「日銀総裁が黒田総裁から経済学者の植田氏に交替して約2週間経ちました。意外に思ったのですが、経済学者を総裁で起用したことは今までなかったのですね」
「彼の経歴を見ると、東大の理学部数学科卒とあります。数学科から経済に転身したということみたいです」
「両方とも数字を使いますからね」
「経済はマクロとミクロの2つの視点が必要なので、頭の切り替えが大事だと思っています」
「数学はどうなんですか?」
「私は文系の人間なので数学のことは詳しくありません。前に数学者に聞いた話では突き詰めていく学問だと言われました。それこそ24時間考えて考え抜くようなタイプの人間が求められるそうです」
「将棋や囲碁のイメージでしょうか?」
「数学も含めて平面上の作業ですが、頭の使い方は立体的だと思います。3次元、4次元というように」
「そういう意味では、共通点があると……」
「それ以上は脳科学者に聞いてみて下さい」
「ところで、新しい総裁になって、日本経済はどうでしょうか? 前のように力強く世界経済をリード出来るようになるのでしょうか?」
「多分、あなたのように日銀総裁の力を過剰に評価している人が結構いると思います。金融のトップは、政治の指導者とは違います。あくまでも、調整役だと思っています。そして、その調整が自由に出来れば良いのですが、かなり制約されると思います。それをどうするかという難しい問題を背負うことになります」
「ここからが本論です ↓ 表紙は日銀本店です。「円」の形が分かると思います。日本経済新聞社提供です。」
経済は財政政策と金融政策の共同作業
経済は国内外の様々な要因によって起こる物流とサービス、さらには人の流れを踏まえて、政府と日銀が共同で対処することによって成果が期待できるものです。
期待できるという意味は、政府や日銀に仮に経済のプロパーを並べたとしても、その国の経済が好転するかどうかは分からないということです。何故なのか。それは経済の波はコントロールが難しく、予想することさえも出来ないからです。天気予報よりもはるかに難しいのです。
200位の国の政府、世界の人々、世界にある企業が経済活動をしているため、凄まじい金額のモノや資金が世界を駆け巡っているため、1国の政府と中央銀行がコントロールし切れるものではないのです。
(「海外進出ノウハウ/Digimm~出島~」)
経済をコントロールしようと考えて失敗したのが社会主義
社会主義・共産主義というのは「私的所有の廃止」です。そして、その私有していた財や富を「共同の所有、社会の全成員に属する所有に変えること」(『共産党宣言』)によって経済的平等を達成しようという考えです。私有の廃止と言っても、大きな経済の流れに関係のないものは除外されます。衣類や電化製品、車、住宅といった身の回りの物の私有は認められますが、それ以外のもの、土地や企業、工場といった生産に関係が深いものは全て公有となります。所謂、生産手段の公有化(国有化)という言葉で一般的に説明されます。
公有の形態はいくつかありますが、土地は国有もしくは自治体所有になるでしょう。企業は公営企業または国営企業になります。そうなれば、競争が無くなり、格差が無くなり、平等な社会が実現するという考えで壮大な実験をしたのがソ連です。結果は失敗しました。経済的に破綻をして、約30年前に崩壊しました。
失敗の原因を一言で言えば、コントロールすることが無理なものを相手にしようとしたからです。例えて言えば、海流を人工的に変えようとするようなものです。マルクス主義の生成期は今から150年前の産業革命期なので、コントロール出来るように思えたのでしょう。今のようなグローバルな経済社会を想定していなかったと思います。
(「幻冬舎ゴールドオンライン」)
経済活動は全国民が参加する団体活動
「経済活動は全国民が参加する団体活動」という認識をもてば、当たらずと雖も遠からずだと思います。金額は別にして、我々消費者も参加していることは確かです。だから、政府や経済界は、参加者を増やすために賃上げで基本的合意をしたのです。
経済のパフォーマンスが悪いからと言って、日銀だけを責めても意味はありません。「緩和を当面維持する姿勢を示したのは、金融市場に与える影響を考慮したためだろう。就任後は異次元緩和の功罪を検証すべきだ」(「毎日新聞」社説、2023.2.26日付)。「異次元緩和の功罪を検証」とありますが、経済の場合は、検証はほぼ不可能です。つまり、仮に緩和政策をしなかった、つまり低金利政策を実施しなかった場合に世界の経済主体がそれをどう判断し、どう動くかを予測することは出来ません。出来ないことを前提の検証はあり得ないということです。
「黒田氏が2013年、国債を大量購入する政策として打ち出した。グローバル企業の収益を押し上げ、株高を演出したのは確かだ。しかし、約10年が経過しても経済の好循環は実現していない。最近は、硬直的な政策運営の弊害が目立っている。昨年春以降、欧米の中央銀行が利上げを急ぐ中、日銀の緩和維持が過度な円安を招き、物価上昇に拍車をかけ」(「毎日新聞」同上)
「毎日」の社説の根底には社会主義的な考え方がある。「経済の好循環は実現していない」ことを日銀の責任にされてはたまらないだろう。「硬直的な政策運営」の原因は、国債大量購入にあることは確か。ただ、そうせざるを得なかった原因の根底には、日本経済全体の低パフォーマンスがあるのです。
GDPというのは簡単に言えば、国別経済力の団体戦みたいなものです。団体戦の成績が上がらなかったのは、様々な要因が絡み合ってのこと。
日銀だけに責任を負わせるような言説は科学的ではないと思われます。
(「日本経済新聞」)
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