「大学共通テストでマスクのことで注意をされた受験生のことを知っていますか?」
「最終的に失格になったということですよね。それが……」
「その受験生は、49歳だったということ、知っていましたか?」
「いえ、年齢のことまでは、……。テレビでは言っていませんでしたよね」
「それとなく書いている新聞があったのです。それとインターネットで流れていました」
「ただ、これからの時代は、中高年の方が大学に通うということが今以上に起きると思います。すでに、リカレント教育、リスキリングといった言葉もあります」
「それらは、接頭語の「Re」があるので、もう一回教育を受けるということですよね」
「そうですね。これからの時代は、そういった再教育をどのように保障していくかということが問題になってくると思います」
「まさに生涯教育ということですね」
「ただ、生涯教育が提唱された頃は、今の状況を想定していなかったと思います」
「えっ、どういうことですか?」
「『生涯学習振興法』(「生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律」)が制定されていますが、それを読むと、社会の高度化に合わせての学習という捉え方ではありません」
「どういう捉え方なのですか?」
「言ってみれば、国民の教養レベルを高めるために国も地方も応援しますよ、的な発想になっています」
「そうなると、ちょっとニュアンス的に違うという感じですか?」
「しかも、第2条で「職業能力の開発及び向上」という文言を使いながらも、第3条には、そのことを示すような項目がありません」
「それは、どういうことですか?」
「私が聞きたいくらいですが、国会できちんと質問されないで、文科省の官僚が書いた法文がそのまま通ってしまったのかなと思ったのですが、1990年に制定され、その後何回か改正されているんですよね」
「少しミステリーということですか? ここからが本論です ↓」
リカレント教育とリスキリングの必要性について
リカレント教育の本来的な意味は、「繰り返し、循環」ということです。つまり、職場と学校といった教育機関を繰り返すことです。ただ、日本では、終身雇用制が今までは原則だったので、殆ど行われてこなかったと思われます。
リスキリングの意味は、「Re」+「スキル」+「ing」というように分解すると分かるのではないでしょうか。職業能力の再開発、再教育のことを意味します。つまり、新しい職業に就くため、あるいは今の職業で必要とされるスキルの習得のために、主には企業が従業員に対して必要なスキルを獲得させることです。
ただ、これらについては当然に費用が掛かります。それをどう考えるかです。経団連は、新たな雇用として働くことができるように、企業が従業員のリスキリングを推し進めることを推奨しています。つまり、リストラということで単純に追い出すのではなく、新たに社会が必要とする業務、あるいは本人が希望する業務のスキルについて責任をもって身に付けさせる必要があるということです。
リカレント教育とリスキリングが進んでいない
何故そのようなことが言われ始めたのでしょうか。本来は労働力の過剰な分野から不足する業種の分野に、スキルを伴っての移動ができれば良いのです。ところが、それが上手くいっていないからです。
企業は政府からの雇用調整助成金を使って、「無理して」雇用を支えている実態があります。「過剰雇用は一時600万人を超えた」そうです。そうすることによって「失業の急増を喰い止めた半面、成長産業への人材供給は進まない」(「成長産業へ人材うごかず」『日経』2020,12,31日付)と言っています。
「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型へと大胆に転換する」と安倍政権は高らかに2013年に宣言しているのですが、日本人の特性として「大胆に」動くことはなかなか出来ません。そのような外的、さらには内的要因が絡み合って、日本の一人当たりの労働生産性はOECD加盟国(37か国加盟)中26位に留まっています。
再教育のシステムは、やはり欧米が一段階進んでいます。スウェーデンは成人も公教育を無償で受けることができるそうです。デンマークは様々な成人教育プログラムを設けているそうです(参考 『日経』2020,12,31日付 )。日本では、リカレント教育やリスキリングが、本人任せ、会社任せにしているため、進んでいないのです。
地域の「司令塔」には 大学が相応しい
人間は立ち位置が分からなくなる動物です。だから、どうしても「司令塔」が必要です。その司令塔として、各地の国立・公立大学が相応しいのではないかと思っています。
現在、大学の再編・統合が全国各地で動き始めているところです。せつかく統合するのですから、地域の教育力や労働循環のために協力して欲しいと思っているのです。
大学の再編・統合は、例えば名古屋大と岐阜大、大阪府立大と大阪市立大というように、運営法人を統合する動きとして出ています。この中で名古屋大と岐阜大はすでに2020年4月に経営統合を完了していて、その上で「研究基盤の確立と地域貢献」(「動き出した大学再編・統合」『日経』2021,1.13日付)を目指すとしています。
地域の再生のためには、どうしても「司令塔」が必要です。その「司令塔」の役割を大学に担ってもらい、マスタープランを作ることが出来ればと思っています。
日本の地域には、磨けば光る文化が数多くあります。そういった文化の掘り起こしと同時に地域を主体とした教育の確立、さらには地域の企業の立て直しなどを有機的に結合したマスタープランを作るのです。
経済学者のシュムペーターは、かつて「新結合」ということを言いました。異種のさまざまなものを結び付けることによって、新たな価値を産み出すということを提唱していたのです。ゼロから何かを生み出すのは自然科学の世界です。社会においては、元々あるものから、それをいかに有機的に組み合わせるか、その組み合わせ方と、それを指揮する主体の存在が重要です。
それが上手くいけば、地域は人口減を克服して、発展することも可能です。
読んでいただき、ありがとうございました。