「前回に引き続き著書の紹介を兼ねて、中身の紹介をしたいと思います。『古事記』の冒頭が一番重要と書かれていますが、その辺りの説明から」
「そこに宇宙の原理が書かれているから、一番重要なのです」
「宇宙の原理が現実の政治と、どう関係するのですか?」
「人間は組織をつくる動物です。国も一つの組織ですが、宇宙の原理に添った統治をすれば、国も安定的に統治できるはずという考えが根底にあるのです」
「へえ、そうなんですか。会社も組織ですが、会社にも使えるのですか?」
「コーポレートガバナンスということが言われています。国、会社、さまざまな組織が発展していくためには、理に適った統治が必要です」
「そのことが冒頭の造化三神の登場で示されていると言うのですね」
「天之御中主神が最初に登場する神様ですが、他の二神とは違う次元にいて、全宇宙にエネルギーを送る神様です。組織はトップで決まると言われていますが、天皇はそのような存在になるべしというメッセージがそこに込められているのです」
「ということは、他の二神は、立法と行政ですか?」
「その通りです。古事記編纂を指示した天武天皇は、立法と行政の機能を持たせた太政官と天皇が皇祖神に対して祭祀を司る神祇官(じんぎかん)の二官を創設します」
「昔、二官八省と習いましたけど……。それですね」
「多分、律令国家、律令制度ということで習ったと思いますが、統治の原理を『古事記』に書き込んで、その考えに基づいて制度も作ったのです」
「そのようなことを、なぜ思い付いたのでしょうか?」
「今回は、その辺りについて説明したいと思います。ここからが本論です ↓」
『古事記』の中に国を安定させるための原理
『古事記』は何なのかという命題を立てることがあります。『古事記』は文学でもなければ、歴史書でもありませんし、単なる神話でもありません。神話の中に国を安定させるための原理・原則を極秘のメッセージとして組み込んだ秘蔵書です。
『古事記』は今のように広く一般の人が読むことを想定していません。天武天皇が、将来の天皇ならびに為政者に対して、天皇のあり方、国の統治のあり方を伝えるために書き遺した書です。ただ、こう書くと、なぜ誰がいつ見ても分かるようにして書かなかったのかという疑問が湧きます。
最もな疑問だと思いますが、理由は中国(唐)の存在です。中国にその原理を知られたくなかったのです。彼らがその原理を使った国づくりをして、栄華を誇るようになれば、やがては日本は呑み込まれてしまうと考えたのです。663年に日本は唐・新羅連合軍の前に惨敗しています。約3万の兵を無くしたと言われています。その恐怖心がかなり影響したと思っています。漢文とヤマト文字を漢字に直した上、ミックスした文章で書いたのです。英語とローマ字を組み合わせて書くようなものです。仮に中国人が『古事記』の原文を手に入れたとしても解読できないようにしたのです。
(「刀剣ワールド」)
「シラス・ウシハク」―—統治の原理
「シラス・ウシハク」は、天武天皇が最も伝えたかった原理ではなかったかと思っています。というのは、この言葉を出雲神話の場面と、天孫降臨という重要な場面で使っているからです。この2つの場面で、「シラス・ウシハク」という言葉を計5回使っています。重要な言葉であり、意味的に少し分かりにくいのです。そのため、わざと使えるような場面設定をした上で、再度使うというようなこともしています。
このシラスというのは、何かということですが、冒頭の天之御中主神の話を思い出して欲しいのです。国中にエネルギーを降り注ぐのですが、力を使って統治をする訳ではないという意味です。その具体的な制度として創設したのが二官八省です。天皇は神祇官に入り祭祀を執り行います。
力を使って統治をすることをウシハク(領ク)と言います。これを専ら担うのが太政官です。太政官の中に、太政大臣、左大臣、右大臣、大納言という役職を配し、有力な権力者にそれらの官職に就いてもらいます。例えば、平清盛、足利義満、豊臣秀吉、徳川家康は太政大臣として任命されています。つまり、太政官というのは、権力者を取り込むための組織だったということです。そして、天皇は神祇官で祭祀を執り行います。天皇と時の権力者による統治、これが「シラス・ウシハク」です。この統治は8世紀からスタートして、明治時代まで続きます。
(「Stupedia」)
出雲神話 ―― 国譲りはなかった
『古事記』神話の1/3が出雲神話ですが、『日本書紀』には載っていません。何故なのか。『日本書紀』は正式の漢文で書かれた日本の正史です。公にも発表します。「シラス・ウシハク」の言葉を使えば、その原理とともに中国に知られます。それは避けたいという思いが強かったのでしょう。
出雲神話では「シラス・ウシハク」の言葉を3回使っています。一番有名な場面は、使いの神が大国主神に対して、お前がウシハク、つまり領有している地は、わが主のシラス国であると思うが、お前はどう思うかと問います。問いかけながら、天皇のシラスを認めよと説得します。最後は、大国主神が天皇のシラスを認めるという話です。現代的な言葉を使うならば、大国主神は出雲王国の王から、ヤマト政権の出雲の地方長官になったという話です。
だから、大国主神は国を譲った訳でもありませんし、領地を強奪された訳でもありません。そして、出雲の地方長官になったお祝いに、天まで届くような壮大な社殿が建てられることになったのです。現地の美保神社には、今でもそれを讃える祭りが2つ残っています。祭りの最後で宮司が「めでとう候」と言います。争えば多くの命が無くなったと思われます。大人の話し合いの結果、それが無くなったのです。こんなに目出度い話はないということです。
(「www.izmcci.or.jp」)
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