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「ステークホルダー資本主義」|ダボス会議で提起された21世紀の資本主義

(この記事は3/21日に更新しました)

この記事は
・ステークホルダー資本主義という次世代型資本主義とはどのようなものであるのか?
ということについて書いています。

 ステークホルダー資本主義とは新しい資本主義の形

資本という言葉を聞いて、思い浮かぶイメージは何がありますか?
女性
資本金とか資本家と言ったりするので、お金、財産…。こんなものでしょうか。あと、「身体(からだ)が資本」という言い方ありますよね。
それは自分の肉体が一生懸命動けば、お金を稼ぎ出してくれると思って言った言葉だと思います。
女性
なる程、お金を生み出すものね。じゃあ、たくさんあるわ。工場、工作機械、それから会社そのものも資本ではないでしょうか
それらを資本財と言いますが、今、思い浮かべてもらったものは、目に見えるモノですよね。これからの時代は、それだけでは戦えないということをまず知って欲しいと思います。
女性
どうすれば、戦えますか
頭の切り替えをすることです。今は、資本というのは、知識、データ情報、知的財産といった無形資産に概念が変わってきています。
女性
ということは、今まで「お金持ちになりたい」と思った人は工場を建てたり、会社をつくったりすることを考えれば良かったけれど、それではもう古いということね。
その考えは20世紀で終わっています。
女性
「終わっています」と言われますが、10年位前に高校で習ったんですけど……。大学ではマルクスの『資本論』の講義を受けたこともあります。
教科書が時代の流れに追いついていないと思う時があります。なお、『資本論』ですが、マルクスが生きた時代は今から150年前の資本主義が成立する頃で、機械による大量生産が始まろうとしていた時代です
女性
基礎というのは、どんなに古くなっても有効ではないでしょうか。
その人が、どのような対象に対して、どう考えたのかという思考過程が正しければ、それはそのまま学びの対象となります。そこには古い、新しいといった差はありません。
女性
対象が変わることによって、理論が使えなくなったりするということですね。
例えば、マルクスが労働価値説の説明をするために、『資本論』の最初で商品分析をしていますが、そこで例にあげている商品は、小麦、絹、トウモロコシといった1次産品です。彼の時代は、サービスやデータが市場で取引きされる時代ではありませんでした。
女性
使える部分と使えない部分があるということですね。
政治経済、特に経済分野はめまぐるしく変わる分野なので、学校で習ったことが、未来永劫通用する訳ではありません。数学や物理の公式も含めて、理系分野の原理・原則は学校で習ったことが100年、200年通用すると思いますが、社会科学に関することについては、短期間で常識が非常識に変わることもあります、と生徒にはよく言っています。
女性
分かりました。今、私は頭を切り替えました。
日本人は権威に対して、すぐに忖度(そんたく)してしまうところがありますので、あなたのような方は結構珍しいのです。
女性
身体が柔らかいので、頭も柔らかいと思います。
ちょっとそれは違うと思いますが、まあいいでしょう。柔らかい頭を更に柔らかくするために、先日開かれた世界経済フォーラム「ダボス会議」(2020.1/21~24)の話をしましょう。

女性
何か新しい動きでもありましたか?
その会議の中でアメリカIT企業のマーク・ベニオフ氏は「私たちが知っている資本主義は死んだ」(「朝日」2020.2.3日付)、つまり株主の利益最優先の在り方を、もうやめようと提起したのです
女性
そのあとに、新しいかたちの資本主義の提起はあったのですか?
環境や社会問題に配慮する「ステークホルダー資本主義」が掲げられた(「日経」2020.1.26日付)とのことです。




ダボス会議は、今回でちょうど50回目でしたが、内容的に一つの節目を迎えた形となりました。世界の殆どの国は、自由競争市場をベースとした資本主義というシステムのもとで国家運営をしています。企業はその中にあって、利益を追求し、その一部を株主に還元し、政府に税金を支払って、その公的使命を果たしてきました。

