
「今日のNHKニュース(12/18)で知ったのですが、外国法人の資格基準を引き上げるようです」

「入管法(出入国管理法)を改正するのですか?」

「入管法に基づく省令を改正するみたいです。資本金を500万から3000万、常勤職員1名以上の雇用義務化などが求められるようになりました」

「これから法人を設立される人たちに適用されるのでしょ」

「実は、この省令は2025年の10月から施行されています」

「それ以前に法人を設立した人たちには関係のない話だと思いますが……」

「刑法には不遡及の原則がありますが、行政法は懲罰を定めたものではありませんので、過去に法人を設立した人たちにも適用されるようになります。つまり、継続中の事柄については、新しい基準が適用されるということです」

「理屈はわかりましたが、だからこそ、改正の内容については慎重に行うべきだと思いますけど……」

「これだけ大幅な内容変更でも簡単にできたのは、法律改正ではないためです。国会の審議なしで行うことができました。ただ、社会的影響が大きい事案なので、NHKニュースで取り上げたのだと思います」

「本来の予定は、「人材ロス国家」の第2回目の配信予定でしたが、内容の重要性に鑑みて、予定変更をしてお届けします。ここからが本論です ↓ 表紙写真は「テレ東BIZ」提供です」
目次
「適法だが誤った政策」――更新時適用という形式が覆い隠す本質
今回の在留資格「経営・管理」をめぐる基準引き上げ措置は、形式的には適法です。在留資格は更新制であり、次回更新時に新基準を満たせばよいという説明も、法理としては成立します。したがって、事後法の禁止に直接抵触するわけではありません。しかし、問題はそこではありません。法的に正しいことと、政策として正しいことは別だからです。
今回の措置は、ペーパーカンパニーの増加という一つの現象を捉え、それを排除するために、資本金要件を一気に引き上げるという手法を取りました。しかし、この方法はあまりに粗雑です。資本金という静的な数値だけで事業の実態を測ることはできません。小規模であっても、実際に雇用を生み、納税を行い、地域経済に貢献している法人は数多く存在します。そうした法人まで一律に淘汰される設計になっている点で、この政策は大きな欠陥を抱えています。
行政が取るべきだったのは、現場に入って、特に真面目に事業を行っている法人の実態調査でした。虚偽申請に対する厳格な対処より、どのような経緯で日本で起業しようとしたのか、今後の予定などについて精緻な対応をしてデータを取ることでした。それをせず、数値基準の引き上げだけで済ませた結果、真面目に事業を行ってきた法人が、日本を去る選択を迫られる可能性が生じています。これは「違法」ではありませんが、明らかに誤った政策判断です。

(「TOKYOビザ申請オフィス」)
「ヘッドレス国家が生む条件反射型統治」――省令で動く国家の160年
今回の措置が象徴しているのは、日本が抱える統治構造の問題です。日本は、意思決定の主体が不在の「ヘッドレス国家」であり、その状態は明治維新以来、約160年にわたって続いています。国家としての哲学や長期的な理念が明確に示されないまま、現実の政策運営は官僚機構に委ねられてきました。
その結果、政策は「条件反射型」になります。ある現象が問題化すると、その現象を抑え込むための即効性のある手段が選ばれます。今回で言えば、「ペーパーカンパニーが多い」という事実に対し、「では基準を一気に引き上げればよい」という短絡的な対応が取られました。その過程で、政策の副作用や社会的影響についての十分な検討は行われていません。
特に問題なのは、こうした重要な制度変更が、国会での立法ではなく、省令改正という形で進められている点です。実質的には広範な影響を持つ「準立法行為」であるにもかかわらず、国会審議も、公開された政策評価もありません。これは、官僚が制度を設計し、官僚が運用し、官僚が責任を取らないという構造を固定化させています。ヘッドレス国家においては、こうした統治の歪みが是正される契機すら失われているのです。

(「ペットシッターSOS」)
不法滞在対策と起業促進を混同する誤り――排除される「真面目な外国人」
今回の措置の背景には、不法滞在や在留資格の形骸化への危機感があると考えられます。しかし、仮にそれが目的であるならば、今回の対応は完全に的外れです。不法滞在対策と、起業・投資促進政策は、本来切り分けて設計されるべきものだからです。
日本政府は一方で、外資の導入や外国人起業家の受け入れを掲げています。人口減少が進む中で、海外からの人材と資本を呼び込むことは、国家戦略として当然の選択です。それにもかかわらず、今回の措置は、真面目に日本で起業し、努力を重ねてきた外国人を制度的に排除する方向に働いています。これは政策間の明確な矛盾です。
官僚国家の問題は、全体像を見ないことにあります。不法滞在という一部の問題を、制度全体の引き締めで解決しようとしています。その結果、本来守るべき対象まで巻き添えにしてしまうことになります。真に必要だったのは、不正事例への集中的対応であり、実態を伴う事業者を評価する仕組みでした。今回の措置は、日本が「起業を歓迎する国家」であるというメッセージを、自ら否定する結果になっています。

(「note」)
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