「明治維新について前に話題にしましたが、自分なりにあの後、図書館で調べてみました」
「それで、どうでしたか?」
「明治維新を肯定的に捉えている方が、やはり多いという印象です」
「そうでしょうね。そもそも、教科書自体が明治維新礼賛になっています。程度の差こそあれ、どの会社の教科書もそういう傾向があります」
「この調子だと、明治維新160周年ということでイベントが企画されるようですね」
「そうでしょうね。このままだと、そうなるでしょうね。一番問題なのは、明治維新だけを切り取って、そこだけで評価するのは正しくないということです」
「その後の展開を観なければいけないということですね」
「そうですね。人生と同じです。トータルで見ることによって、その時の行動が良かったのか、悪かったのかが分かります」
「当時は無駄な努力と思っていたものが、後から振り返ると重要だったというのがありますものね」
「逆も当然あります。良かれと思って努力したことが結果的にマイナスに作用したということもあります。ただ、個人の場合は気が付いてすぐに戻ることができますが、国の場合は後戻りできなくなることが多いのです」
「それは何故ですか?」
「一つの方向に向かって大きな流れが出来てしまうと、それを方向転換させるのには大変なエネルギーが必要だからです」
「ここからが本論です ↓ 表紙写真は「Wikipedia」提供です」
目次
明治政府の統治プログラム
明治政府と言いますが、中身は薩長土肥を中心とした藩閥政府です。本来、政権を奪取したならば、その勢力が中心となって、諸国の大名に号令をかけて、新生日本の歩むべき道を策定する必要があったのですが、彼らは権力を独り占めする方向で動きます。そして、内部で権力闘争が行われて薩長が勝ち残ります。
「五箇条の御誓文」で陛下が「広く会議を興し」と、わざわざ「広く」という言葉を入れたのは、多くの藩の意見を聞いて、国としてまとまるための方針を決めるべしという願いがこもっていたと理解すべきなのですが、1871(明治4)年に藩閥政府は、廃藩置県を強行します。
ちなみに、この「県」の出自は中国です。全国に300弱の藩があったと言われています。旧藩主を中心にまとまっていた社会が、藩主の世襲制の消滅とともに一挙に「砂上の楼閣」に変わり果てようとしたのです。旧藩主の代わりに中央から府知事・県令が送り込まれることになります。体(てい)のいい、乗っ取りです。中央集権国家の足固めが行われることになります。
(「富喜丸くん日記-FC2」)
天皇と天皇家の祖先神を精神的支柱とする
かたちの上では、かつての体制の延長線で組織が維持されたものの、トップの首がすげ替えられたのです。当然、士族たちの中に不満が起きます。佐賀の乱(1874)、神風連の乱(1876)、秋月の乱(1876)、萩の乱(1876)と続いて、極めつけが西南戦争(1877)です。1万3千人の西郷軍を7万の政府軍が鎮圧した事件です。
このような事件が何故起きたのか。政権を取ったのが武士階級なら、反乱を起こしたのも武士階級です。要するに内輪もめということです。最初の出足からミソが付いたかたちになりました。
統一国家としての行き先に暗雲が立ち込めてしまいました。対策として、全国民を統合する精神的支柱のようなものがどうしても必要です。藩閥政府が天皇と天皇家の祖先神を精神的支柱とすることを考え始めます。1869(明治2)年に神祇官をすべての官庁の上位に置いた上で、神道を国ぐるみで保護しようと考えたのです。国家神道の誕生です。全国の神社(1879年当時、17万6844社)は国もしくは地方自治体が財政的に支える体制をとったのです。
すぐに征韓論が出る
国内において特に武士階級を中心に不満が渦巻いていました。それをどのように解消していくのか。大きな課題だったのです。そこで藩閥政府が目を付けたのが、朝鮮だったのです。
教科書の記述によりますと、国交を求めた政府に対して非礼な態度を取ったため、征韓論の意見が出たとありますが、いかにも不自然です。確かに、新政府が発足して慣例通り対馬藩を通して挨拶の文書を送り、その中に「皇」や「勅」といった文字があるため受け取れない旨の返事が来ました。華夷体制の中に組み込まれているため、中国の皇帝が使う言葉を日本が使うことを認める訳にはいかなかったのでしょう。ただ、その程度のことで武力攻撃をしようとは普通は考えません。不自然と書いたのは、そういうことです。
木戸孝允の日記が遺っています。それによると、諸藩の兵力を朝鮮に向かわせることによって国内に向いていた不満を逸らそうという考えだったことが分かります。そして、その後イギリスから朝鮮に進出すれば欧州各国はそれを支持すると言われます。そういった状況の中で、日本は朝鮮に目を向けることになります。
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