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「103万円の壁」問題をどう考えるのか ―— 所得控除については財源を問うてはいけない / 控除額を一気に拡大すれば経済格差が広がる

女性

「103万円の壁と言われていますが、壁のように動かないという意味なんですか?」

「所得控除額のことですね。これは状況に応じて動かさなければいけないものなんです」

女性

「壁になってはいけないということですね」

「実は1995年からこの額を維持しているのです。だから、壁と言われてしまったのだと思います」

女性

「ということは、29年間そのままだったのですね」

「これを増やすことは、すべての勤労者にとってプラスなんですが、上げれば税収は当然減ります」

女性

「減らしたくないという力が働いていたということでしょうか?」

「財務省は少なくとも動かしたくないと考えるでしょうね。税収は減りますし、控除額を上げることによって、様々な数字を全部点検し直さなければいけませんからね」

女性

「税収は減って、仕事は増えるということなんですね。私がその立場なら、抵抗するかもしれません」

「それを動かすのが政治の力なんです。本来は、与党が社会の経済状況を見て財務省と金額について調整すべきことなのです」

女性

「それを長年してこなかったということですね」

「そこに目をつけた国民民主がそれを公約にして選挙戦を戦って勝利したということです」

女性

「ここからが、本論です ↓」

 所得控除については財源を問うてはいけない

年間収入つまり所得から所得控除額を差し引き、それに対して税金がかかりますので、控除額が多ければ多いほど勤労者にとっては喜ばしいものとなります。税金を徴収する側からすると、その分税収は減りますので、財務省あたりから減った分の財源をどうするのかということが言われます

その言い分は一見正しいように思えますが、所得控除については財源を問うべきではないと思っています。何故なのか。所得税収は確かに減りますが、国民の中に広範囲にお金がバラ撒かれる格好となり、有効な需要として市場を喚起する可能性が高く、消費税収入や法人税収、事業税収の伸びによって補填される可能性が高いからです。

但し、所得控除額を一気に高くしてしまった場合は、上のようなことが起こらなくなる可能性が高いのです。何故なのか。庶民の消費行動を考えれば分かります。5千円、1万円程度なら、何か必要なものに使ってしまおうと考えますが、30万、50万となると将来の何かのためということで貯蓄行動に走る確率が高くなります。こうなると市場にお金が回らなくなり、経済的にはマイナスです。こうなると、財源論が必要です。

(「三菱UFJ銀行」)

 所得控除額は最低賃金の数字を見て対応すべき

「日本の税制で30年ぶりにインフレへの対応が始まる」(『日経』2024.12.21日付)と書いていますが、所得控除額はインフレになったから動かすとか、デフレの時は動かさないという類のものではありません。逆に、デフレの時こそ動かすべき数字です。「失われた30年」と言っていますが、動かさないから失うものがあるのです。

財務省は消費者物価を見ていますが、最低賃金の数字を見て対応すべきです。所得控除額はインフレ、デフレの経済状況で対応するものではないからです。1995年の平均最低賃金が611円です。現在は1054円ですが、この間少しずつ最低賃金を上げてきています。本来は、それに合わせて引き上げるべきものです。例えば、アメリカは毎年所得控除額を引き上げています。それが本来のあり方です。家計にお金を回さないから、消費者物価も上がらないし、デフレになるのです。少しずつお金を家計に回す仕組みが所得控除に備わっているのです。

控除額の引き上げを財務省から言うことはまずありません。政治家、特に与党の政治家が何の問題意識もなかったということです。マスコミは何かあると騒ぎますが、本来は大きな問題とならないように、絶えず注意喚起をするような論説を心掛けるべきなのです。

(「読売新聞オンライン」)

 控除額を一気に拡大すれば経済格差が広がる

経済というのは「生き物」だと考えた方が良いと思っています。人間は生き物なので「波」があります。脳波、心電図は波として表れます。そこまでは分かっているのですが、次にどういう波が来るかは誰も分かりません。一寸先が闇というのが「生き物」たる所以です。だから、明日の株価がどうなるのか、誰も分かりません。そのように不可解なものでデリケートなものだからこそ、丁寧に取り扱う必要があります。

1995年の時の最低賃金が611円、2024年が1054円と1.73倍になったので103万円から178万円にする、というのは数字的に正しくても、経済学的には暴論です。この違いが分からない人には、政治家になって欲しくないと思っています。控除額は徐々に上げていくからこそ、経済効果と格差是正が期待できますが、一気に上げれば経済効果はさほど期待できず、税収不足が出てきて、格差が拡大します。「過ぎたるは及ばざるがごとし」を地で行くようなものです。

「拙速な所得税改革は避けよ」(『日経』2024.12.17日付)ということで京都産業大の八塩裕之教授が意見を述べておられます。仮に国民民主が言っている178万円案を採用するとどうなるかということです。彼の試算によると、年間給与2,000万以上の方の場合は、1年間で32.77万円、年間給与1,300万以上の方は、1年間で25.11万円それぞれ収入が増える計算になります。年間給与400万以上の方は、11.33万円となり、低所得者の方は何の恩恵もありません。当然、経済格差は広がることになります。そういう社会を目指したいのですか?

(「Adobe Stock」)

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