「資本主義社会から、急速に知価社会に変わりつつあることを、今日はお話ししたいと思います」
「知価革命という言葉は、堺屋太一氏が提唱されましたよね」
「そうですね、彼の予言通り、知価革命を経ての知価社会が到来しつつあります」
「素朴な疑問ですが、知価革命と言っていますよね。革命はrevolution(リボリューション)なので、根本的なひっくり返りという意味ですが、そういったことはあったのでしょうか?」
「政治の革命と経済の革命は意味が違います。経済の分野で革命を仮に使ったとしても、その変化は徐々に現れることになります」
「徐々に変化するのだけれど、要はそのスピードが問題と言っているのですね」
「そうですね、その変化がかなり早いので、堺屋氏は敢えて「革命」という言葉を使ったのだと思います。もちろん、国によってその早さの違いはありますが……」
「のんびりしていると、時代の波に取り残されるということですね」
「さらってくれると有難いのですが、頭が固い人は重いので、さらわれずにそこにじっと居残ってしまいます」
「なまじ成功体験があると、それを踏襲したがりますよね。ウチの社長は、よく昔のことを言いますからね」
「過去に積み上げた歴史がすべて悪い訳ではありません。要は、そこから何を教訓として未来に生かしていくのかが大事だと思います」
「それができる人であれば、身が軽くなって、波にさらってもらえるということですね」
「そうですね、波を巧みに利用してサーフボードに乗ることもできます」
「凄いですね、社長がサーフボードに乗るなんて……」
「あのを…、あくまでもたとえ話なので、ご理解のほどを。ただ、日本の企業は年功序列がベースのところが多いので、「脱皮」するのに時間がかかると思っています」
「かつては強味となったシステムが桎梏(しつこく)、つまり足かせになるということですね。ここからが本論です ↓」
無形資産をいかに増やすか、その視点が重要
資本を具体的に言うと、土地、建物、機械設備ということになると思うのですが、そういったものよりも、特許や商標、人材がもたらす開発力や社内の組織を動かすソフトウェアといった無形資産が重要な時代になってきました。
その象徴的な事件が、アメリカの電動自動車のメーカーであるテスラ社が、今年の7月1日にトヨタ自動車の株式の時価総額を抜いたと思ったら、その3か月半で、トヨタ、独フォルクスワーゲン、独ダイムラー、米ゼネラルモーターズの4社を合計した額よりも上に行ってしまったことです。
あくまでも株式の時価総額なので、急激に従来の「指標」である土地、建物、機械設備を増やした訳ではありません。ただ、経済の世界、特に株式の世界は、土地、建物といった資産をいくら持っていたとしても、それを利益を産み出す「資本」として活用できなければ、評価は下がります。
ただ、従来はそういった固定資本をもっていれば、ある程度の利益は確保できたのです。
テスラは創業して18年で、トヨタの3倍の企業価値(株式の時価総額換算)を有する会社に
時代が変わりました。投資家たちは、企業が所有する土地、建物といった固定資本について余り考慮しなくなったのです。そういった固定資本も利益を産み出しますが、これからの時代は商品に付加価値をいかにつけるかが重要になっています。
テスラが高評価を得ているのは、「車のソフトウェア化」という発想なのです。どういうことか。車というのは、ハードウェアで考えれば劣化していきます。だから、中古車は1年落ちとか2年落ちという言葉があります。ところが、テスラが昨年発表した量販の車種は「モデル3」と言われ、「停車中に車の基本ソフト(OS)を最新の状態にアップデートしながら基本性能、自動運転機能を高めていく方法を採る」(中山淳史「衰退の五段階と闘うトヨタ」『日経』2020.10.20日付)というものです。愛車という言葉がありますが、乗れば乗るほど持ち主の「くせ」を覚えて、馴染んでくれるということなのです。
テスラの創業は2003年です。電気自動車は ガソリン車よりも優れていると確信し、もっと速く、楽しくと思ったエンジニア数名がつくった会社です。創業して20年足らずの会社なので、トヨタのように多くの有形資産を持っている訳ではありません。にも関わらず、現在のテスラの株式の時価総額はトヨタのおよそ3倍です。投資家の中には、買われ過ぎという声もありますが、一応これが現在の資本に対する社会の見方として理解するべきでしょう。
自動種産業は典型的な製造業です。先に書いたことが、サービス産業で起きたならば、ある程度泰然としてそれを受け入れられたと思います。このことは、「自動車が有形資産型の産業ではなく、有形資産+無形資産型、あるいは無形資産型の産業へと移り変わる可能性を示した」(中山淳史 前掲論文)ということなのです。
このことは、価値というものの見方を、従来の見方から変更せざるを得ないことになります。従来は、無形資産は有形資産の1割程度計上されていれば良い方だったそうですが、もう、そういう時代ではないということを、テスラの株価をめぐる動きから読み取る必要があるのです。12月18日のアメリカ株式市場でそのテスラ株の売買代金が過去最大の約1400億ドル(約14兆5千億円)となったとのこと。このため、テスラの時価総額は68兆円に跳ね上がったのです。ちなみに、日本の年間の国家予算が約100兆円です。68兆円がいかに巨額なのか、しかも創業して20年も経っていない若き企業です。これ一つだけとっても、マルクスの労働価値説で資本を説く時代ではないことがお分かりだと思います。
大転換期をどう迎え、どう乗り切るのか
こういったテスラをめぐる動向は、当然他の自動車メーカーに影響を与えることになるでしょう。トヨタは最近は「ソフトウェア・ファースト」というコピーをよく使うようになりました。多分、トヨタも無形資産重視の方向に舵を切ってくると思われます。自動車を単に自動車ではなく、例えば、移動するオフィスとか、移動するコンピューター・コミュニケーションといった現代人が求めるような新たな価値をそこに付けることが出来れば、別の可能性が広がるでしょう。
そして、それと同時にこれからの大企業は、社会貢献が一つのキーワードになっていくでしょう。株主といった会社関係者のための企業経営ではなく、いわゆる世のため、人のため、みんなのための企業経営が求められることとなります。そういった方面の努力が、社会的支持につながり、有為な人材を獲得できることに繋がっていきます。
ただ、この経済社会は終わりがありません。発展し続けなければいけないという「つらい宿命」があります。停滞は後退を意味し、やがては崩壊となります。組織というものは、国も含めてそういうものなのです。
そして、発展し続けるための知識や技術がますます高度化することになります。だから「つらい宿命」と言ったのです。そのため、企業内において、核となるべき人材とそれ以外の人材とに分けざるを得なくなってきます。企業間競争が激しくなるので引き抜きもあり、それを防ぐために高額な報酬を彼らに払う一方、それ以外の人材は派遣社員やアルバイトで済ませるということになってくるでしょう。
昨年の春闘では、トヨタ、鉄鋼3社がベア(ベースアップ)を見送りました。ベアを行う時代ではなくなりつつあります。労働組合も「団結頑張ろう」というスローガンを掲げて闘う時代でなくなりつつあります。新しい時代に見合った、組合の在り方、運動の仕方を考える必要があると思います。
企業、そして組合、あるいは国も時代の流れに合わせて変化する努力を開始する時期にきていると思います。また、それは個人についても当てはまります。これからはジョブ型雇用が広がってくるでしょう。自身の能力をいかに伸ばすか、どのようなアイディアを生み出すかといったことが重要になってきます。であれば、必然的に男女の性差に関係なく働きが評価されるはずなので、男女の賃金格差といった問題も解消されていくはずだと思います。別姓を導入すれば、女性が活躍し始めると考える人がいますが、家族のシステムが経済に直接作用する訳ではありません。
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