「日本は移民の受け入れが厳しい国として有名でしたが、2019年4月に特定技能による在留資格を認めたことにより、今まで以上に外国人労働者が入国できるようになりました」
「その当時は、ニュースでも扱っていましたよね。国会でも移民の受け入れで議論があったと記憶しています」
「実際に技能実習生を受け入れてみて、戦力になったと感じている方や企業も多く、今年も期待していたら、今回のコロナ禍で来日できないという問題も出たみたいです」
「ベトナムからの実習生ですよね。NHKのニュースを私も見ました。いろんなことが絡むのだなと思って見ていました」
「ただ、今までは移民政策について曖昧にしていた部分があったのですが、今後ははっきり方向性を出さないといけなくなっています」
「要するに、移民として受け入れるのか、技能をもった一時的な来日者として捉えるのかということですね」
「日本は今までは、純血主義なので、後者の方針だったのです」
「それでは、これからはダメということでしょうか?」
「実は、データがあります。移民の多い国・地域はGDPが高い傾向にあるのです。例えば、移民比率が88%のUAEは成長率が7%、移民比率が78%のカタールの成長率は10%近いのです。香港も多くて移民比率40%で成長率が約6%です」
「そのことは私の予想外です」
「経済の成長や人口減対策を考えるならば、枠を広げることを考えるべきなのです」
「枠を広げることに、世論は賛成しないでしょうね」
「そこに政治の意義があると思います。何でもかんでも国民の意見を聞いていれば良いわけではありません。政治家の哲学というか信念が試される事案だと思っています」
「ここからが本論です ↓」
目次
移民政策不在のまま、30年間が過ぎた
実は、在留外国人は2018年の6月の時点で264万人います。1989年には98万人にすぎなかったのですが、平成年間に日系南米人と技能実習生、さらには「興行ビザ」による外国人女性の受け入れを認めたため、急増したのです。ちなみに、2005年の時点で「興行ビザ」による在留者数は6万5000人に達したのですが、8割近くがフィリピン人女性でした。いわゆるフィリピンパブで働く女性たちは「興行ビザ」による入国だったのです。
ただ、「興行ビザ」で来日した人たちがすべて本国に帰った訳ではありません。日本人と結婚して家庭を持ち、子供を設けた人たちもいます。中には、離婚した人もいますが、それはともかくとして様々な状況下で日本に滞在している人が約260万人いるということです。
中には社会の偏見と闘っている人もいますし、日本語学習の不足により、日本社会になじめず、貧困や差別で苦しんだ若者も数多いのではないかと思われます。親に連れられて日本に来たものの、戸惑いの連続の中にいる日系南米人の子どもや若者も多くいることと思います。
受け入れをしたならば、それをフォローする態勢を政治の力で整えなければいけないのですが、単に管理するという発想だけで対応しているように見えます。出入国管理法に基づいて在留管理が行われているのですが、基本的には「よそ者」という発想での対応になってしまっています。
移民は歓迎論と排除論の間で揺れているのが世界の動向
世界的に見た場合、移民を歓迎するべきか、排除すべきなのかというその間で揺れ動いてきました。
日本も戦前は貧しい国でしたので、仕事を求め、職を求めてアメリカ大陸やオーストラリア大陸に多くの日本人が移民として海を渡りました。南米やカナダの日系人は、その時代の子孫なのです。その当時は、現地では迷惑だったのかもしれません。1924(大正13)年には「排日移民法」がアメリカで制定されています。1890年以降、ヨーロッパ出身者、アジア出身者が増えたため、それを制限するために制定されたのです。アメリカという国は、移民がつくった国なのですが、そこでこういう法律が制定されたということで、当時の日本政府は衝撃を受けたようです。
もともと人間は同じ血筋の者同士で、グループを作る傾向が強いものです。そこに異分子が入ってくることを、基本的には由としません。ただ、人道上ということを言われて、それで止む無く受け入れることを考え、そして受け入れてきたという流れだと思います。
「移民政策が国力を左右する時代になる」(スタイン・ボルセット/ワシントン大学)
移民が多いと1人当たりのGDP(国内総生産)が高い傾向を示すそうです。「移民が10~20%の米英独仏や20%を超えるカナダなどは、5%以下の日本や韓国より一人あたりのGDPが高い」(「先進国に移民減の危機」『日経』2020.10.4日付)とのこと。
技術の高い労働者が移民の大半となっている国も多く、IMF(国際通貨基金)も多様なスキルをもつ移民が生産性向上に貢献するとみています。やはり、これも『日経』の記事によるものですが、総雇用者に占める移民比率が1ポイント高まると5年目までにGDPをほぼ1ポイント押し上げるというデータも出ています。
そして、「先進国の人口は2000年以降7%増えており、増加分の4割強に当たる3500万人が新興国から流入した。移民が経済成長を支えてきた」(『日経』同上)ことが明らかなので、日本も時代に見合った「移民政策」を考える必要があるのです。
純潔主義を貫こうとすると、結局労働力を求めて企業は海外に移転をするという選択をとり、国内の人口減の負のスパイラルは進行することになります。
移民政策のカギを握るのは、アイデンティティーの確立にある
移民政策をとるにあたって大事なのは、日本という国家のビジョンを描くことです。どういったレベルの移民をどの程度まで受け入れるかということ。受け入れた人には家族がいて、子供がいることも考えると、生活や教育のことも手当てしなければなりません。その辺りが、今は殆ど手つかずになっていますが、教育に手を抜けば、それは将来の治安の悪化につながります。
そして、やがては年をとったり、途中で病気になってリタイアということもあり得ます。福祉や医療、保険のことも考えなければいけません。仮に今後、毎年25万人ずつ外国人が増えていけば、50年後には、現在の在留外国人と合わせれば1500万人を超えるという計算もあります。その時にはアジアだけではなくアフリカからも受け入れが進んでいるかもしれません。
そうなった時に、多種多様な人たちが集まる日本を一つの国としてまとめていくためには、日本のアイデンティティーを確立することが大事です。
日本はもともと海外から多くのものを吸収して、日本的にアレンジして独特の伝統と文化を作ってきた国です。政治的には、天皇を中心とした家族的国家制度を古代の時代より採用し、革命が起きることなく、国民が手を取り合って有史以来歩んできた国です。一言で言えば「和」の国であり、自然崇拝、アニミズムの国です。神道が民族宗教のような位置にあり、7世紀に入ってきた仏教との棲み分けがなされています。
考えてみれば、日本は常に海外から異文化を採り入れ、技術を学び、そこから新しい独自のものを作り出してきた国です。
海外から積極的に文化や人材を受け入れてもきました。その原点にもう一度戻れということなのかもしれません。
読んでいただき、ありがとうございました。
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