
「台風が去って、また猛暑が戻ってきた感じがします」

「9月に入って1週間くらい経っていますので、いい加減に涼しくなって欲しいですね」

「ある人は、これからは二季になるのではないかと言っています」

「春と秋が無くなるということですか?」

「自然が壊れてしまったのでしょうか?」

「人間の活動が自然を壊して、その仕返しを受けているように思います」

「線状降水帯も海面温度が高くなっているから起こりやすいと言っています。北極海の氷がどんどん溶け始めているとのことです。どうすれば良いですか?CO2対策でしょうか?」

「それも大事ですが、足許を見つめる上で、まず日本は目の前の「森林危機」に対応すべきだと思います。防災にもなります」

「江戸の循環型システムについて前回学ばせて頂きました。それを今回、さらに深めたいということですね」

「明治政府は江戸時代をバッサリ切り捨ててそこから学ぼうという意識が少なく、そんなことも現在の「森林危機」を引き起こしている原因となっています」

「ここからが本論です ↓表紙画像は「Wild Scene」提供です」
江戸の循環型林業 を忘れ去った戦後
江戸時代、日本では人口増加や都市の拡大により木材需要が急増し、山林の乱伐による荒廃が深刻化しました。しかし、幕府や藩、村落が協力して森林を管理する制度が整えられます。代表的なものが「薪炭林の輪伐制」で、クヌギやコナラを周期的に伐採し、萌芽更新によって再生を図る手法です。この仕組みにより森は光を保ち、多様な植生・生物を抱え続けました。
「薪炭林の輪伐制」というのは、薪や炭にするための木を切る順番を予め決めておくことです。森の中に一定の光が入らないと下草が育ちません。どういう順番で切れば良いのかは、長年の経験と勘によって先祖から受け継がれています。そのノウハウを子孫に受け継ぐことにもなります。萌芽更新というのは、切り株から出てきた新たな芽をそのまま育てる再生方法です。そのように長期的な計画の中で森林の機能を維持する必要があります。また、入会地制度により村人が雑木林を共同管理し、過剰利用を抑えていました。森は単なる資源ではなく、生活の基盤であり、共同体の結束を支える存在でもあったのです。
戦後の高度経済成長期には、国策としてスギ・ヒノキ主体の大規模拡大造林が行われました。しかし、その結果、人工林は暗く下草すら育たない単調な森となり、森としての多様性を失いました。森林蓄積は着実に増加し、1966年の1,887百万㎥から2022年には5,560百万㎥と約3倍になっています。そのうち人工林の蓄積量は約6.4倍にもなり、今や天然林を上回っている状況です。にもかかわらず、年間伐採率は蓄積のわずか0.53%にとどまり、大量の木材資源が使われずに眠っています。結果として、熊をはじめとする野生動物の餌資源が減り、彼らは餌を求めて人里に来るようになったのです。獣害の増加と土砂災害のリスクの増加の原因は戦後の林野行政にあります。
(「セブンポケッツ」)
森林危機をどうやって乗り越えるか
現代の森林危機に対応するには、為政者が森の機能について再認識するところから始める必要があります。森を単に、人間に役に立つ木を植える場所という捉え方をしてきました。人間社会と同じで、多様な種類の木が繁茂することによって、多様な生き物たちがそこで命を繋ぐことができるのです。そして、それが川の清流を生み出し、沿岸漁業を成り立たせる源になるのです。森が人工林にとって代わり、手入れがされなくなれば暗闇の森となり、下草も生えなくなり、森の多様性も失われていきます。
「人工林の広葉樹化・里山の再生・地域活性化」――この3つをセットで行う必要があります。人工林の広葉樹化:間伐を行いスギ・ヒノキだけに偏らない、広葉樹を主体とした混交林への転換を進める。里山再生活動:薪炭利用や地域イベントを通じて人の手の入る里山を復活させ、熊との境界を回復する。地域経済の再構築:ジビエ、木材地産地消、森林ツーリズムなど、森を「生活文化資源」として活用し、地域振興とつなげる。こんなことが考えられます。2026年度の林野庁関連予算の概算要求額は約3,458億円で、前年に比べ12.7%増ですが、国土の約66%を占める森林には到底十分とは言えません。特に森林整備事業(約1,485億円)や治山事業(約739億円)の充実が見込まれているとはいえ、効果的な里山再生や人工林の多様化には、さらなる財政支援が必要です。
森林を忘れた政治が戦後続いています。これがクマが人里に出現するようになった大きな原因です。しかし、林野庁や環境省の予算の中で森林保全に直接充てられる割合はきわめて少なく、0.01%程度ではないかと指摘されています。為政者はいまだに都市開発やインフラ整備に目を向け、「列島改造」を唱え続けていますが、熊の出没や獣害の増加は、まさに森林を軽視してきた政治のツケです。人工林の広葉樹化や里山の復活は、獣害抑制や防災対策に直結します。森林政策はもはや環境分野だけの課題ではなく、国家安全保障や地域存続の課題です。為政者が「森林大国」の自覚を持たぬままでは、森も地域も人も守れません。政治の本気が問われています。
(「さがみはら地域ポータルサイト」)
人材育成 ― 森を守る「人」をどう育てるか
最大の課題は、森を実際に管理・再生する「人材」が不足していることです。林業従事者の平均年齢は50歳を超え、若手の定着率も低いのが現実です。緑の雇用制度や各県の林業大学校が存在しますが、新規就業者は年間1,000人規模にとどまり、全国の森林管理を担うには圧倒的に不足しています。里山を多く有する自治体から、故郷を守る観点で人材を育成・輩出する態勢が不可欠です。そのためには、 地域密着型教育:高校や専門学校で森林・環境学科を設け、地元の若者を担い手に育てる。職業的魅力の向上:安定した収入と社会的評価を確保し、林業を「危険で低賃金」ではなく「誇りある仕事」に変える。都市からの流入促進:移住者やボランティアが段階的に関われる仕組みをつくり、多様な層を巻き込む。森を守るのは結局「人」であり、制度や予算は人材を前提として初めて生きるのです。後継者を欠いたままでは、どれほどの資金を投じても森林危機は解決できません。
日本の森は民間企業と林業公社によって支えられています。民間企業で有名な企業が住友林業です。そして、民間の手が入らない所を公社が担うという態勢です。ただ、国からの財政支援が少なく、経営的に厳しい状況が続き、再構築や解散が相次いでいるのが現状です。そういう点で予算的に余裕がある東京都が森林業において、先導的な役割を果たすことを願っています。実は、東京都の面積の約4割が森林であり、それらは多摩の森を中心に水源涵養、防災、空気の浄化といった都市基盤としての機能を担っています。まずは、東京都が人材育成や森林再生の分野において先進的な役割を果たしてくれることを期待しています。
(「多摩森林科学園」/八王子市)
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