「給付金を頂きましたか」
「はい、確か6月の上旬だったと思います。主人の銀行口座に振り込まれていました」
「すんなりと、受け取れたのですね」
「ええ、市役所からの書類を郵送しましたので、特に……。地方によっては、二重払いとか、身元確認に手間がかかったとか、いろいろあったようですね」
「自治体によっては手作業の確認に追われたところがあったそうですね。昨日の時点で全国84の自治体がオンライン申請を停止しているそうです(『日経』2020.6.17日付による)」
「そういう混乱が起きた根本の原因は何ですか?」
「国民の側の問題と、行政側の問題があります。マイナンバーカードの暗証番号を忘れた人が、行政の窓口に殺到して業務がパンクしました」
「大騒ぎして作った割には、これまで殆ど使っていないため、忘れてしまったということですか」
「そういうこともありましたし、振り込みが2重になってしまったということもあったそうです」
「倍支払われたということですか?」
「もちろん、返金してもらったと思いますが、担当者が銀行側にデータを2重に渡してしまったようです」
「何か、ずっこけていますよね。アメリカでは給付金の支給が極めてスムーズに行ったそうですよね」
「アメリカはほぼ全員が確定申告をしているため、税務当局が所得や銀行口座をすべて掌握しています。だから、自動的に計算して、口座に自動的に振り込まれます」
「日本は何故、それができないのですか?」
「日本の場合は、法人に務めている人や公務員は源泉徴収でとられています。そんなこともあり、税務当局が所得や銀行口座のことをすべて把握している訳ではないのです」
「ただ、マイナンバーカードがあるので、あれを使えばすべて把握できるのではないでしょうか?」
「理屈の上では、全国民の所得や住所を把握することが可能だと思いますが、まだ運用できる状況にはなっていないようです」
「ただ、導入して何年になるのですか?」
「2016年の1月から導入しましたので、かれこれ4年経っています」
「いざという時に迅速に使えるようなものでなければ、余り意味がないですよね」(ここからが本論です) ↓
参考(The Capital Tribune Japan)
コロナ禍で露呈したウイークポイント
コロナ禍によって日本の脆弱なシステムがいくつか露呈しました。アベノマスク、給付金などは、単にモノと金を国民に配るだけの仕事です。どうして、こんなにもたもたするのかと思った国民も多いのではないでしょうか。
要するに、行政のデジタル化が遅れているからです。「国の行政手続きのうち、オンラインで完結できるものが全体の約1割に満たないことが分かった」(『日経』2020.6.18日付)のです。そして、「約20年前からデジタル化の旗を掲げながら一向に改善しないアナログな現状は、再開に向かう経済の足を引っ張る」(「日経」2020.6.18日付)と指摘します。
スイスのビジネススクールIMDが「世界デジタル競争力ランキング」というものを毎年発表しています。それによりますと、日本は23位(アジアで8位/参加国数: 63か国)でした。実は、日本は約20年前にIT戦略を作り「5年以内に世界最先端のIT国家になることを目指す」と宣言していたのです。
総合23位ということですが、全部で51の評価項目があります。そのうち最下位であったものは、「企業の機敏な対応」、「ビッグデータの利用と分析」、「機会の活用と脅威の回避」、「企業幹部の国際経験」の4つです。これら4つは、企業のトップの決断と経験に絡む問題です。
「組織はトップ次第」とはよく言われることです。ロシアの諺に「魚は頭から腐る」というのがあります。要するに、良くも悪くもトップ次第、ということです。彼らがIT化、デジタル化という巨大な海に飛び込むのをためらっていることが、順位の低下を招いているということがデータ分析から分かることです。
巨額の累積債務があるということは、継続的な発展をしなければいけないということ
今回のコロナ対策で第二次補正予算の金額が約32兆円、第一次補正予算と合わせた事業規模はGDPの4割にのぼる「世界最大級の対策」(安倍首相)とのことです。世界最大級という言葉を聞くと、何を誇っているのかなと思ってしまいますが、これはやがては回収しなければいけないお金なのです。
戻ってくる当てがあるから、そういう予算を組んだと言われそうですが、日本経済のファンダメンタルは今やかつてのように強くはありません。その辺りについて、多少見込み違いをしているように思えます。
企業が借金をすることがありますが、良い借金と悪い借金があります。企業が上昇トレンドに乗っている時は、新たな市場を獲得できる可能性が広がる良い借金です。その逆の下降トレンドにある際の借金は悪い借金です。悪い借金の場合は、利子によって借金が膨らみ、やがて返せなくなります。
国が背負う政府債務も同じ考え方を適用できます。つまり、コロナ対策のために巨額の予算を組んで、さらに債務を増やしたということは、継続的な経済発展をするための方策を考えなければいけないということです。
昨日(6/18)の日経平均株価の終値は2万2355円でした。日経平均株価の最高値は約30年前の1989年の3万8915円です。最高値の約6割です。ところが、アメリカのハイテク株の指標であるナスダック総合株価指数はこの30年で20倍になっています。これが市場の日本経済に対する評価なのです。
デジタル競争力が弱いのは、年功序列型の雇用システムが第一の原因
頭がアナログ化している人たちに、デジタル化を求めるのは酷です。これは能力といった問題ではなく、適応力の問題だと思います。長年自分の頭をアナログ的に使ってくれば、頭はそういう方向で考えようとします。頭も一種の筋肉なので、使っているうちに様々な癖がつきます。そうなると、デジタル化に対応できないようになります。頭がついて行かなくなるのです。
行政のデジタル化が遅れているのは、公務員の世界が完全な年功序列型の世界だからです。トップがデジタル化に向けてどうしたら良いか分からないからです。
年功序列型のシステムを採用している企業は、年齢が上の方に権限が集まる傾向になります。創業間もない会社ならともかく、老舗企業といった伝統ある企業は、どうしても経験年数が長い人が会社の幹部になりがちです。自分なりに成功体験があるはずなので、どうしても新しい分野の技術採用にためらうところが自然に出てくるのです。
そんなこともあり、「企業経営者の間で年功型賃金を変える意向がたかまっている。『社長100人アンケート』で見直すと回答した企業は72.2%に及んだ」(『日経』2019.12.26日付)のです。例えば、「新卒を含む優秀な研究者に1000万」(NEC)「トップ級のIT人材に年収2000万以上」(NTTデータ)といった具体的なプランも出始めています。
そして、実はIT人材は世界的にも需要が高まっていて、獲得競争が激しくなっているのです。中国は低賃金の国というのは、すでに昔の話です。中国では、ITディレクターの平均年収は約3000万(日本は約1800万)、データサイエンティストの平均年収は中国では約1600万(日本は約1200万)というように、中国の方が多くの賃金が支払われています(「IT人材争奪アジアに後手」「日経」2020.2.19日付)。
日本がこのまま、昔ながらの年功型賃金のままでいると、優秀な人材の多くが海外に流出します。そうなると、ますます経済は低迷し、今度は政府債務が重い借金として跳ね返ってきます。
日本経済の再生のために残された時間は、実はほんのわずかしか残っていないのです。
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