ところが、そのような株主最優先のあり方が貧富の格差を拡大させ、さらには環境破壊ということが広範囲に広がってしまったので、ここで方向転換をしなければいけないということが提起されたのだと思います。

今回の会議のテーマでもある「ステークホルダー資本主義」は、そのような事情から出てきた方向性だったのです。ステークホルダーというのは、利害関係者という意味で、企業は株主だけでなく、従業員、消費者、地域住民にとって役に立つ存在であるべきだという考え方です。このような考え方が出てきたのは、一つにトップ企業が余りにも急速に巨大になり過ぎたということがあります。

これは2/6日のブログでも書いたのですが、マイクロソフト、アップルのIT関連企業上位2社の総資産はそれぞれ110兆円を超えます。マイクロソフトの創業は45年前の1975年です。総資産の110兆を45年で割ると、1年当たり約2.4兆円です。平均して2.4兆円ずつ資産を増やしてきた計算となります。これをマイクロソフトの現在の従業員数15万人で仮に割ってみます。そうすると、1600万円という数字が出ました。もちろん、創業当時から何万人も従業員がいる訳がないので、計算上は1人の労働者が何億円という価値を会社にもたらしたことになると思います。これは、マルクスの労働価値説では説明ができません。そういった事態が起きているということです。

そして、簡単に1兆円と言いますが、大変巨額な金額だということを実感して頂くために、数字を出します。仮に手元に1兆円あったとします。「毎日100万円使っていいよ」と言われて、使い始めて使い切るのに何年かかるかということです。答えは約3000年かかります。

110兆円ですから、そのペースだと33万年かかります。このような先進国の国家予算を上回るような資産を有する巨大企業が出現することは、誰もが考えてもみなかった想定外のことだったと思います

資本主義経済を支えている「主役」は、あくまでも金融政策や財政政策に主体的に関わっている政府です。それよりも資産的に巨大企業が出現するということは、「経済の下剋上」が起きることもあり得るということです。わずか100万、200万で外国企業の便宜を図ろうとする国会議員がいるのですから、その持っている巨額の資産を武器にして政府、果ては国そのものを支配できる可能性があるということです。

現代の資本主義経済は、政府と企業が協力することによって成り立っているシステムですが、そうなると、政府と企業の間に対峙したり、敵対したりという緊張関係が生まれることがあります。そういったことを避けるために出てきたスローガンが「ステークホルダー資本主義」ということだと思います。

ただ、そのような考え方は、今まで国連が「持続可能な開発目標(SDGs)」ということで提唱してきたこととベクトルの向きは同じです。簡単な言葉で言えば、ある特定の集団のための企業活動ではなく、世のため、人のため、みんなのための活動を企業が率先して行いましょうということなのです

この大きな流れを踏まえて、日本企業は何を考えなければいけないのか第一は、企業は自社の利益優先ですべてを考えるな、ということです。ブラック企業はとんでもないし、地域の人との交流や地域貢献も考えなさいということです。

第二は、労働価値説的な考えからの脱却です。労働者が価値を形成する面もありますが、現代はデータ、情報をどのように組み合わせるかが勝負の時代です。世界のビッグ5はIT関連会社です。相変わらず中国や東南アジアに工場を建ててということを考えている企業がありますが、潮目が変わっていることに、そろそろ気がついて欲しいと思います

 第三は、日本企業は日本という国内に目を向ける時期に来ているということです。トヨタがスマートシティ構想を立ち上げましたが、企業が地域活性化のために中心的役割を果たすことが期待されるような時代となりました

かつて戦国武将は、自分の城下町をいかに活性化するかということに知恵を絞り、汗を流しました。そんなところから、戦国武将は庶民に慕われ、愛されていったのです。現代の企業人は、戦国武将に見習って日本文化を継承した企業城下町を作って欲しいと思います。

「ベトナムでスマート都市」(「日経」2020.1.23日付)を日本の企業2社が1000億円をかけて行うそうですが、ピントがずれています。国内に目を向ける時代です

読んで頂きありがとうございました

(アイキャッチ画像はあしたのコミュニティーラボ様より)

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