「ギフテッドという言葉を知っていますか?」
「何かで聞いたことがあります。何でしたっけ?」
「前にNHKの『クローズアップ現代』(2019.8.28放送)で、そのことが放送されて、結構反響があったのですがね」
「それで思い出しました。天から能力をプレゼントされた人ですよね」
「アインシュタイン、ビル・ゲイツ、フェイスブックを創設したマーク・ザッカーバーグ。彼らは皆、ギフテッドといわれています」
「アインシュタインは発達障害だと聞いたことがありますけど……」
「能力が極端に偏っていたようです。物理学者として優れていた割には、高等数学が苦手だったようで、難度の高い数学は他人に任せていたと言われています」
「暗記科目が苦手だったと聞きましたけど……」
「語学、歴史学が全く苦手で『君が学校を辞めてくれることを期待する』とギリシア語の教師から言われています」
「そこまで、言われたんですか。可哀そう」
「彼は高校を中退していますからね」
「その後、どうなっちゃったんですか?」
「彼を受け入れてくれる高校があり、理解ある教師の下で勉強を続けることができたということです」
「出会いが悪ければ、ただの人になってしまった可能性もあったということですね」
「そういうのを『浮きこぼれ』というのだそうですが、日本でも相当数いるのではないかと言われています。IQ(=知能指数)で言うと130を超える人たちです。人口の2%、数にして250万人程度日本にもいるだろうと言われています」
「そんなにですか? 殆ど埋もれてしまっているのですね」
「今の日本の学校教育制度では、受け入れる態勢がとれないと思います。まず、ギフテッドかどうかを見極めることが教師に求められますし、そのギフテッドをどう育成するかという問題があります」
「ここからが本論です ↓」
ギフテッドを発掘する人材戦略を
日本の人口が2008年をピークに減少しています。出生数は1973(昭和48)年の209万人から2019年には86万人に激減し、今年はさらに減ることが予想されています。そしてこのままだと、2055年には1億人を切ると言われていますし、そうなると早晩5000万人を切ってくることになります。
人口対策については、別に考えることとして一応そういった人口減があったとしても経済発展を続けるためには、どうすれば良いのかということです。高度な技術開発や研究開発を推し進める人材が必要です。今回は、ギフテッドたちの力を借りることを考えたらどうですかという提案なのです。日本は全くの無策だからです。
そして、実はアメリカのカリフォルニアのシリコンバレーに、ギフテッドたちだけの学校があるのです。ヌエーバスクール(1967年創立)というのですが、4歳から18歳まで、IQ135以上の生徒905人が在籍しているそうです。
ところで、ギフテッドについて改めてどういう人を指すのか、確認したいと思います。Wikipediaは「先天的に、平均よりも、顕著に高度な知的能力を持っている人」とあります。「先天的」であり「顕著」がキーワードです。生まれた後に英才教育を施して様々なことができるようになった子供は除外されるということです。あくまでも、2つの条件が満たされている必要があります。
ギフテッド教育の先進国はアメリカ
ギフテッドの子供の特徴は、能力のアンバランスが多々見られるということです。IQが高いのですが、周りとの協調性に欠けたり、多動であったり、文字がバランスよく書けなかったりということがあったりします。中には、発達障害をもっていたりすることもあり(twice-exception)ますので、そうすると才能を見逃すことも出てきてしまいます。
そういった子供は、日本の教室で浮いた存在になりがちです。弁がたち、基本的に生意気で勉強が出来るというか簡単すぎるため授業がつまらないのです。それを正直に言うと、いじめの標的にされたりしますので、わざと分からないような振りをしたり、間違えたりします。日本のギフテッドの子供の9割の子供は「生きづらさ」のようなものを感じて学校生活を送っていたようです。
日本の教育は、工業社会を前提にした全国一斉の一律教育なので、そういったギフテッドの子供たちを受け入れるような態勢になっていません。しかし、今の憲法には「教育を受ける権利」(26条)が明記されているのですから、国の都合で一律に教育内容を決めるのではなく、子供の状況に焦点を合わせ、子供の能力を伸ばすためにありとあらゆる手立てを用意する必要があるのです。
