「昨日のNHKテレビで最低賃金のことを話題にしていたのですが、都道府県ごとに決めるものなんですね。初めて知りました」
「経済力の弱い、強いが当然ありますので、その実情に見合った最低賃金を各県で定めてもらおうというのが出発点だったのです」
「今は県をアピールしたり、人集めのため高く設定しようとしたりという動きがあるのですね」
「徳島県の後藤田知事が最低賃金審議会に出席をして、転出者を防ぐためにも最低賃金をあげて欲しいという異例のお願いをしたそうです」
「86円アップして980円になった、と言っていましたが、そういうものなんですか?」
「そういうものって?」
「最低賃金の金額は労使それぞれの立場の人からの意見を聞いて公平に決めなければいけないのではないかなと思ったからです」
「知事が出席して意見を述べる。聞かない訳にはいかないだろうということですね」
「結果的に大幅にアップしていますものね」
「そうやってどこかが上げると、他県もそれを見て上げようとします」
「上がることによって、喜ぶ人がいる一方で、困る人もいますよね」
「そうですね。中小の零細企業主が一番影響を被ると思います」
「ところで、アメリカにも最低賃金というのがあるのですか?」
「アメリカは、連邦政府が定める最低賃金と各州と市が定める最低賃金があります。連邦政府の最低賃金は、ここ10数年変わっておらず7.25ドルです。為替レートの152円を掛けるとおよそ1,100円となります」
「それとは別に、各州が最低賃金を定めるのですね。ここからが本論です ↓表紙写真は「Hotel Tech Report」提供です」
アメリカ的な2段構えの最低賃金方式を見習うべき
2人の会話の中で、アメリカの最低賃金のことが話題になっていましたが、アメリカは2段構えです。連邦政府が最低賃金を出す一方、各州も最低賃金の額を発表します。連邦政府の最低賃金は、ご案内の通り1,100円なので、日本並みです。ただ、各州が発表する最低賃金の額は、これの2倍~3倍です。
連邦政府が定める最低賃金がある一方で、各州が別に定めているのは何故か。一律に決めてしまうと、会社の規模や業種、さらには会社の状況によっては対応できないことが起きるからです。会社の状況の中には、会社更生法の手続きの最中で、従業員に多くの賃金を払えない場合もあります。だけど、従業員の中には会社の危機なので、賃金は最低限で大丈夫と言ってくれる人もいます。そういう場合に、低めに設定した連邦政府の規準があると助かるのです。
逆に支払い能力がある会社に対しては、州が定める最低賃金に基づいて支払いを勧告することになります。全米に60店舗を持つファーストフードの会社に対して、カリフォルニア州にあるファーストフード店の労働者に時給20ドルの支払いを実際に命じています。2023年のことです。
(「INS Global」)
最低賃金を無理矢理上げれば「ひずみ」が生じる
昨年は各都道府県が最低賃金を軒並み上げた年でした。全国平均で51円上がったそうです。そのうち全国で一番多く引き上げたのが、2人の会話の中で話題の徳島県の84円だったのです。知事の発言力は強いということです。
ただ、最低賃金を上げれば良いというものではありません。人を雇いたくても、その賃金では雇うことはできない中小零細業者がいるからです。上げることによって店舗縮小あるいは倒産に追い込まれ、地域経済が弱体化した挙句に、働く場所が無くなってしまったということも起きるからです。
そして、最低賃金の金額は簡単にクリアーするような数字なので、全く関係ないという企業もあるのです。大企業は関係のない話題だと思っているでしょう。その一方、一番影響を被るのが中小零細企業や再建途上にある会社です。政府は最低賃金1500円が目標と言っていますが、自然に上がるのなら良いのですが、徳島県のように行政のトップが引き上げに介入するようなことがあると、経済活動にひずみが出てきて、結局、逆効果ということもあります。
(「FNNプライムオンライン」)
法人税の配分割合を変えれば「178万円」も可能
日本の最低賃金(各都道府県の平均)額が1,055円です。これは先進国の中ではかなり低い金額です。韓国の1,083円よりも低い金額です。ちなみに、イギリス2,235円、フランス1,938円、ドイツ2,025円です。日本人はこういう数字を見ると、すぐに競争心を燃やすところがありますが、この金額は一種のセーフティーネットですので、上げれば良いというものではありません。特に日本の場合は、経済の二重構造の国ですので、アメリカのような合理的な制度運用が求められていると思います。
最低賃金を上げたならば、当然「103万円の壁」を取り払う必要があります。政府の対応を見ていると、最低賃金は引き上げるが、「103万円の壁」は維持したいという意向のようです。しかしそれでは理に適っていません。人手不足がますます深刻になります。
「103万円の壁」を上げれば、それに伴って個人住民税の基礎控除も上げなければいけません。そうすると地方自治体に入る税収が少なくなり、そのことを心配する知事もおられます。法人税の国と地方の割合を変える論議をする時期だと思います。現在、法人の利益に対して、1/3が法人税として徴収され、それを2対1の割合で国と地方に配分しています。それを1対1にするのです。住民税からの歳入は少なくなりますが、その分を法人税からの収入でカバーするのです。そういう制度改革をすれば、国民民主の178万円に引き上げても大丈夫だと思います。企業の誘致に熱心に取り組む自治体も増えると思います。
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