「大学院生の借入金、いわゆる奨学金のことを話題にしたいと思います。文科省の研究所の調査によると『(日経』7.3日付)に大学院生(修士課程)の16%が300万円以上の借入金をしているとのことです」
「奨学金なので返還免除の規定があるはずですよね」
「貸与期間中に特に優れた業績を挙げれば、奨学金の全額または半額を返還免除するという決まりがありますけどね」
「優れた業績を挙げるのが大変そうですね」
「特に、理系関係は難しいと思います。10年、20年続けて成果が出る分野は理系関係が多いからです。あと、研究というものはすぐ結果を求めるものではないと思います。無駄なようなものが役に立つということがあるからです」
「そもそも学部と同額の授業料をとっていますが、修士課程は半額、博士課程は学費免除で良いと思いますけどね」
「私もその考えに賛成です。先の調査によると、大学院の修士課程の学生の3人に1人が60万円以上の借入金があるという状態です」
「大学の学部時代からのものを引き継いでいる人もいるんでしょうね」
「300万円以上という金額を考えれば、そうだと思います。借金が多いと、研究をこれ以上続けられないという気持ちになってしまいますし、頭脳の海外流出という問題も出てきます」
「国際競争力がどんどん落ちているとのことですよね」
「平成の初めは世界1位だったのですが、30年間で25位にまで転落してしまいました。そういう中で、修士課程から博士課程への進学率が激減しているのです」
「それでは、お先真っ暗じゃあないですか。ここからが本論です ↓」
「技術大国、日本」は過去の話になりつつある
「技術大国、日本」ということが言われてきましたが、もちろん自然にそうなることはありません。この世界はすべて因果関係で成り立っていますので、結果を出すためには、それなりの態勢を作っていく必要があります。結果が出ているものについては、修正せず結果が出ていないものについては点検し、場合によっては新しい制度を構築する必要があります。ところが、2001年、国は真逆のことを行います。
2001年に国は構造改革に取り組み始め、「科学技術基本計画」を発表、政策を大きく転換させ、科学の世界に競争原理を導入します。「競争的資金」を増額する一方で、「基盤的経費」が毎年1%ずつ減らされることになります。数字を紹介すると、平成16年と平成29年を比較すると、約1400億円減額されています。「基盤的経費」は研究者の人件費に使われてきたものなので、その削減に合わせて、教授や准教授といった研究職のポストが減らされていったのです。
(参考: 「NHKスペシャル 平成史スクープドキュメント 第5回 “ノーベル賞会社員” ~科学技術立国の苦闘~」2019年.2、17日放送 )
(「ニューズウィーク」)
こういった日本の研究者を取り巻く状況に危機感をもったのがノーベル生理学・医学賞を2018年に受賞した本庶佑特別教授です。自身の名前を冠した研究支援基金、「本庶佑有志基金」を京都大学に設立したのです。「有志」としたのは、「有志竟成/ゆうしきょうせい」(強い志を持っていれば目標は必ず達成できる)の故事成語からとったそうです。ノーベル賞の賞金と製薬企業からの特許料収入、民間からの寄付(インターネットを通して寄付出来ます)などを基金に充て、若手研究者の自由な研究活動を支援するとのことです。頭が下がる思いです。本来は国が行うことです。
博士課程に進学する学生数が長期低落傾向
ここ近年はノーベル賞受賞者が日本の研究者育成の方針や、科学技術政策の問題を機会あるごとに意見を言っています。共通しているのは、「このままではダメだ」というものです。
研究費の問題もさることながら、研究力を支えるのが博士課程の修了者ですが、修士課程の修了者からの進学率が激減しているそうです。文部科学省の『学校基本調査』によると、修士課程から博士課程への進学率は、いまから40年前の1981年は18.7%だったのですが、2020年度は9.4%となり半減したことになります。何故、減ったのか。簡単に言えば、そのまま博士課程に進学しても研究者として安定したポストが得られるかどうか分からないという見通しを、多くの大学院生が持ち始めたからです。
そのため、博士課程入学者は2000年代初頭をピークに減少傾向に歯止めがかかっていない状況が続いています。日本の科学技術や学問・文化の発展のため、この状況を何とかする必要があります。この問題の原因には、学費の問題、研究費の問題などが絡み合っています。また、担当する官庁(文科省)の問題もあります。そのように、ある程度原因がはっきりしていますので、やる気さえあれば比較的容易に解決する問題と考えます。政治家の識見にかかっていると思っています。
(「吉村やすのり 生命の環境研究所」)
学術論文(科学系分野)数も減少傾向にある
このような状況は学術論文(科学系分野)数にもあらわれています。NSF(National Science Fundation)によると、2000年、世界の学術論文数は1位「米国」30万4782件、2位が「日本」で9万7048件でした。 最新の2018年では、1位は「中国」52万8263件です。中国は、この20年ほどで約10倍もの数になりました。続いて「米国」42万2808件、3位は「インド」で13万5788件、4位は「ドイツ」で10万4396件。そして5位が「日本」で9万8793件。科学系の学術論文は、特許との絡みもあるので、優れた論文をいち早く発表する必要があります。特に、中国の躍進がめざましく、科学研究分野で世界をリードする勢いです。力で世界征服を狙っている国に首位を独走させることは、日本の安全保障の問題とも絡みます。
日本では2006年の11万2127件をピークに減少傾向にあり、ちょうど博士課程入学者が減少する流れとリンクしています。ということは、博士課程入学者を増やして、研究費の問題をクリアーすれば良いということです。
(「ライブドアニュース on Twitter」)
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