人口減少が止まるどころか、加速している。2018年生まれの子供たちの数が約92万人、2019年が約87万人である。ちなみに今から約30年前の平成元年は約125万人である。45年前の1975年は200万人であった。
このままいくと、日本人がいなくなるのではないかと真面目に思うくらいの落ち込み方である。この世界は因果関係で成り立っているので、そのような現象が起こるということは、必ずそれを引き起こしている原因があるはずである。
対策を立てても効果が上がらないのは、因果関係の捉え方が間違っているか、対策の立て方が弱いか、どちらかである。人口減の背景には、地域や学区の崩壊の問題に絡んで都市化の進展や核家族化の進行といった問題がある。単純に、地方に交付金を増やしたり、教育無償化をしたりすれば解決するという問題ではない。
前に「蟻の目」と「鷹の目」のことを書いた(教科書に書かれている嘘シリーズ(7)―「天皇機関説」/1月3日配信)。
「蟻の目」DNAが主流の日本人にとって、複雑に社会問題が絡み合った問題は最も苦手な分野である。そんなことを直感的に感じるのであろうか(日本人の直観力はかなり鋭敏、そして切り替えが早いのも日本人の特徴)、人口減があることを「当然の前提」と考えた上で、AIや先端技術を駆使して、いかに経済成長を果たしていくかを考えるべきだという意見が散見されるようになった。
確かに人口が2千万、3千万位の国は世界に多くある。今話題の台湾は約2千万人、隣国の韓国は5千万人である。ヨーロッパの国々は総じて人口は少ない。スイス、イスラエル750万、スウェーデン900万、デンマーク500万、イギリス、フランス6000万である。
そういう数字を頭の中に思い浮かべて、人口減少を一種の自然現象と考え、大事なことはそれに見合った社会の構築であるといった意見である。
5,6年位前だと思うが、「人口減少どんとこい」という趣旨の文章を、ある新聞に載せた自民党の若手有望国会議員がいた。国会議員がそういう意識では困るので「それを言うならば、隗より始めよなので、まず国会議員定数半減法案を提出してからにして下さい」という趣旨の手紙(脅迫状ではないので、念のため)を送付したことがある。それ以来、その議員はそういった類のことを言わなくなったが、「人口減少仕方がない論」が広がるのは、良いことではない。
冒頭の数字を見ると、このままでは100年以内に人口が半分以下になることが予想される。人口減少が続くと、どのような不都合なことが起こるであろうか。予測してみた。
財政破綻が一番の心配事である。国債発行残高が約1000兆円を超えて、ここ2,3年は約40兆円ずつ増えている状況である。そのことだけを捉えて財政破綻を言う人がいるが、GDPが増えている間は大丈夫である。
国債発行残高というのは、企業の借入金のようなものなので、それに見合った資本が国内にあり、経済活動が行われている間は財政破綻ということはあり得ない。世界には10兆円の借入金がある大企業もある。片や1000万円以下で倒産する企業もある。要は、バランスの問題である。
資本は土地、建物、工場や様々なインフラといった旧来の考え方に加え、最近ではデータ、知識を産み出す才能、文化もそこに入れて考えるべきとの意見があり、私自身もその考え方に賛成である。とにかく、財とサービスを生み出すありとあらゆるものと、国債発行残高という名の累積債務のバランスがとれている間は破綻はない。
資本を生み出すのが人間である。人財とは、言い得て妙であるが、人口減は根源的な部分に関わる問題なのである。労働生産性を上げれば良いという人がいるが、生産性を倍にするのは、口で言うほど簡単なことではない。経済成長率が5%でも大変なのに、倍というのは100%だからである。言うは易し、行うは難しである。
そして、他国との関係も考えなければならない。資本主義経済というのは、競争原理が働いているので、世界は経済競争をしているようなものである。世界に日本という国しかなければ、独壇場なので、早かろうが遅かろうが関係ない。
各国がマラソンランナーというイメージである。先頭集団から離れ、遅れて抜かれ続けると、最後には呑み込まれて消滅することもある。世界選手権なので、足の遅いランナーをいつまでものんびりと走らせてはくれない。戦後75年の間に、ソ連、ユーゴスラビアなどコースから退場した国は183か国もある。
今の状況は、先頭集団に残れるかどうかというところにいる。疲れが出ている。いきなり脱落することはないが、その前に必ず兆候として、経済の疲弊が起こる。練習で鍛えてこなかったところが弱点となるように、労働生産性が弱い分野からそれは起こる。林業、零細農家、零細工業、伝統産業といったところだろうか。実際に、そのような分野から人手不足倒産、家業の後継ぎがいないといった悲鳴が聞こえるようになった。
実は、兆候はすでに始まっているのだ。
原因に焦点を合わせて対策をする必要がある。ランナーにカネを見せても意味がない。周りの応援が必要である。
地域の人的ネットワーク破壊の元凶である大規模市町村合併と学校統廃合(特に小学校)を直ちに止める。経済効率優先によって行われているそのような施策が、人口減の遠因となっているからである。
そして、行政の主導のもと学校や民間の会社にも協力してもらっての地域づくりと活性化をはかる。そういった土台の上に男女の出会いの場が提供できるようになれば、人口減は自ずと解消していくであろう (そのあたりの具体的な考え方については「少子化対策はカップリング対策で」を参照して下さい)。
読んで頂きありがとうございました