
「高市新首相の所信表明演説のニュースを見ました。彼女の熱量は伝わってきました」

「総理大臣のやる気を測るのに一番よく分かるのが、実は所信表明演説なんです。普通の演説は党の総務会にかけますが、所信表明演説はかけません。だから、総理がやりたいことを自由に書けるのです」

「官僚の作文だと思っていました」

「高市総理は補佐官を6人新たに任命しています。そのうち官僚出身者はゼロです。彼らに総理自身が考えを伝えて、書いてもらったと思われます」

「そうなんですね。十七条憲法からの引用が話題になっていましたね」

「とにかく所信表明演説は、なにかと取り沙汰されるものです」

「公明党の斉藤委員長が独裁と評したそうですね」

「本人はその後釈明をしていたようですが、別れた途端に悪口では後味が悪いですね」

「中身についてコメントするならまだしもですよね」

「思考力がないとヤジったり、ケチをつけたりしか出来ないのです。所信表明演説に対して、新聞各社一斉に社説を掲載していますが、表面をなぞったような中身のないものばかりです。特集を組むくらいの姿勢を見せて欲しいと思っています」

「ここからが本論です ↓ 表紙画像は「首相官邸ホームページ」からのものです」
財政政策は有効に作用しないだろう
所信表明演説の「はじめに」で高市総理が繰り返した言葉が「強い経済」と「政治の安定」の2つです。そこに総理の気持ちと問題意識が現れています。ただ、どのような手段で「強い経済」を実現しようと考えているのかが問題ですが、続く「経済財政政策の基本方針」で「責任ある積極財政」の考えの下、戦略的な財政出動を行うと述べていますが、結論から言うと、その効果は極めて限定的となるでしょう。
財政出動とは、国民から集めた税金を必要な分野に資金を投じて経済を刺激する政策です。しかし、変動相場制の下では、財政政策を行っても、その効果は海外にスピルオーバー(拡散)してしまうというのが、1999年にノーベル経済学賞をとったマンデル・フレミング理論の教えです。
「責任ある積極財政」と言っていますので、国債を原資(財源)とする考えだと思いますが、国債を発行すると、長期金利が上昇し、円高に振れます。円高になると輸出が減るので、公共投資の効果は輸出減で相殺されてしまいます。そして円高は輸入増の要因となり、海外の需要が刺激されることになります。つまり、政府支出拡大で生まれた需要の一部が外国の生産を押し上げる方向に流出します。これが「スピルオーバー(拡散)」です。結局、国内では円高が需要増を打ち消すため、GDPはほとんど変わらず、海外では輸出増(=日本からの輸入増)により、わずかに景気が潤うことになります。「骨折り損のくたびれ儲け」になる可能性が高いのです。

(「MBS毎日放送」)
なぜ金融政策について何も語らないのか
金融政策なしの財政政策では何の効果もない、というのがマンデル・フレミング理論の教えるところです。現在の変動相場制(1973年~)の下では、金融政策が有効で、財政政策は無効です。ちなみに、かつての固定相場制ではその逆になります。つまり、為替制度の違いが政策効果を左右するのです。
金融政策は即効性こそありませんが、確実に少しずつ社会に浸透する様に効き目が出てくる政策です。にもかかわらず、高市総理は所信表明で金融政策について一言も触れていません。金融政策の実行主体は日本銀行(日銀)であり、日銀の独立性は尊重されなければいけません。しかしその一方で、日本銀行法(1998年改正)の第4条に「日本銀行は、経済政策の基本方針と整合的となるよう政府と十分な意思疎通を図らなければならない」という規定があります。つまり、日銀は政府から独立して判断する権限を持つ一方で、政府との協調も法的に求められているのです。日銀政策委員会に政府代表をオブザーバーとして参加させたり、経済財政諮問会議などを通じて政策目標を共有したりなど、ラブコールの送り方はいくつかあります。大切なのは、政府としてどのような考えを持っているのかを主権者国民にまず知らせる義務があると思います。
高市総理は安倍元総理の考えを受けついでいます。安倍元総理はデフレ脱却のために日銀と共同歩調をとり、異次元緩和を実施しました。高市総理はその姿を見ているはずなので、当然金融政策のことがあってしかるべきです。触れなかった理由は分かりませんが、本来はその辺りについて新聞記者が質問をして記事にすべきことなのです。

(「中央ろうきん」)
中間層救済のカギ――給付付き税額控除の導入を
高市首相が従来から唱えていたのが、「給付付き税額控除」です。日本経済を強くするためには、中間層以下の購買力を上げる必要があります。そのためには、所得税を少額、もしくは殆んど納めていない低所得者層にも恩恵が行き渡る制度が必要です。この「給付付き税額控除」の早期導入を求めたいところです。この税額控除の発案者は、新自由主義者の大家ミルトン・フリードマンです。彼は「負の所得税」というネーミングでこの制度の重要性を提唱したのです。
給付付き税額控除は、実は海外では一般的ですが、日本では聞き慣れない言葉なので、内容を理解していない方も多いのではないかと思いますので、説明したいと思います。まず税額控除ですが、治めるべき税金から控除額を引いた額を実際に治めるようにするものです。例えば、仮に年収が200万円でそこから所得控除を引いて150万となり、その150万に対する所得税が10万円だったとします。従来なら、この金額を納めることになります。税額控除というのは、この10万円からさらに引くことができる金額です。
税額控除をいくらに設定するかは、時の政府が決めることです。この額が大きいほど国民にとっては有難いのですが、仮に13万円とします。上の例で言うと所得税の10万円から税額控除の13万円を引いて-3万円となり、3万円が納税者に給付されるというものです。所得税を払っていないような低収入の人に恩恵がいく制度です。高市総理は「充分な時間をかけて」と言っていますが、システムを大きく変える必要はなく、今年度の年末調整や確定申告から導入できるものです。少なくとも一律の現金給付よりも行政コストはかからず、経済効果も高いと思われます。中間層以下の救済と消費の底上げに向け、早期実施が望まれます。
次回も所信表明演説について、コメントをしていきたいと思います。

(「東京新聞」)
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