「今日は資本主義という言葉について考えてみたいと思います」
「岸田内閣が「新しい資本主義」と言っていますよね。中身については、よく分かりませんけど……」
「簡単にいえば、経済分野について今まで以上に国が関与しますよ、と言っているのです」
「福祉国家とどう違うのですか?」
「同じ現象を見方や立場を変えれば、違う言葉が出てくることがあります。経済に対する積極的介入をする現代国家を福祉国家と言います。先進国は、ほぼ福祉国家と言って良いと思います」
「そこでの経済の呼び名を資本主義と呼んでいるということですね」
「わざわざ「新しい」を付ける意味は余りないと思いますが、国民にアピールしたいという気持ちもあるのではないかと思っています」
「アピールしても良いのですが、結果が出なかったらどうするつもりですか?」
「経済は「生き物」ですから、人為の力でコントロールはできません。野生の動物のようなものです。私は、自由市場経済で良いと思います。ちなみにアメリカでは、資本主義という言葉を殆ど使いません」
「そうなんだ。何故ですか?」
「主義(イズム)というのは、誰かが考えたことという意味があります。「私は菜食主義者だ」というふうに使います。ただ、経済は人が考えた通りに動きません。資本主義というネーミングを使うと誤解を招きますし、実際に言葉の使い方として間違っているからです」
「成る程、ただ、資本主義という言葉を、どういう経緯で使うようになったのですか?」
「産業革命期以降の大量生産時代を説明する経済用語として当初は使われつつ、社会主義との比較で論じられたりすることが多くなっていきます」
「ここから本論です。↓ 画像提供は、「国語力up com.」です」
社会主義のアンチとして登場—―資本主義
社会主義というのは生産手段を国有化 (公有化)するという考えです。生産手段というのは、生産に必要なものという意味なので、具体的には土地、工場、機械設備などを国有化するという考え方です。マルクスによって唱えられた極めて特異な考え方です。その際に社会主義のアンチの意味として、自由市場経済に対して資本主義というネーミングを付けたのです。
なぜ、マルクスの考えが特異なのかと言うと、経済活動はもともと私的なものだからです。その規模と範囲が時代の進展とともに広がったに過ぎません。
人間は原始時代から経済活動を行っています。当初は物々交換だったと思われます。やがて貨幣が発明され、生産量の増大に伴って様々なシステムが導入されていきます。ただ、そのシステムは自由市場が円滑に動くためのものであり、経済活動を規制するものではありませんでした。
ところが19世紀に登場したマルクスは経済活動を根本的にコントロールしようと考えたのです。その際に生み出した言葉が、資本主義です。
資本主義という言い方をやめよう
主義と言うからには、誰かがその考え方を唱えたはずです。マルクスが唱えたと言われそうですが、彼はあくまでも社会主義のアンチとしてネーミングしたに過ぎません。実は、誰も命名者がいないのです。それもそのはずで経済活動というのは、自由競争が一つの常識だからです。ところが、日本の経済学はマルクス経済学の影響が強かったこともあり、教科書の記述にもそれが反映されています。
「現代の多くの国々は資本主義経済を採用している」(数研出版『公共』)—―まるで資本主義と社会主義の2つの選択肢があって、多くの国では前者を採用しているというニュアンスです。「資本主義の成立期、アダム・スミスは自由競争原理を正当化した。マルクスは資本主義の矛盾を労働者独裁による社会主義国家建設で解決しようとし、……」(東京書籍『公共』) —―「矛盾」を「正当化」しようとしたので、それに立ち向かったマルクスという書き方になっています。
資本主義という言い方が使われる限り、社会主義とマルクスが高い評価を得ることになります。
(「中学受験ナビ」)
資本を敵視する考えに未来はない
資本の英訳はキャピタル(capital)ですが、原意はキャップつまり「頭」です。キャプテンもここから来ています。マルクス主義者は資本を敵視する傾向がありますが、もともとは何かを始めるにあたっての準備金のような意味です。
社会が動けば新しいニーズが生まれます。それに対応して起業がなされますが、その際にどうしても資本が必要です。これが自由に調達できることが極めて重要なのです。何故なのか。そこから新しいイノベーションが生まれ、その結果、社会経済が発展するからです。
社会主義は逆の発想をします。資本は自己増殖して、そこから格差が拡大すると捉えます。ただ、すべての資本が自己増殖する訳ではありません。市場原理に適った生産活動をしていない企業は淘汰されます。自由競争社会なので、当たり前です。
そして、自由競争社会というのは、「ヨーイ、どん」で走る社会なので、当然差がつきます。ただ、その差をどう見るかで、また2つに分かれます。仕方がないと見るのか、許さないと見るのかです。ただ、人間はもともと競争を好む生き物ではないかと思います。様々なスポーツを人は勝った負けたで楽しみます。そこに活力と生き甲斐を感じる人が多いと思います。
競争あるが故に成長あり、競争あるが故に進化あり。ある意味、それが普遍的な原理だと思います。マルクス主義は、その普遍的な原理に対抗しようとして生まれた思想です。
(「日本経済新聞」)
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