
「クマの出没が相次いでますね 」

「今年は例年になく多いです」

「今年の異常気象が原因でクマが餌とする広葉樹のブナ・ミズナラ・コナラなどの堅果類(ドングリ類)の凶作が原因と言われています」

「ブナの実が豊作の時はクマの出没が減りますので、エサの不足が原因というのは明らかです」

「原因は、それだけですか?」

「はっきりしたことは今の段階では分かりませんが、出没問題を単なる「獣害」として片づけて欲しくないとは思っています」

「ところで、日本の森林は針葉樹と広葉樹の比率はどのくらいなんですか?」

「アバウトに言うと、5対5です。若干、針葉樹が多いという程度です」

「日本のように高温多雨の気候には広葉樹が適していると思いますけど……」

「戦後に人工林政策によってスギ・ヒノキといった針葉樹を植林しましたので、半々という状況になっています。広葉樹の場合は上に伸びないため、どうしても充分な日射が必要です」

「人間の手が入らなくなると、真っ先に影響を受けるのが広葉樹ということですね」

「光環境悪化→広葉樹更新阻害→堅果減少→熊の行動変化ということもあり得ると思っています」

「ここからが本論です ↓ 表紙は「You Tube/みんなのおんがくしつ」提供です」
日本は世界有数の「森林大国」です
近年、全国各地でクマの出没が相次いでいます。ニュースでは「異常行動」や「獣害」として取り上げられますが、本当にそれだけでしょうか。森が荒れ、広葉樹が再生せず、クマの餌となる木の実が減った背景には、私たち人間が森とどう向き合ってきたかという深い問題があります。日本は実は世界有数の森林国です。その豊かな自然とどう付き合うか――それが問われているのです。外国人観光客が日本を訪れて驚くことの一つに、国土の緑の多さがあります。実際、日本の約3分の2は森林地帯です。これほどの森林率を誇る国は、スウェーデン(68.7%)やフィンランド(73.7%)など、北欧諸国を除けばほとんどありません。日本はまさに「森林大国」なのです。
縄文時代の人々が定住生活を営めたのも、豊かな森の恵みがあったからです。森の木の実、近くの海や川の魚介類、そして木材が生活を支えました。木は燃料にもなり、家や道具を作る材料にもなりました。朽ちた木は土に還り、再び命を育てます。こうして森の周囲に集落が生まれ、森は生活と命の源となったのです。森には無数の生き物が息づき、人々はそこに神秘的な力を感じ取りました。木は二酸化炭素を吸収し、酸素を放出し、水を蓄えて浄化します。こうした森への畏敬から自然崇拝が生まれ、やがて祠を建て、神聖な空間を区切るようになります。これが神道の原型といえるでしょう。
弥生時代に稲作が伝わると、森と共に農地が広がりました。現在、農地は国土の約10%強、森林と合わせると約8割に及びます。にもかかわらず、政策の中心は宅地(全体の5%程度)に偏っています。豊かな自然環境をどう維持し、どう管理していくのか――日本社会全体で改めて考えるべき時期に来ています。

(「おしごと年鑑」)
放置をすれば密林化する日本の森
日本は世界でも有数の高温多雨の気候帯に属し、年間降水量は約1,700mm前後に達します。そのため、放置された森では植物が過密に繁茂し、常緑樹(スギ・ヒノキ・シイ・カシ類)やつる植物が下層を覆い尽くします。光が届かない暗い森になりやすい――それが日本の森林の特徴です。
かつての里山では、伐採や下刈り、薪炭利用などが定期的に行われていました。光が差し込み、ブナ・コナラ・ミズナラといった多様な広葉樹が共存し、クマにとって重要な餌資源が保たれていました。これらはすべて光を好む樹種であり、十分な日射がなければ若木は育ちません。
しかし、過疎化と高齢化で人の手が入らなくなった結果、森は暗く閉ざされ、広葉樹の再生が止まりがちです。クマの餌が減り、やむなく人里に下りてくる――これは偶然ではなく、環境構造の変化による必然です。クマの出没を「獣害」と片づけるのではなく、「人と森の断絶が生んだ環境からの警鐘」として受け止めるべきだと思います。

(「note」)
森の再生こそ、未来への責任
国防も確かに大切ですが、森を守り、多様な生命を守ることも同じくらい大切です。国防ばかりに資金と人材を注ぎ、環境保全を後回しにするのでは、政策としてバランスを欠きます。森を守ることは、クマを含む生態系を守ることであり、それは最終的に人間の生活と命を守ることにつながります。私たち自身もまた、自然の循環の一部なのです。「自然(しぜん)」という言葉は明治以降に生まれた新しい言葉ですが、日本人が古くから持ってきた自然観は、そこに人間も含むという考え方でした。人間もまた大自然の一部であり、共に生き、支え合う存在です。
だからこそ、クマの駆除に対して多くの人が「可哀想」と感じるのは、日本人の自然観の表れと言えるでしょう。不幸なクマをこれ以上出さないために――国には、森の再生と共生のための本格的な計画を立ててほしいと思います。
森は、私たちの命を支える“見えない基盤”です。水も空気も食も、すべては森から始まっています。われわれ日本人にとっての心の拠り所だった場所です。クマの出没は、自然からの「問いかけ」です。アイヌはクマを神の使いとしてきました。森を守ることは、私たちの未来を守ること。その当たり前のことを、いま一度思い出して欲しいと思います。

(「おしごと年鑑」)
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