「日教組という組織は、当然知っていますよね」
「はい、一応。有名ですから」
「どうしたのですか、急に改まって」
「いや、泣く子も黙る、日教組ですから」
「今の組織率は20%台ですし、現場への影響力がかつての時代ほど無くなっています」
「どうして、そうなったのですか?」
「政治闘争ばかりしているからだと思います。ある程度、知的レベルが高い集団を引っ張っていくためには、執行部に知的能力を誰もが求めると思います」
「それに応えられなかったということですね」
「簡単に言えば、そういうことです」
「ただ、教研集会を毎年行って、そのレベル維持に腐心されているのではないですか?」
「1年に1回、打ち上げ花火みたいな発想で行ってもダメだと思います」
「むしろ今は、文科省主催の研修の方が、レベルが高いという評判です」
男「組合がワンパターンと言いますか、政治的にはっきりした「色」を見せてしまい、そのために遠ざかる人もいるという話です」
「かつての時代と逆ですよね」
「そうですね、昔は旗幟鮮明(きしせんめい)にすることによって人を惹きつけたのですが、今は多分逆でしょう」
「その文科省がしきりに言っているのが「アクティブ・ラーニング」です
「『教育の最新事情 現代教育の動向と課題』(教育出版.2020)という教員免許更新者用のテキストがあるのですが、「アクティブ・ラーニング」がよく使われています」
「そんなにあるのですか?」
「批判的な意見もあるのですが、それらの議論の中心に「アクティブ・ラーニング」があるという感じです」
「ここからが本論です ↓」
「アクティブ・ラーニング」を実施してみました
実施学年は中学3年生、「公民」の授業です。もうすぐ期末試験ですが、試験範囲を終わらせるメドがつきましたので、死刑制度を題材に実施してみました。
実は前日の授業で、「人権保障の国際的な広がり」という単元を扱っていたのですが、そこで「世界人権宣言」の話をして、「人種差別撤廃条約」、「女子差別撤廃条約」といった人権条約のことを説明しました。次に「批准」の話をして、実は批准をしていない人権条約として「死刑廃止条約」というのがあるという話をしたのです。
ここでいきなり「日本は何故この条約を批准していないのか」という設問を提起して、「アクティブ・ラーニング」ということで調べ学習に突入してしまうと、1時間では終わらなくなります。
そうならないために質問を絞る必要がありますので、説明を重ねます。そうしないと、答えまでの道筋が見えなくなるからです。道筋が見えないと、生徒によってはあきらめて何もしない生徒が出てくるからです。だから、「社会とは何か」「人間は何か」の類(たぐい)の漠然とした大きな質問は、しないようにします。
死刑制度について現役中3生の「生の声」
「死刑廃止条約」を批准している国は世界で140か国くらいあります。批准してしない日本は、少数派なのです。批准していない大きな理由は、世論調査です。各種世論調査を何回か行っていますが、常に死刑賛成派が反対派を上回るというのが実情です。
そして、日本国憲法の中に「残虐な刑罰はこれを禁止する」という規定がありますが、日本の絞首刑は残虐な刑罰に当たらないという最高裁の判例があることを紹介し、次に残虐な刑罰とは何かということを、西洋の電気椅子や銃殺刑、釜茹で刑や串刺し刑など日本が過去に行ってきたことを具体的にいくつか説明します。そして、日本の絞首刑のやり方について、具体的に説明します。これは苦痛が殆どないことを説明するためです。
西洋では死刑の代わりに終身刑を導入しているところが多いということ、終身刑と無期懲役の違いを説明した上で、日本には終身刑というものがないことを付け加えます。
ここまで説明してから、死刑についてどう思うか、という課題について説明します。
最初に結論を示して、次にその理由を書くのですが、その際に予想される反論を想定した上で自分の意見として300字位でまとめなさいと指示を出します。
20分位の時間でほぼ全員が、課題の文章を「ロイロノート」の「提出箱」に提出してくれました。提出状況や内容が一目で分かる「ソフト」なので、それを見て、賛成の立場と反対の立場から、それぞれよく書けている生徒2人に自分で書いたものを見ながら、時間にして1、2分位のプレゼンテーションをしてもらいました。
【反対意見】
死刑制度は必要ではないと考える。なぜなら、いくら犯罪者であっても国が人を殺すことは許されないと思うからだ。また、犯罪者と言っても更生する可能性が大いにあるし、また冤罪や裁判でなんらかの誤りがあった時に取り返しがつかない。ただ犯罪者を死刑にすることで犯罪が少なくなるという考え方もあるかもしれない。しかし、犯罪者を殺すことが必ずしも犯罪件数の減少に直結するとは考えにくいし、死刑制度を撤廃したら凶悪な事件が増加するとも考えにくい。だから死刑制度を撤廃して、そのかわりに終身刑などを採り入れて犯罪者は罪を償っていくべきだと思う。だから死刑制度には反対だ。
かなりしっかりした文章です。中3でこれだけ書ければ大したものだと思います。
【賛成意見】
私は死刑制度に賛成だ。何故なら、重い罪を犯した人が反省して生きていくための費用が税金から出ているのがよくないと思うからだ。様々な反論が出てくるだろうが、どんな理由でも一貫して言えることがある。それは、死刑制度を廃止したら囚人が増えることになる。そうなれば、刑務所を増やしたり、大勢の犯罪者の生活するための費用が国の金から出ることになる。労働問題やコロナのような感染症がいつ出るかわからないこの世の中で、罪人にお金を使うより、誠実に生きている人々にお金を使う方が良いと私は考える。
文章の中に、いくつか稚拙な表現があるかもしれませんが、現役の中学3年生の「生の声」を味わっていただきたいと思います。
「アクティブ・ラーニング」は事後のフォローが重要で大変です
こういった提出作業が終わった後、刑罰の考え方として応報刑と教育刑の考え方があること。文明が進めば刑罰は教育刑的なものに移行する必要があるという話をします。そして、死刑というのは、応報刑の考え方なので、それが何故日本の世論に支持されているのか、考えてみれば不思議なことと改めて問いかけてみます。
この問い掛けによって、自分達が考えたことの「学問的」な位置付けがなされます。子供といえども一人の人格者なので、無意味な質問には答えたくないというプライドをもっている生徒も中にはいます。そのため、自分が考えたことは意義あることだったと納得させるためのフォローを、このようなかたちでする必要があるのです。
問題提起をして、自分達で考え1つの意見にまとめて書かせて、代表者にプレゼンテーションをさせ、最後にフォロー的な話をしてまとめる。これだけで1時間の授業が終わります。これをどう捉えるかということです。
ここまでエネルギーを注いで考えたことは、死刑制度だけです。
2つの意見があると思います。テニスに例えると、「アクティブ・ラーニング」というのは、実戦形式の練習、あるいは練習試合だと思います。
普段の授業は、球出しによる基本技術習得の練習です。初心者に練習試合は余り意味がありません。打つボールの数が少なくなりますし、動き過ぎてフォームを崩しやすくなるからです。練習試合の時間があるならば、基本的な技術習得のために、「死んだ」ボールを打ってフォームをつくった方が有意義です。
その子の到達レベルに合わせて、出すボールやメニューを変えます。そんなことはスポーツの世界では常識です。ただ、勉強の世界では、どうもそうはなっていないようです。とにかく、「アクティブラーニング」は、オールマィティではないということを知っていただきたいということです。
読んで頂きありがとうございました。
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