「前回、偶数と奇数の話、なかなか面白かったです。試しに、職場の人たちに聞いてみました」
「どうでしたか?」
「大体、イメージと合うというのが、何人かインタビューした後の感想です。結構、自由に考えているという人は、奇数と言いましたし、几帳面に仕事をこなす人は偶数でした」
「一種の遊び感覚でやってもらえば良いと思います。もっとも、その遊び感覚というのは、日本人的なんです。そういうのが、和歌や川柳、狂歌を生み出しました」
「成る程、遊びが大事なんですね。ハンドルも遊びが無いと駄目ですものね」
「ハンドルとは関係がないと思いますけど……。天才数学者の岡潔(きよし)氏は「人と人との間にはよく情が通じ、人と自然の間にもよく情が通じる。これが日本人です」と言っています」
「いわゆる、「あうん」の呼吸ですね」
「日本人は自分の感性を大事にしてきた国民ですが、大陸から合理主義や唯物史観が入ってきて、それらに惑わされる人も増えています」
「ただ、これからグローバル化が進むと、そういったことにプラスして家族の崩壊や地域社会の崩壊が進むのではないかと危惧しています」
「その根底には、日本のアイデンティティの喪失があると思っています」
「日本の国柄ですよね。私自身も分かっているようで、分かっていないと思います」
「ここからが本論です ↓ 表紙写真は「和のこころ.com」提供です」
日本のアイデンティティ――大和心
「敷島の 大和心を人問わば 朝日に匂ふ山桜花」。これは原書『古事記』の翻訳に自分の人生を賭けた本居宣長の和歌です。本居宣長の翻訳作業がなければ、『古事記』は誰も読めなかったであろうと言われています。翻訳にどうして手間が掛かったのかというと、漢文と大和言葉を漢字で表わしたものが混合した文章だったからです。英語とローマ字が混じった文章を翻訳するようなものです。
『古事記』の翻訳作業を通じて、彼は日本人の心情である大和心を理解し、それが書き込まれている『古事記』は、当代一級の書であると言います。
大和心・大和魂という言葉は、平安時代の女性が発明した言葉だそうです。文芸評論家の小林秀雄氏(1902-83)は大和心・大和魂を「自然を畏れ、人の思いを察する、人・自然のどちらにも同じ感受性、情緒で対応して理解・把握する」ものと言っています。知識や合理的な思考ではなく、実生活の知恵を大事にすることという意味です。
(「honto」)
日本のアイデンティティ――自然との共生
日本は国土の位置や天候の特徴、さらには国土の成り立ちを考えると、自然災害が起きやすい条件を満たしています。つい最近も、九州、東北で豪雨被害がありました。従来の日本人の自然観は、自然に逆らうなというものです。
寺田寅彦氏は「自然の充分な恩恵を甘受すると同時に自然に対する反逆を断念し、自然に順応するための経験的知識を収集し蓄積することに努めてきた」(『日本人の自然観』)と言います。彼はどんなに技術が進歩しても、災害を防ぐことはできないと言います。
だから、日本人は古代から自然の中に神を見て、その神を祀り上げてきたのです。そして、考え方としては「防災」ではなく、「減災」です。100年に1度の災害を防ぐために頑強な堤防を築いてダムを作るという発想ではなく、「治山治水」ということを考えて自然に対峙してきました。国土の2/3が森林なので、その「力」を利用するということです。災害に強い森林を作るために、林業の人材を育成する必要があります。
(「対馬市」)
日本のアイデンティティ――世界一古い王朝国家
日本の政体を西洋の近代法概念で表現すると、立憲君主制になると思います。その君主制を廃止する国が20世紀以降増えています。
第一次世界大戦以降、君主制を廃止した主な国は、ドイツ、オーストリア、ロシア、トルコです。第二次世界大戦以降では、イタリア、ブルガリア、ユーゴスラビア、ルーマニア、ハンガリーです。そういった国々では、君主制を廃止して共和制に移行しています。共和制というのは、行政の長と国会議員の両方を国民の直接選挙で選ぶ方式です。日本の首相は、間接選挙で選ばれていますので、共和制ではあません。
日本の皇統を天皇制と表現することがありますが、厳密に言うと、正しくありません。制度ではないからです。つまり、天皇は制度に縛られない、制度外の存在だからです。クニごとに分かれて領地獲得闘争や権力闘争を繰り広げていた時代があり、8世紀を起点にして天皇がその権力トーナメントの主宰者、つまり権力闘争を放棄するかたちで立ち現れるようになったのです。途中、後醍醐天皇がその権力を奪取しようとしたことがありますが、それは実現しませんでした。大政奉還で朝廷に権力が戻されますが、永年の統治の慣例に基づいて、その政権を「大臣」に引き渡します。そのかたちが現在まで受け継がれています。
日本は8世紀頃に確立した「権力と権威の分離」原則を、明治以降も含めて現代まで維持をしているのです。
(「学研」)
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