文科省はそういった考えは現段階ではないようです。というか、現場経験がない彼らには全くイメージがつかめないので無理だと思っています。経済産業省が専門家を交えて動き始めたようですが、教員の人材をどのように獲得するかが問題となるでしょう。ギフテッドの子供たちはIQが高いので、それなりの高い能力をもった人間でないと彼らを教え指導できないからです。
ギフテッド教育については、アメリカが先進的だと思いますが、アジアでは中国やマレーシアなどでは国家レベルでそういう子供たちを集めて教育しているようです。彼らの高い能力は、国家として魅力的なのだと思います。
日本におけるギフテッド教育に向けての取り組み
先に紹介したヌエーバスクールで15年以上にわたって指導し、現在「東京ウエストインターナショナルスクール」(東京八王子市/URL:www.tokyowest.jp)のCOOを務めているのが、川崎由紀子氏です。
また、「東京インターナショナルプログレッシブスクール」(東京都目黒区/https://www.tokyoips.com/)は、子どもたちの多様な個性を活かす軽度の発達障がいや学習障がいを含む、さまざまな個性をもつ子どもたちのためのインターナショナルスクールです。日本国籍の子供たちは、普通学級、特別支援学級に入れます。海外から来る駐在員や労働者たちの子弟の受け入れ先が不十分です。小学校4年生から高校3年生まで、17か国の子どもたち約40人が学んでいます。
ソフトバンクグループの孫正義社長は「トップ、異能をさらに大きく伸ばしていこうと、こういう部分については、日本はあまり力点を置いていないし、得意としていない。産業や学術の世界でリーダーになりうる芽をさらに伸ばしていきたい、応援していきたい」ということで孫正義育英財団を創設しました。「異能の発掘、進学留学支援、研究施設の提供」とおっしゃっています。
このように、個々には、動きがあるものの民間の動きで止まっているというのが、日本の現状だということです。
新しい時代に対応した教育改革を求める
文科省の官僚は、国家上級試験の関門をくぐり抜けて採用された偏差値エリートの集団です。彼らは、学校教育の中で「正道」を歩いてきた人たちなので、ある意味でギフテッドと対極的な位置にいます。教育行政に携わってはいますが、殆どの者が教員免許を持っていない方たちです。自分が教育を受けた立場の目線からの教育現場しか知らないので、まず彼らの心情が理解できないと思いますし、何をどのようにしたら良いのか、何も分からないと思います。先に、彼らには制度設計は「無理」と言ったのは、そういった理由からです。
ギフテット教育も重要なのですが、英才教育を準備をする必要もあります。従来の固定資本中心の資本主義社会とは違い、無形資本に価値の重きがシフトしています。アメリカの巨大IT企業4社(GAFA)の株価総額は日本のGDPを上回るという、一昔前ならば想像もできないような現象が起きています。データが「21世紀の石油」と言われる所以ですが、文科省の発想は工業社会を前提にした教育しか考えていません。
言葉を変えると、時代遅れの人材教育をしているのです。「文部省の体質をそのまま引き継いだ文科省に、真の教育改革などできるはずがありません」(有元秀文『文部科学省は解体せよ』扶桑社、2017年/23ページ)。それは「教育の現場を知らない素人集団」(同上)だからと言います。有元氏は都立高校の国語の教員を勤めた後、文部省の国立研究所の主任研究官の経歴をもっている人です。
文科省に期待ができないのであれば、例えば「教育省」(仮称)という新しい省庁を創設する、もしくはギフテット教育、英才教育についてのみ、地方に権限を委譲ないしは委託するかを考えるべきでしょう。
手をかければダイヤモンドのように光り輝く可能性があるのに権限だけ握って動こうとしない。人材を育てることに不熱心なこの国の将来を憂いています。政治の貧困という一言だけでは片づけられない深刻な問題がそこにはあると思っています。
読んでいただき、ありがとうございました。
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