「北朝鮮がまたミサイルを発射したみたいですね」
「困ったもんですね。9月に入って巡航ミサイル、短距離弾道ミサイル、極超音速ミサイルを発射しています。今回のミサイルですが、韓国軍の発表によると潜水艦弾道ミサイル(SLBM)が発射された模様だとのことです」
「素朴な疑問ですが、どうしてそんなにミサイル発射をするのですか?」
「実験を兼ねながら、アメリカや韓国などの隣国に威圧をかけているのです。そして、世界に対して商品としてのミサイルをアピールしているのです」
「世界には、ミサイルを買いたいという国があるということですか?」
「中東やアフリカなどには政情不安な国がまだ多くありますからね。ミサイルだけに限らず武器全般に対する需要は確実にあります。たまたま、昨日『THE MOLE(ザ・モール)』という映画を観たのですが、そういった闇のルートというのはやはりあるんだなと思いました」
「その映画はどういった内容ですか?」
「本文でも紹介しますが、北朝鮮に潜入して隠しカメラで普通の人間が撮れないような場面を撮り、それを編集して映画にしたものです」
「よくそんなことができましたね」
「映画を撮るために約10年の歳月を使っています。主人公のウルリクは相手を信用させるためにデンマークの北朝鮮友好協会に入会し、そこから実績を積み上げてついには北朝鮮に入国して隠しカメラを回すのです」
「随分手の込んだことを……。そのような映画を何故作ろうとしたのですか?」
「監督のマッツ・ブリュガー氏はデンマーク人ですが、彼は北朝鮮を実際に訪問して「ザ・レッド・チャペル」という映画を撮ります。しかし、その内容が北朝鮮指導者を揶揄しているということで彼は出入り禁止となりますが、その映画を観てある一人の男が提案をします」
「それが、『THE MOLE(ザ・モール)』の主人公なんですね」
「主人公の名はウルリク、やはり彼もデンマーク人です。職業は料理人です」
「監督は提案を受け入れるのですね」
「普通の人間なら止めとけと言うかも知りませんが、そこは芸術家ですよね。映画のためならと思ったのでしょう。ただ、一歩間違えれば死もあり得ます。そういった危険な仕事ということで、潜入する前にアメリカのCIAの「スパイ学校」で訓練まで受けさせています。映画の中には、そのシーンも入っています」
「ここからが本論です ↓」
目次
『THE MOLE(ザ・モール)』――北朝鮮が無法国家であることがよく分かる
映画の表題の『THE MOLE(ザ・モール)』ですが、「モール」というのは、スパイの意味です。主人公のウルリクは自分の妻にも何をしているかを打ち明けていません。映画の最後の方でそのことを打ち明けるシーンが出てきますが、彼の奥さんの何とも言えない表情が印象的でした。怒る訳にも、褒める訳にも、悲しむ訳にもいかない、どういう表情をすればいいのか分からないという表情でした。
北朝鮮に潜入するために、外堀りを埋めることから始めます。朝鮮親善協会(以下「KFA」)の会長であるスペイン人のアレハンドロと知り合いになったことが大きかったと思います。2011年にデンマークのKFAに入会するのですが、2014年には北欧4か国の代表にまでなっています。そして、そのうち北朝鮮に投資する投資家を探しているという話が入ってきます。具体的にどういう話か分かりませんが、その話に乗ります。まんまと北朝鮮に入ることができたのです。そして、各地で歓迎を受けます。
映画を観ていて、本当にこれはドキュメンタリーなのか、実はドキュメンタリータッチの創作映画ではないのかと何回か思いました。廃墟のようなところに連れて行かれて、実はその下には豪華なレストランがあり、そこでの華やかなもてなし、アフリカ、ウガンダにあるヴィクトリア湖の中にある島を買い占めて契約をするシーンもあります。武器のカタログが出されてスカッドミサイル5基1400万ドルという話もでてきます。
この映画はヨーロッパでは昨年すでに公開されていて、日本では現在公開中です。東京ではシネマート新宿で上映しています。ウルリクが宣伝用ということで堂々と撮った映像と内緒で撮った映像を組み合わせた構成になっています。北朝鮮が中東のシリアやアフリカなどに武器や麻薬を密売している実態が分かります。制裁逃れの具体的な方法についても隠し映像の中で喋っています。北朝鮮当局は、随分焦っているという話が伝わってきているのですが、無法国家であることの実態がこれだけでもよく分かります。
