を行っていますものね」
「同じ省内で違う性質の行政をするという、それを20年も続けているのでしょ。組織的にそこを直さなければ、これからも様々な問題が発生すると思います」
「要するに、病の原因を治さなければ、病は起き続けるということですね」
「科学技術の環境整備行政をするためには、あらゆる科学技術について精通した人材を行政官僚として育成する必要がありますし、文系、理系関係なく大学院の博士課程以上については学費をすべて免除するくらいの措置をとる必要があります」
「世界をリードする科学技術を育てるつもりならば、その位の態勢を整えなければ駄目ということですね」
「そして、教育分野では、特に公立学校でいじめ、不登校、さらには教員の不祥事が増えています。組織的に根本的な改革に取り組まなければ、今後も様々な不祥事や問題が発生するだろうと思っています」
「ここからが本論です ↓」
かつての日本では、あり得ないようなことがここ最近連続して起きている
東京証券取引所のシステムダウン、2020年10月1日、システム障害を受けて全銘柄の取引を終日取りやめたということがありました。そのような「事故」は、1999年の取引のシステム化以降で初めてです。
また、最近のシステム障害と言えば、約2週間で4件を数えたみずほ銀行です。2月28日の障害では全国の8割のATM(現金自動預払機)が一時停止し、キャッシュカードや通帳が取り出せなくなる事案が計5244件発生しました。さらに、3月3日、7日にもATMや定期預金の取引で障害が起きたのです。
さらに最近では、政府提出法案に誤記などが相次いだということが起きました。そこには、作為も意図もなく、単なる霞が関に務める行政官僚のミスなのですが、このようなミスは前例がありません。間違えた内容も、例えば「若しくは」を「若もしくは」としたり、「カナダ軍」とすべきところを「英国軍」と記してしまったりといったケアレスミスのオンパレードだったそうです。
立憲民主党は3月24日に、これまでの判明分も含めて計20本の法案・条約にミスが見つかったと明らかにしました。ご立腹のようですが、政党人としては政権攻撃の材料として使うのではなく、難関とされている国家公務員試験をパスしてきた官僚が単純なミスを連発した理由を科学的に解明して、再発防止に知恵を絞るのが大人の対応だと思います。
冒頭「2人の会話」の中で紹介した中村祐輔氏は「なぜ国産ワクチン作れない」という理由について「日本の科学力は高くなくなった」からだと言っています。そのことを裏付けるデータとして、医薬品部門の貿易赤字を挙げています。かつては貿易黒字であったのに、「日本の医薬品の貿易赤字は2015年度以降6年連続で2兆円を超えて」いて、「この数字だけでも日本の科学力の危機的状況を理解するに十分な数字である」と言います。
ただ、現状はワクチンを作れないどころではなく、ワクチン接種すら進んでいないという状況です。
先端技術研究分野は、中国が世界をリードしている
『日経』(2018,12,31日付)が各国の研究開発力を探るために、世界の研究者が注目している「先端技術の研究テーマ30」ごとのランキングを発表しました。今から、約2年前のことです。それから、多少の変動はあるかもしれませんが、その時点で中国がアメリカを抜いてトップになっています。30のテーマのうち、中国は23のテーマでトップとなり、アメリカは7、日本は0です。
中国が世界の科学技術立国に短期間で飛躍したのは、簡単に言えばカネをかけて人材を効率的に育成したからです。2016年の中国の研究費は45兆円と、10年前の3.4倍の巨額さです。その資金は、何のことはない、日本政府がODAで与えたり、日本企業の現地法人が中国に税金として支払ったものが元になっているのです。
(「日経プラス10」)
特許制度があるので、世界一でなければ意味がない
今から約10年前に政府の事業仕分け作業部会で蓮舫行政刷新担当相が「2位じゃだめなんでしょうか」と発言して話題になったことがあります。スポーツ競技を思い浮かべて質問したのでしょう。銀も銅も同じメタル、同じように評価して良いだろう、というのはスポーツの世界の話です。
科学技術の分野は、特許という制度があり、最先端技術を押さえられてしまうと、それを使った高い価格の製品買うか、特許料を支払って自前で作るかということが出てきます。だから、スポーツの世界とは違うのです。そして、例えば最先端の製品、あるいは薬品を「外交の武器」として活用されることもあります。ワクチン外交という言葉が使われ始めましたが、中国は開発したワクチンを政治的に利用し始めています。
(「朝日新聞デジタル」)
また、最先端技術を使った武器や兵器を開発されてしまうと、外交上においても不利な立場に立たされることが出てくるでしょう。ただでさえ弱腰外交なのに、最先端技術分野でも相手が優位となれば、自信をもって「軍艦外交」を仕掛けてくるでしょう。実際に、尖閣でそれが始まっています。懸命に防戦していますが、このままではいつかは突破されるだろうと見ています。
今から10年前にノーベル化学賞に輝いたのが鈴木章北海道大名誉教授です。その当時に「日本が生き残るためには付加価値の高いものを作り、世界に使ってもらうしかない」と、科学技術の重要性を指摘しています。当時話題になった蓮舫発言を引き合いに出して「研究は1番でないといけない。“2位ではどうか”などというのは愚問。このようなことを言う人は科学や技術を全く知らない人だ」と言っています。
日本は大量に資源と食糧を輸入している国です。その代金は、最先端技術を採り入れた製品を売ることによって調達しています。日本の科学技術力が落ちれば、製品の性能にそのまま反映され、やがては市場に流しても売れなくなります。消費者はナンバー1の製品を求めようとするからです。オリンピックと違って、ナンバー2は誰も振り向いてくれなくなるということなのです。
そうなってくると、今度は経済的に立ちいかなくなっていきます。すべては連動しているからです。
(コーテック国際特許事務所/cotech.co.jp)
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