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部活動の地域移行問題(その2) ―― 地域移行制度の法的リスクについて / 責任と現場のリアリティを見失った政策設計

「たかが部活動、されど部活動です。中学校生活をこの年になって思い返すと、部活動の思い出がたくさんあります」

女性

「私もですよ。私はバドミントン部だったのですが、汗も涙も流しました。だから子供たちの部活動がどうなっちゃうのかなと思って、心配しています」

「とにかく前回このブログで書きましたように、安上がりの教育を文科省が考えていることは確かです」

女性

「不思議なのは、なぜ中教審ではなく、有識者会議なのですか? しかも、2つの会議を立ち上げて、同時並行させています」

「中教審では学習内容や教育制度といった学校教育全体の制度枠を扱うところで、部活動はその枠を超えたものという判断があったと思われます」

女性

「部活動は学校教育活動ではないと言うのですか? そもそも、その辺りの認識が違っていると思います」

「受け入れ先として考えているのが、地域のスポーツクラブであったりするので、スポーツ・文化行政と連携する必要があります。そんなことから、文化庁・スポーツ庁が中心になって会議を立ち上げたのだと思います」

女性

「素朴な疑問ですが、私学では教員の指導による部活ができて、どうして公立ではそれができないのですか?」

「両者の最大の違いは、予算と裁量権の違いです。私立の財源は授業料+寄付金+助成金で成り立っており、現場の判断で部活動にいくらの予算、指導人数について自由に決められますが、公立の場合は教員定数と予算が国と県によって管理されているため、現場で必要と言っても、通らないことがあるのです」

女性

「ここからが本論です ↓表紙写真は「ふじみ野ふあぃぶるクラブ」の活動の様子です」

 政策の方向が逆転している

2人の会話の中で、彼女が「どうして私立で部活ができて、公立ではできないのか」と言っていましたが、これから実際に地域移行が進めば、誰でもこのような疑問を持つでしょう。日本のように横並び意識が強い国で、進学先の違いによって受けられる教育サービスを違えることをすべきではないのです。しかも、それは止むを得ない事情から出てきた結論ではなく、単に教育に金をかけたくないという財務省・文科省の意向となればなおさらです。

働き方改革ということで、教員の勤務時間を削るために部活動顧問を減らすというならば、代わりに部活動専任教員や地域連携支援員を増やすという方向であるべきです。それでは予算を削れないと考えた文科省は「外部指導者(安価な非正規・ボランティア)」や地域のスポーツクラブで面倒を見てもらうという考えに至ったのだと思います。部活動の地域移行は「働き方改革」を口実にした単なる「人件費削減策」として考えているのです。

公立ではできない最大の理由は、財務省の財政運営方針です。文科省が「教員を増やしたい」と主張しても、財務省が定数増を認めません。この構図は1970年代から続く「文財交渉」の典型例で、実際、文科省の概算要求で出した定数改善案の多くは毎年削られています。財務省は「人口減少で生徒数が減っているのだから、教員も減らすべき」と言い、文科省は「少人数教育を進めたい」と主張しても、結局は「財政健全化」を理由に却下されます。近年では、文科省は財務省に忖度して、教育予算を自ら削減して概算要求をするようになりました。その結果、人を増やさないまま、安易な発想の「改革」が続いているのです。部活動の地域移行はその最たるものです。

(「ABEMA TIMES」)

 教育活動か地域活動か――曖昧な法的構造

 学校の部活動を地域に移行させるという政策は、一見すると教員の負担軽減や地域との連携強化を目的とした前向きな改革のように見えます。しかし、その制度設計をよく見ると、法的・運用的に詰め切れていない部分が数多く存在します。とりわけ、責任主体の所在、雇用・報酬のあり方、そして施設利用の問題は、教育行政における根幹的な論点です。

最大の問題は、活動の性格が「教育活動」なのか「地域活動」なのかが明確にされていない点にあります。教育活動であれば、学校長が管理責任を負い、事故時には学校安全法制の枠内で補償が行われます。地域活動であれば、主催者は地域クラブやNPOなどの民間団体となり、責任の所在は学校から切り離されます。

文科省やスポーツ庁は地域活動を部活動の「代替・補完」であると捉え、両者を同じ意味として扱っていますが、法的には全く異なる概念です代替であれば主催責任は地域側、補完であれば学校側に残ります。現状の制度はこの線引きを曖昧にしたまま進んでおり、事故発生時の責任分担が不明確なままです。

(「産経ニュース」)

 雇用・報酬と施設利用――現場を無視した制度運用

 教員が勤務時間外に地域クラブの指導を行う場合、その活動が職務か私的活動かは曖昧です。公務外であれば労災の対象外となり、事故時の補償が受けられない可能性があります。地域クラブに雇われる形であれば、指導報酬や契約内容を明確にする必要がありますが、実際にはボランティア的な扱いが多く、法的裏付けが乏しいのが実情です。

さらに、施設利用の問題も深刻です。野球部やサッカー部のように広い練習場が必要な競技では、地域側が独自に施設を確保することは容易ではありません。学校施設を利用する場合、教育委員会が許可を出しても、教育活動外の使用となれば学校側の管理責任がどこまで及ぶかが不透明です。万一事故が発生した際、学校・教育委員会・クラブ・施設管理者のいずれに責任があるのか明確でなければ、訴訟リスクを抱えることになります。

照明や用具の維持費、鍵の管理、使用時間の調整など、現場では制度に書かれていない細かな課題が山のように存在します。こうした現場の「運用リスク」に正面から向き合わなければ、制度は机上の空論に終わるでしょう。

      (「鳶人」)

 改善の方向――責任の明確化と地域の多様性を前提に

 すべての部活動を地域に移行することは現実的ではありません。指導者や施設を確保しやすい都市部と、外部人材が限られる地方・過疎地域とでは条件がまったく異なります。そして、地域に指導者がいない場合はどうするのでしょうか。野球やサッカーの練習場はあるが、地域の指導者がいない。学校側が一番困るケースです。これ以外に、様々な問題が出てくると思います。下のイラストのようにみんなが楽しく地域で部活動を楽しめるかどうかは分からないと思っています。もともと不純な動機でスタートした計画です。絵に描いた餅になる恐れが充分あります。とにかく、全国一律の移行は教育格差を拡大させつつ、様々な不協和音を生じる危険性をはらんでいます。

制度を実効的なものにするためには、まず法的・制度的整理が不可欠です。①教育活動と地域活動の区別を明文化し、責任主体を明確にする、②指導者の雇用・契約・報酬体系を標準化する、③施設利用に関する管理責任と保険制度を整備する、④地域差を踏まえた柔軟な運用を認める――これらが最低限の条件です。

形式的な「地域移行」を進めるよりも、まずは学校と地域が安心して協働できる制度基盤を整えること。それができなければ、地域移行はしない。その位の気持ちで臨んで欲しいと思っています。最初にスケジュールありきではなく、あくまでも子どもたちの学びと成長を第一に考える必要があります。

(「神奈川県ホームページ」)

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