「ギグという言葉を知っていますか? お願いだから、ダジャレは言わないでね。ギクッとか言わないで下さい」
「結局、自分で言っているんじゃあないですか。知りません。」
「最近、よく使われるようになったのですが、英語の「gig」から来ていて、短いセッションを意味する音楽関係の俗語だそうです」
「どのような言葉として使われているのですか?」
「ギグワーク、ギグエコノミーという熟語として使われたり、『ギグ後に来る未来』というように単語として使われたりもします」
「そうすると、ギグワークというのは、短い労働ということになるのですか?」
「そうですね、1~3時間などの短い時間だけ働き、継続した雇用関係のない働き方を指します」
「いわゆる、短時間のアルバイトということですか?」
「従来のアルバイトとは違う働き方になると思います。アルバイトは例えば毎週火曜から木曜までの9時から12時というように、時間帯が定まっていますが、ギグワークは定まっていません」
「すき間時間アルバイターということですか?」
「簡単に言えば、そういうことですね。ギグワークのアプリも出て、コロナ禍で人材が余ってしまっている分野の方たちにとって有難いということで利用者が増え始めているのです」
「コロナ禍対策として出たものなのですか?」
「いえ、もともとは新しい時代の新しい働き方の一つとして出てきたものです。ある程度の技能、キャリアをもった人をギグワーカーとして使おうという積極的な意味があるのです」
「ここからが本論です ↓」
役所や大企業がギグワーカーを人材として採用し始めた
ヤフーは2020年7月に、他社で働きながらも副業として同社で働きたい人材をギグパートナーとして募集すると発表しました。仕事内容は、インターネットサービスの企画立案、事業戦略の立案、メディアの企画立案や事業化などですが、4500人以上の応募者があったと言います。書類選考や面談を経て104人が採用されたのですが、その年齢層は10代から80代と幅広いものでした。最年少は10歳、最年長は80歳とのことです。
また、神戸市は2020年9月に市の広報業務に副業として参加する外部人材を募集しました。広報の専門スキルを持つ外部人材をギグワーカーとして採用しようという試みです。業務委託契約なので登庁の必要がないので、他府県からの応募も可能ということです。
最後にキリンホールディングスですが、ここは「キリングループ・ビジョン2027」という長期経営戦略の中に、外部のギグワーカーの能力やアイディアを積極的に活用していこうとしています。さらに、社内の従業員に対しては、働き方改革ということと、自身の成長と社会への貢献ということで、積極的に副業を認める方針をすでに打ち出しています。
ギグワーカーは21世紀型分業の形態
イギリスの経済学者アダム・スミス(1723-1790)は、『国富論』の中で「分業」つまり「社会的分業」が生産力を増大させたと言っています。なぜ、人間以外の他の動物は、その日暮らしなのか。経済学的に言えば、「分業」をしないからです。人間は「分業」によって多くの富を手に入れることができるようになりました。
会社という組織も、その内部において「分業」がシステム的に行われています。ギグワーカーが導入されれば、内部と外部あわせての「分業」ということになります。理屈の上では、今までの分業よりも更に強力な分業体制になります。分業を支える分母の数が格段に大きくなるからです。
現在は、SNSを使えば、外部の人材を簡単に組織内に導入できるようになりました。また、外部の人間からすると、自分の空いた時間でお金を得ることができるし、自分の経験や能力が他の会社や組織にとって役立っていると思えば、嬉しいものです。特に、日本人の奉仕の精神をくすぐるようなところがあり、多くの企業がこのギグワーカーのシステムを採用するようになれば、労働市場はかなり活性化すると思います。
かつてアダム・スミスは、個々人が利益を求めて利己的に行動しても、「神の見えざる手」によって調和のとれた世界となっていくと考えました。会社の人間は業績を上げたい、利益を上げたい、ギグワーカーたちはすき間時間で報酬を得たいと思っています。その両者の欲求が上手く「見えざる手」によって導かれる可能性が21世紀にSNSというツールを人類が手に入れたことによって可能になったのです。
(「Nowjob」)
労働組合「エイエイオー」の時代ではない
このブログで、「21世紀は労働組合運動終焉の時代」ということを言ってきました。労働組合というのは、会社の経営者(使用者)と労働条件について交渉し、合意にもっていくための組織ですが、あくまでも組織内のメンバーだけを想定して活動しています。
毎年、今頃の時期になると年度の始めの4月から賃金をどのくらいにするかということについて、組合側は経営陣と交渉をします。いわゆる「春闘」ということで見慣れた風景かもしれませんが、日本独特の習慣です。
「定期昇給」、「ベースアップ」という言葉は、日本が高度経済成長期であった良き時代の名残りです。経済や経営が右肩上がりであれば、それに対応できると思いますが、今の日本の経済状況を見る限り、無理ではないかと思います。
これからの企業は激しい経済競争に勝ち残るために、広く人材を社会に求める必要が益々求められることになります。そんな事情を考えると、ギグワーカーへの需要は高まっていくと思われます。
労働組合の活動も、経営陣を敵対視するのではなく、共に会社という組織を支える意識を持ちつつ、組合員に対してはスキルアップをはかるための啓蒙活動や業種を問わず人材の募集についての情報提供、ギグワーカーたちとの情報交換など、人材の流動化とキャリアアップを促すような活動にシフトせざるを得なくなるのではないかと思っています。
少なくも、ただ単に賃上げのためだけに労働組合が「団結がんばろう」と叫ぶ時代ではなくなりつつあります。
総合的な労働者のためのネットワーク組織として生まれ変わることが必要だと思います。
(「times.abema.tv」)
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