(この記事は2/9に書きました)
人は錯覚を起こす動物です。そこに住んでいる国民の多くが錯覚に陥ると、国全体が錯覚を起こします。そこから抜け出るためには、耳元で囁くような第三者の声を聴くようにすることです。そのことを教訓的な物語として書かれたものが、アンデルセンの「裸の王様」です。
裸だとは王様も周りの大臣たちも気が付きません。ところが、一人の子供が気付き「王様は裸だ」と言います。この差は何でしようか。子供は、欲得のない純粋な心をもっています。この話は、欲得の目で物事を観ていると、すべて錯覚を見て暮らすことになってしまうという教訓もそこに含まれています。
そこに成功体験が加わると、深い錯覚の中に沈み込むこともあります。今の日本企業の多く、そして文科省がまさにそうです。「子供」はいませんが、データを素直に読めば良いだけの話です。データそれ自体は、何の感情も欲得もないからです。
GDPの数値が一番分かりやすいと思います。ただ、データの見方に注意を払う必要があります。日本という国を単独で見て、経年で比較しないことです。この世界は競争社会なので、比較をして考える必要があります。そして、比較をするのは、同盟国、近隣諸国です。要するに政治的、経済的に影響を受けやすい国々との比較をします。
具体的に国名を挙げますと、中国、韓国、アメリカ、インド、イギリスといったところでしょうか。中国の躍進ぶりとアメリカの堅実な成長が分かります。特に中国ですが、20年前はGDPの数値で見ると日本の4分の1にも満たなかったのに、あっという間に我が国を追い越し、今や日本の2倍以上に膨れ上がっています。それに対して日本は、かろうじて3位にはいますが、4位のドイツに近寄られている状況です。
そのように数値の伸びがないのは、時間あたりの生産力である労働生産性が伸びていないからです。OECD加盟国36カ国中21位です(2018年統計)。そのため、1人あたりのGDPを韓国と比較すると2012年に2倍の開きがあったものの、2018年は25%まで縮まっています。
そして、この30年間のGDPの数値を見ると、日本経済は伸びるどころか、停滞していることがよく分かります。特に、ここ20年間はほぼ横ばいです。「日本人の平均賃金の推移」をインターネットで検索してみて下さい。それを見ると、右肩下がりなのが分かります。20年間の民間部門の時給の変動率も-9%と、主要国の中では唯一のマイナスを出しています。先進7カ国で比べると、この半世紀の間はずっと最下位です(OECD統計)。労働生産性が上がっていないので、賃金も時給も上がりません。30年間で実質賃金はわずか1.2倍です。「最低賃金1500円を実現します」(現在は約1000円)と無責任な公約を掲げる政党(れいわ新選組)がありますが、国会で真面目に経済政策について論じて欲しいと思います。
世界有力企業ランキング
(1989年) (2019年)
1 NTT(日本) 1 アップル(米国)
2 日本興業銀行(日本) 2 マイクロソフト(米国)
3 住友銀行(日本) 3 アルファベット(米国)
4 富士銀行(日本) 4 アマゾン・ドット・コム(米国)
5 第一勧業銀行(日本) 5 フェイスブック(米国)
6 IBM(米国) 6 ハザウェイ(米国)
7 三菱銀行(日本) 7 アリババ(中国)
8 エクソン(米国) 8 JPモルガン(米国)
9 東京電力(日本) 9 テンセント(中国)
10 シェル(英国・オランダ) 10 ジョンソン・エンド・ジョンソン (米国)
(株式時価総額ランキング)
この30年で、すべて入れ替わってしまったのが分かると思います。日本企業は上位10社に1社も入っておらず、経済の地盤沈下を象徴しているようです。何が起きたのでしょうか。結果があるところに原因があります。原因を探ってみたいと思います。
簡単に言えば、高度経済成長の時の加工貿易国としての成功体験があったため、モノづくりにこだわり、1990年頃から始まったグローバル化の波に乗れなかったためです。
現在の上位5社はIT関連企業ですが、それらの企業は「データの時代」の大きな波に乗って事業を拡大させたのです。サーフィンと同じで、大きな波にいかに上手く乗るかが勝負です。アップルの創業は1976年、マイクロソフトの創業は1975年、創業から半世紀も経っていないのに、両者は資産1兆ドル企業となりました。
成功体験にこだわることなく、社会と経済の流れを様々なデータから読み取り、波形(はけい)を知ることです。現在、社会と経済の流れが変わる潮目にあります。時代は、グローバリズムからポピュリズム(ナショナリズム)、AI時代の本格的な幕開けの時代を迎えようとしています。今度、失敗すると2流国家に転落する恐れがあります。そうならないためにも、AI時代に対応した国をあげての経済戦略、科学技術戦略、教育戦略を立てる必要があります。
一番ネックになっているのは国会です。独裁国家でありウイグル問題を抱えた中国の首席を、国賓として招待することを考えている安倍内閣、わずか数百万の金で収賄に走る自民党の議員、新聞記事を〇×で「添削」したものを国会の部屋の前に貼りだしたり、「改ざんですか」と同じ質問を何回も繰り返した挙句に退席をしたりした立憲民主党の議員たち、吉野家の牛丼がまずいとSNSで発信したのが国民民主党の議員。自分たちだけのことしか考えていない、その志の低さに驚きます。「一体、日本の国会は何をやっているのか」(「夕刊フジ」2020.2.9日付)ということを言いたくなる気持ちが理解できます。天下国家を語る議員がいなくなったことが、日本の危機的状況を表しています。
二番目にネックになっているのが文科省です。そもそも、どうして文部省と科学技術省が合体しなければいけなかったのでしょうか。これ自体が不見識なので、組織的分離を提案します。それをした上で、文部省は教育課程編成権を地方に委譲することをお願いしたいと思います。
AI時代は、少数の先端科学に関わる者と、多くの個性豊かな人材の育成が必要です。ところが、現在文科省が行っている教育は、「全国一律カリキュラムによる一斉授業方式」です。これは、画一的な製品を大量に作る工業社会における人づくりの考え方です。AI時代に適応することは出来ません。
「全国一律カリキュラムによる一斉授業方式」プラス1人担任制という安上がりの画一的教育により、不登校、いじめ、教員ハレンチ事件が右肩上がりで増えています。30歳以下のひきこもりは160万人と言われています。この原因の大半は、公立小、中学校にあります。教育無償化と言えばすべて解決するほど、教育問題は単純ではありません。根本的解決が今、求められています。
読んで頂きありがとうございました