国内に大した産業もない上に経済制裁を受けている。どこからミサイル開発の資金を捻出しているのかという謎の一つが解けました。武器の密売大国だったということです。各国の大使館が重要な役割を果たしているのでしょう。一つのネットワークになっています。覚醒剤の製造をほのめかしている場面もありました。そういった言わば違法ビジネスを国家あげて取り組んでいるということです。要するに、犯罪者たちが国家を運営しているようなものだということです。この調子だと、核兵器の増産に向かって、ひたすら突き進んでいくと思います。そして、それを闇ルートを使って世界にばら撒くという危険性も考えなければいけないかもしれません。
(「Filmarks」)
『北朝鮮強制収容所』―― 体制を守るためだけに権力を行使している
手許に安明哲氏の『北朝鮮強制収容所』(双葉社、1997年)があります。著者の安明哲氏は北朝鮮生まれで政治犯強制収容所(以下「収容所」)の警備隊員として勤務、監督の任にあたっていたのですが、1994年に脱北、現在は韓国で暮らしている方です。
「収容所」は本人収容所と家族収容所があり、北朝鮮では本人が収容所に入る場合は家族も収容所に入れられます。そういった収容所が全国の至る所にあり、政治犯として収容されている人数は約20万人くらいではないかと安明哲氏は書いています。
政治犯というのは犯罪者ではなく、彼らが体制の「敵」として認定した者すべてが政治犯となります。資本主義的なものを広めても「敵」として認定されます。昨年、北朝鮮の大学生1万人が韓流ドラマを見たと言って自首をしてきたことがありました。その結果、現在は韓流ドラマを広めた場合は死刑、視聴したら15年の懲役となったのです。「反社会主義的行為を無慈悲に滅ぼすべき」(金正恩)とのことですが、何が「反社会主義的行為」なのかが分かりません。ただ、国家あげての「反社会的行為」は許されると考えているようです。
「収容所政策」はスターリズムの流れを汲むもの
共産主義思想の一番の問題は、自国民を敵と味方に分けて考える点です。二律背反思考です。一種の形式論理ですが、現実の社会は奇麗に分けることができない場合が殆どです。無理やり分けて考えると矛盾が出てきます。共産党は大企業と中小企業を敵と味方、完全に分けて考えます。立憲も同じような見方をしますが、大企業と中小企業は資本や取引、あるいは技術協力などの面で密接に繋がっている場合が多いので、完全に分けることは無理です。アメリカは敵扱いです。中国や北朝鮮は味方だったのですが、最近はそれが言えなくなって内心困ったなと思っているはずです。頭の中に変な公式を思い浮かべながら形式論理を持ち込むから、見方を誤るのです。その見方を止めて、現実を素直に受け入れれば良いだけのことです。
(「JICA/02カンボジア編 池上彰が見る!考える!」)
資本家や地主を階級の敵ということでカンボジアのポルポト共産主義政権は100万人の自国民を虐殺しました。ソ連のスターリンは反革命分子と認定した者を強制収容所に送り込みましたが、そこでの拷問、強制労働、処刑の実態を暴いたのがソルジェニーツィンの『収容所群島』です。題名の中の群島ですが、群島の中に収容所があるという意味ではなく、ソ連領内の至る所に収容所があり、まさに群島のようだと言っているのです。それ以外に、強制移住あり農業の集団化ありで、社会主義という名目のもと、人権弾圧が長年にわたって行われたことが分かります。
そのスターリンの時代、金日成はソ連国境警備隊のパルチザン収容施設で軍事的な訓練と教育を受け、ソ連陸軍大尉の階級を与えられていたのです。終戦後、北朝鮮地域をソ連が占領しますが、その中で最大の都市が平壌だったのです。1945年の10月に平壌で「ソ連解放軍歓迎平壌市民大会」が開かれ、ソ連のイワン少将が「国民的英雄」として金日成を紹介します。金一族による北朝鮮の統治が始まった瞬間だったのです。ただ、その時に彼はスターリニズムのDNAを持ち込んでいたのです。北朝鮮が「収容所群島」になっているのも、むべなるかな、という思いです。
(「古ほんや板澤書房」)
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