
「つい最近、『古事記』関連本が出たので読んでみました」

「どういう題名ですか?」

「『科学で読み解く 日本神話と古事記』(展転社)という表題です」

「日本神話と古事記の関係を明らかにした書ですか」

「いえ、専ら『古事記』が書かれた内容を解釈した本です」

「であれば、古事記と日本神話にしないと、いけないのではないでしょうか?」

「その辺りの考えはよく分かりませんが、同じようなものという捉え方があるのだと思います」

「「科学で読み解く」の「科学」は、具体的に何を指しているのですか?」

「これも、実はよく分かりませんでした。「科学」=正しいということで、私の見解が一番正しいということを言いたいのではないかと思います」

「古事記関連本は、今まで相当な数の本が出版されています。それらと視点が異なっていなければ出版する意味があまりないと思っています。その点は、どうですか?」

「本屋でパラパラとめくって見ただけなのですが、従来の古事記関連本と同じ視点から書かれている古事記の本だと思いました」

「だから、買わなかったのですね」

「確か2千円くらいしたと思います。価格と中身を検討しました」

「結局、買わなかったのですね」

「紀伊国屋書店で山積みで売っていたので、本屋は売れると判断したのでしょうけどね……」

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『古事記』は陰陽の原理をベースに書かれた書
『古事記』は単なる神話の集まりではなく、深い原理が込められています。その根底に流れるのは「陰陽の原理」です。陰と陽の相互作用によって万物が生じるという考え方は、中国の思想に見られますが、『古事記』もまたこの原理を基盤としています。
この世界は偶然だけで成り立っているのではなく、偶然と必然が絡み合って形作られています。その象徴的な場面が、イザナギとイザナミによる国生みの物語です。彼らが天の御柱を回る場面には、陰陽の概念が明確に示されています。イザナギは右へ、イザナミは左へと回ることで、それぞれが陽と陰を象徴する存在であることを暗示しています。
最初にイザナミ(陰)が声をかけたことで調和が乱れ、正しい順序(陽であるイザナギが先)でやり直すことで、国生みが成功しました。イザナミが声掛けを先にした時に生まれたのが「ヒルコ」(失敗)です。陰陽となっていますが、重要なのは陽なのです。法律が陰で、それを動かすシステムが陽となりますので、例えば「ポイ捨て防止法」を作る時に大事なのは、ポイ捨てをした時に罰金を課して、ポイ捨てをさせないために見回りをするなどといったシステムを作ることです。法律だけ作って終わることが無いようにと言っているのです。このように、『古事記』は神話を通じて、自然界や社会の在り方に陰陽の原理が作用していることを伝えようとしているのです。
(「クラシエ」)
『古事記』だけを読み込んでも何も分からない
ニュートンがリンゴが落ちるのを見て万有引力の法則を発見したと言われていますが、仮にリンゴだけを何百万回見ても、そこから法則を導き出すことはできません。南半球のリンゴは下から上に落ちる、と地球全体を俯瞰する視点を持ったからこそ、物体が引き合う力を見出せたのです。同様に、『古事記』を仮に何万回繰り返し読んだとしても、その本質には辿りつけません。
これまで『古事記』の理解には『日本書紀』との比較が用いられてきましたが、本当に必要なのは、その編纂者である天武天皇の考えを知ることです。彼は壬申の乱を経て天皇となりましたが、甥であり娘婿でもあった大友皇子を倒したことには、複雑な感情を抱いていたはずです。彼は、天皇が権力闘争をせずとも国家を治められる方法を模索し、それが「シラス-ウシハク」の原理、すなわち権威と権力の分離という考え方に結実しました。これはまさに陰陽の原理を政治に応用したものです。
『古事記』は、聖徳太子が描いた「和の国」を実現するためには、どのような制度を作れば良いのかという問題意識から出発して辿り着いた書です。その背景を知らなければ、ただの物語にしか見えません。『古事記』の真意を探るには、編纂された歴史的背景を知ることが不可欠なのです。
(「見るだけで賢くなる理科の本」)
『古事記』は神話と史実を組み合わせた書
『古事記』の最大の特徴は、神話と史実が巧みに組み合わされている点にあります。単なる神話の羅列ではなく、そこには明確な意図が込められています。それは、この世の原理を神話を通じて明らかにし、その原理に基づいて日本を統治するというメッセージです。
天孫降臨は作り話です。その話を入れることによって山の神、海の神、火の神といった神々の血筋と繋げ、その権威を強化しようとしました。当時、蘇我氏のように天皇に取って代わろうとする勢力も存在しました。それを防ぐため、天皇の正当性を神話によって裏付ける必要があったのです。つまり、『古事記』はただの神話ではなく、政治的意図を持った歴史書でもあるのです。神話と史実を融合させることで、天皇の権威を強調し、国家統治の理念を示す書として編纂されたのです。
『古事記』は単なる昔話ではなく、深い思想と政治的メッセージを秘めた書物です。陰陽の原理を基盤に、この世界の成り立ちを説明し、天皇の正当性を示しながら、理想の国家像を描こうとしました。ただ読むだけではその意図を汲み取ることはできません。歴史的背景を理解しながら読むことで、初めて『古事記』の真の姿が見えてくるのです。
(「下野新聞社」)
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