「STEM(ステム)という言葉、聞いたことがありますか?」
「最近は、いろんな略称が反乱していて、食傷気味なんです。何に関する言葉ですか?」
「教育ですね。新しい時代の教育の4本柱ということで、1990年代の米国で、国際競争力を高めるために掲げられたものです。科学技術人材の育成を目的とした教育の方向性を示す言葉です」
「S:Science(科学)、T:Technology(技術)、E:Engineering(工学)」
「そして、最後がM:Mathematics(数学)」
「どれも私の苦手系です。これからの子供は、こういった分野について重点的に勉強しなければいけないということですか?いわゆる、従来の文系の科目が入っていませんね」
「そもそも、文系、理系という区分けを抜本的に考え直す時期に来ていると思います。ところで、文系、理系の基準は何だか理解していますか?」
「私たちの頃は、数学、物理が得意な人は理系、そうでない人は文系という感じでした」
「将来の職業を見据えて、人間、あるいは人間が創り出したものに興味・関心がある人は文系、システムやメカニズム、生物に興味・関心がある人は理系という大まかな区切りがあったと思います」
「もう、そういう区切りは通用しないということですか?」
「そういうことではなくて、職業を流動的に考える時代に突入するので、理系、文系ということで固定的に考えない方が良いだろうということです。そして、実際に「日本STEM教育学会」というものも2017年に設立されています」
「もう、そういう動きがあるのですね」
「今年度より、プログラミング学習が小学校で導入されました。中学校は来年度からです。プログラミング学習はSTEM教育の活動の一つでもあるのです」
「そういう話を聞くと、何かあせってしまいます。どこかスクールに通わせた方がいいかしら?」
「日本人は、すぐそうやって既成のものに頼ろうとする傾向が強いと何かの本に書いてありましたよ」
「じゃあ、どうすれば良いのかしら」
「子供が小さければ、砂場や森で一緒に遊ぶのが一番いいと思います。小学生向きの体験キットを買ってきて、一緒に遊んでみたらどうでしょうか。学芸大学は講座を開いています」
「私も子供と一緒に勉強します。(ここからが本論です)↓ 」
STEMとSTEAM(スチーム)が叫ばれるようになった理由
STEM教育は、アメリカ・カナダ・オーストラリア・香港・ベトナムなどが国を挙げて取り組もうとしている新しい時代の教育です。
このような教育が提起されるようになったのは、急速なIT化の進展と、今後はAIが各産業分野で進出することにより、従来人が行っていたことをAIが取って代わることが続々として起きるであろうと予測されているからです。
文明の発達過程に於いては、そのように職業そのものがなくなることは日常風景として起こります。例えば、つい最近まであった仕事としては、駅の改札の切符切り、バスの車掌、株式市場の場立ちなどです。今後は、そういったことが加速度的に進み、野村総合研究所の試算によると、2025~2035年頃にかけて、日本の労働人口の49%がAIやロボットに職を奪われるとしています。
そして、2045年頃にAI の「シンギュラリティ」(AIが人類を追い越す分岐点)を迎えると言われ、そうなると人間と人間がAI をはさんで向かい合うという状況が生まれます。どういうことか、つまりAIよりも上に行っている人間とAIに使われる人間に分かれるということなのです。
このままでは令和版の「大学は出たけれど」が起きる可能性あり
「大学は出たけれど」というのは、1929(昭和4)年の小津安二郎監督作品です。ニューヨークから始まった世界恐慌の波が日本にまで及び、多くの企業が倒産、破綻する銀行まで出たのです。失業者が街にあふれ、大学まで出た学生さえも就職が出来ないという惨状だったのです。
当時の大学は今の「全入大学」と違い、学士さまと呼ばれ、大学を出れば、「末は博士か大臣か」と言われた時代です。その彼らの職がないのです。それ以外の方は、推して知るべしでしよう。旧態依然とした教育をしていると、1度あることは2度あるということになりかねないということなのです。9月入学で騒いでいる場合ではなく、中身を考える、教える人間をどう養成するかが重要なのです。9月に入学させたからといって、子供たちの能力が高くなる訳ではありません。
それから、「義務教育は5歳から」(『日経』2020.6.3日付)という提案が政府自民党から出ているようですが、これも視点が狂っています。早くしても中身が時代に合わなければすべて無駄になりますし、場合によってはマイナスに作用します。早くするか、遅くするかといった制度の問題ではなく、中身と態勢を考えなければ駄目なのです。へたな考えをする暇があるなら、欧米並みの20~30人学級実現に向けて動いて欲しいと思います。
日本が今行っているのは、工業社会の大量生産時代に見合った教育です。規格品を開発し、正確に作る。そこまでは理系の仕事。それを管理、市場に運び、販売するのが文系の仕事というように、役割分担を念頭に置いた暗記中心の一斉授業方式です。
このような前時代的な教育を行っているようでは、全員「討ち死に」する可能性があります。しかも、その極めつけが大学共通テスト、マークシートで行われます。今回の措置により、マークシートテストで点数を取っただけで大学に入っていく生徒が大量に出るということです。
そのような試験勉強によってこれからの時代に必要なクリエィティブな力は身につきません。記憶力、読解力、注意力で勝負の試験になっています。それらはAIが得意とする分野です。AIが苦手、もしくは及ばない分野の能力を身に付けることが大事なのです。そのため、言われ始めたのがSTEM教育であり、あるいはそれにA(芸術)を加えてSTEAM教育であったりするのです。
STEAM教育はまだ端緒についたばかり
STEAM教育の先進国は、アメリカ、そしてシンガポールです。アメリカは前のオバマ政権の時に、科学分野で世界を牽引するためSTEM教育を国家戦略と位置付け、多額の国家予算が投じられました。2018年に発表された今後5年間のSTEM教育戦略計画「成功のための進路の提示 ~米国のSTEM教育戦略」では、コンピューターリテラシーの重要性やSTEM教育およびSTEAM教育の価値が改めて強調されています。
シンガポールのSTEAM教育を牽引しているのがシンガポール最大の国立の科学博物館であるシンガポール・サイエンスセンターです。1,000種類以上の体験型展示があり、科学や環境について楽しく学べるショーやデモンストレーションが毎日開催されているとのことです。
STEAM教育を日本で実践しているところとしては、東京学芸大学こども未来研究所と駒込学園があります。
東京学芸大学こども未来研究所では、講座を設けて参加者を募っています。「学んだ知識や技能を活用し、新しいものやしくみ、価値を創り出す力を育てていく教育を行っています」とのことです。
あと、中高一貫校の駒込学園がSTEAM教育を行っています。―—「日本の代表的なSTEM教育研究機関である埼玉大学STEM教育研究センターとの共同授業を行います。生徒たちは、オリジナルキットとソフトを使ったプログラミングで、身近な課題を実践的に解決していきます。外部コンテストにも積極的に参加し」(ホームページより)ているとのことです。
そのようにSTEAM教育の実践に乗り出したところはあるものの、大きな流れとはなっていません。その辺りは文科省が態勢をつくって推進していく責務があると思っています。
国家戦略に位置付け、予算をしっかり取って、押し進めていって欲しいと思います。
読んで頂きありがとうございました。
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