「日経平均が638円高の26,165円でした。1991年5月以来およそ29年半ぶりの高値水準でした」
「はあー、という感じです」
「どうしたのですか?」
「そもそも、その意味がよくわからないのです。私は株はやらないので……」
「株でもうけた、もうけないではなく、経済の一つの指標として見る必要があります」
「よくおっしゃっていますよね。原因があるところに結果があると」
「そうですね。必ず株高の原因があるはずです」
「素朴な疑問ですが、経済の状況が株式市場に反映するのですよね」
「基本的にはそうですが、必ずしもそうならない時があります」
「今回の株高は、後者の必ずしもに該当することでしょうか?」
「そうですね。経済状況はコロナ禍で苦しい状況が続いています。ただ、皮肉なことにコロナ禍のために株高が起きているのです」
「えっ、ちょっと今の説明は分からないのですけど……。コロナ禍で苦しいのに、どうして株が上がるのですか?」
「そういう疑問をもたれるのは無理がないと思います。だから、皮肉なことにと言ったのですが、コロナ禍で企業が見通しを立てることができない状況になっているために株高が起きています」
「すいません、見通しが立たないと、どうして株高が発生するのですか?」
「企業の半期の決算は9月で締めますよね。その時に利潤が出れば配当として株主に還元し、残りが会社の利益となります。これをどう使うかということですが、業務を拡大したければ工場の近代化、最新機械設備の導入、研究開発費の増額といった積極経営のために使うと思いますが、
その判断ができにくい状況が今の状況なのです。かと言って資金を遊ばせておく訳にはいかない。だから、それが向かう先は……」
「株式市場ということなのですね」
「そう、ご名答です」
「ニュースでは、トランプ米大統領が政権移行業務を容認する姿勢を示したこともあり、アメリカの株価指数先物が上昇、日本株を押し上げることになったと言っています」
「経済は生き物なので、事前に予測できません。ただ、後解釈でいろんな人がいろいろなことを言います。気にしないことです」
「相撲やプロ野球で解説者が今のプレィはということで解説するようなものでしょうか?」
「基本的には同じですし、解説者によって見方も違います。三菱UFJ国際投信の石金淳チーフファンドマネジャーは「ワクチンをはじめ好材料がそろったため、景気の先行きに自信を持ち、強気に転じる投資家が一気に増えた」と指摘しています」
「それを成る程と思うかどうかは、それぞれの判断ということですね。ここからが本論です ↓」
行き場を失くしたお金が株高の原因
余ったお金をどう使うか、まさに企業の経営センスが問われる場面です。
コロナ禍の中、第三波の大波が今押し寄せようとしている時期です。終息する見通しも時期もはっきりしません。ワクチン開発が急ピッチで進められているものの、実際に日本人が接種するのは早くても来年の4月以降との話です。Go To トラベルキャンペーンを始めて、人とカネを動かし経済を活性化する狙いだったのですが、それも感染拡大の中で中止になりそうです。
そのように、見通しが全くつかない状況下で手元資金を株式市場に振り向けようとする気持ちは、大変よく分かります。ただ今のように、いずこの会社も株式市場に資金を投じ、浮利を追い求めているようでは、世界との差はますます開くことになります。
どういうことか。これからの企業の競争力は、人材の価値に負うところが大きいからです。研究開発、人材育成は絶対に必要なことなので、コロナ禍だからこそ、そこに投ずるべきなのです。
「IT大手がけん引する米国企業が研究開発投資をここ5年で2割増やしたのに対し、日本は1割増にとどまった。日本勢の開発費は欧州や韓国のライバル企業に比べても見劣りする」(「デジタル時代開発後れ」『日経』2020.2.2日付)とのこと。
そういう状況下で、「資金を積み増して新技術の開発に向かわなければ、デジタル時代の競争力を失いかねない」(同上)と指摘します。
何に資金を振り向けて良いのか、分っていない
研究開発投資の額をアメリカと比較をしてみたい。
<研究開発投資> (2013-18年との比較)
アメリカ 23%増 日本 13%増
<売上高研究開発費の比率> (2018年)
アメリカ 6.3% 日本 2.8%
今や殆どすべての分野においてアメリカの後塵を拝するような日本ですが、唯一日本が勝っている分野があります。それは機械設備に対する投資です。ただ、その代わり、情報通信機器の投資は遅れています。2013年を100とすると、日本は98、アメリカは142です。
それから、研究開発費の伸びを中国や韓国と比較してみたいと思います。
(2200年を1.0として、2018年の指数)
中国 11.9 韓国 4.2 日本 1.3
これは科学の論文数にも比例することになります
<自然科学分野の論文数> (2016-18年の平均/数字は世界順位)
①中国 30万5927本 ②アメリカ 28万1487本
③ドイツ 6万7041本 ④ 日本 6万4874本
※ 論文数の世界に占めるシェアも下がっています
(日本) 9.4% → 7.7% → 5.3%
実体経済がない中での株価の最高値更新というのは、余り意味がありません。体(てい)の良いバブル相場です。いずれは資金を引き上げて、正業がうまくいくような資金の使い途(みち)を考える必要があります。
研究開発と人材開発 ―—2つの開発が日本の将来を決める
とにかく、研究開発と教育による人材開発に資金を多く回すようにします。これからは、モノの生産ではなく、科学と技術によって新たな価値を見出すことに重きを置く時代となるからです。
「デジタル社会で革新を起こすには従来の『モノ』を生み出すモデルから価値創造型の「コト」モデルに切り替えねばならない」(「社説」『日経』2020.1.27日付)。そのためには大学との連携を考える、無自覚の大学が多いので、トヨタのように自前で大学などの教育機関や研究所を作ることも考えます。
読んでいただき、ありがとうございました。
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