「前回は、シラス、ウシハクという言葉を習いましたが、実は初めて聞きました。ただ、一応そういうことを書いている中学の公民の教科書もあるのですね」
「自由社だけです。しかも、この教科書は検定で一度不合格になっています。その後、様々な働きかけの中で、2020年に合格となりました」
「検定は、確か4年に1度ですよね」
「2019年に不合格でしたので、通常であれば4年後に再チャレンジだったのですが、翌年に修正申告をして合格となりました。ただ、不合格になった根底には、思想的な対立があります」
「一番の対立は、具体的には何ですか?」
「明治から終戦までをどう捉え、どう考えるかという辺りが一番の対立点だと思います。明治憲法もそうですが、朝鮮半島政策や戦争の捉え方もかなり違います」
「明治憲法については前回話を聞いて大体分かりました」
「今日はもう少し踏み込んで、そもそもどうして見解が分かれてしまうのか、その根本原因を探ってみたいと思っています」
「実は、そのことは前から不思議に思っていたのです。よく自虐史観なんて言いますけど、日本の国で起きたことなのに、見方が違うって、私にはなかなか理解できないことです」
「具体的に言えば、マルクス(1818~83)の革命理論が絡んでいるのです」
「どの辺りに絡むのですか?」
「明治維新は市民革命なのか、です」
「マルクスが明治維新について何か言っているのですか?」
「彼の生きていた時代に起きたのは間違いありませんが、彼は日本という国に関心を向けていませんでした。日本の活動家たちが、明治維新をマルクス主義の立場から理解しようとしたのです」
「その辺りは、本論でお願いします ↓ なお、表紙イラストは「探究学舎」提供です」
日本はマルクス主義の影響を強く受けている国
日本はマルクス主義の影響を強く受けている国です。実際に、G7はもちろんOECDの中で共産党が議席をもって議会活動をしているのは、日本だけです。
その理由は2つ挙げることが出来ます。1つは、世界最初の社会主義革命が日本の隣国ロシアで起こったことです。2つ目は、ロシアのスターリンが革命を世界に広めるため、コミュンテルンという国際組織を作り、世界に支部の創設を呼び掛け、それに呼応するかたちで日本にも共産党支部が作られたからです。
共産主義の影響は、特に戦後の法学、政治学、経済学に見受けられます。特に、60代から70代の学者に多いと思います。60代から70代というのは、学者としてはある意味最盛期ですので、そういった人たちが社会科の教科書を執筆していますので、内容は推して知るべしとなります。
(「チャンネルグランドストラテージ」)
講座派と労農派は、明治維新をどう捉えたのか
マルクスの革命理論は日本に於いては、講座派と労農派によって展開されることになります。講座派のネーミングは『日本資本主義発達史講座』(岩波書店)の執筆陣が主に提唱したことから付いています。
講座派は、明治維新によって日本は天皇制絶対主義となったと捉えます。ただ、経済的には資本主義が成熟していませんので、革命の考え方としては、まず天皇制打倒の民主主義革命(市民革命)を行い、その上に立って社会主義革命を起こすというものです。いわゆる2段階革命と言われていますが、実はこの考え方を現在の日本共産党は受け継いでいます。
その影響下にある学者、文化人たちは、明治憲法は天皇主権を定めた憲法と捉えます。明治憲法のどこにも「天皇主権」と書かれていませんが、彼らの理屈からすると天皇制は打倒すべき対象ですので、「天皇主権」でなければ困るのです。シラス、ウシハクという考え方は、絶対に認められないということで、死に物狂いの検定阻止闘争を繰り広げることになります。
労農派というのは、雑誌『労農』に寄稿する人たちのグループから付いたネーミングです。労農派は明治維新を市民革命と捉えます。そうなると、明治時代に日本は日本主義社会の道を進んだので、次の革命は社会主義革命となります。
労農派の考え方がすっきりしているように思えますが、天皇をどう見るかという説明が苦しくなります。市民革命というのは、王権の否定です。明治時代も天皇が頂点にいますので、否定されていないではないか、市民革命と捉えるのは無理であろうという論争が両派の間で起きます。
マルクスの公式をそのまま当てはめるのは無理がある
両派に共通しているのは、資本主義から革命を経て社会主義に移行するという公式を一生懸命当てはめようとしていることです。
ただ、その公式が正しいと証明された訳ではありませんし、万国共通にそのように歴史が進むと考えるのも問題だと思います。今までの世界各国の歴史を概観してみれば分かりますが、日本のように一つの王朝が長く国土を統治した国もあれば、イスラエルのように亡国の民として約3000年世界を放浪した民族もありますし、中国のように様々な民族が勃興を繰り返したところもあります。
さらに、革命という大きな動乱を考える場合は、3つの要素を考える必要があります。政治的な成熟と経済的成熟、さらにはその国の国民性です。どういうことか。人権状況が最悪だが、経済的にはそれなりに恵まれている。それに対して、国民がどう反応するか、まさに国民性の問題です。そして、そこに国の対応が出て来ます。このように、具体的に考えると、単純な問題ではないことが分かると思います。
本来は複雑な問題にも関わらず、単純に提示している。何故なのか。要するに、共産主義プロパガンダだからです。マルクスはユダヤ人です。彼の時代は、ユダヤ人は亡国の民です。祖国再建が彼の脳裏の多くを占めていたと思います。革命による動乱が起こる確率が高まれば、それに乗じて祖国再建のチャンスも広がるはずと彼は考えたはずです。そういった彼の「色気」を踏まえて著書を読み解く必要があるのです。
(「WSJ」)
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