「円安が続いていますね。やはり、この前おっしゃっていたように、しばらくは円安基調が続くのでしょうか?」
「円安基調はこのまましばらく続くと思います。逆に、円高に振れる要因そのものが全くと言っていいほどないのです」
「円高要因が全くないというのは、どういうことですか?」
「通貨というのは、基本的にその国の経済力を表しています。そこに金融政策や世界経済や国際政治の動向といった要素が入るかたちで変動します」
「今、言われたのは主に3つです。経済力、金融政策、世界の動向ということです。どの視点からも、円安しかあり得ないということですか?素朴な疑問ですが、経済力というのは一朝一夕にひっくり返るものではありませんよね。そういうものを要素の1つに入れても良いのですか?」
「成る程、良い質問ですね。私が言った経済力というのは、現在の経済力ではなく、将来を見越しての経済力だと考えて下さい。そして、将来の伸びしろがある場合は、それを高く評価するのです」
「今は高校出たてのルーキーで140kmのピッチャーだけど、将来は日本の球界を背負うようなピッチャーと150kmのベテランピッチャーを比べるようなイメージですか?」
「面白い例えを使いますね。要するに、現状は相手が上だけど、将来を考えた時は140kmのピッチャーを誰もが買うということですね。為替というのは、今というより、将来を考えて動きますので、そのイメージで良いと思います」
「金融政策というのは金利ですよね」
「そうですね。アメリカはインフレ対策ということで金利を上げています。日本は低金利政策を続ける意向を日銀の黒田総裁が明言しています」
「金利の差で動いてしまうということですか? 」
「わずかの金利差であれば数値に表れるような移動はないと思うのですが、今回はトリプルの要因が揃ってしまいましたからね。一気に円安に振れたのです」
「どの位まで行きそうですか?」
「私は為替のトレーダーではありませんので予想は出来ませんが、感覚的には130円にすぐ行きそうだと思っています。そもそも、今回の円安について政府の方針がはっきりと示されていないと思います」
「そういった数値の裏側の動向をどう読めばいいのか、その辺りについて、本論でお願いしたいと思います」
将来の伸びしろを感じさせる国の通貨は「買い」
その国が経済的に成長するかどうか、どこで判断されるのかということです。世界の経営者や投資家たちの目が、世界の国の経済動向を敏感に嗅ぎ分けようとしています。現在の経済大国はデータを見れば誰でも分かります。調べればすぐに分かるようなことは、誰も関心を寄せません。
一番重要なことは、これからの世界経済をリードするような技術や人材を生み出すことが出来る国がどこなのか、国レベルで難しければ組織でも良いのです。それを見い出したいと思っている人が世界には多くいます。何故、こういうことを書くのかというと、そのような国に資金が集まるので、そこに資本を投下したいと思うからです。そして、その国は20世紀の終わりに於いては日本だったのです。
そんなこともあって、1973年に変動相場制が採用されて以降、20世紀の間の為替レートの基調は円高だったのです。当時の日本では、その経済的な意味がよく理解されていなかったような気がします。「円高不況」という言葉も産み出され、何か円高というのは良からぬことというイメージまで定着をしたのですが、それはともかくとして世界からは高い評価を受けていたことは間違いありません。
(「SankeiBiz」)
固定相場制から変動相場制に移行したのは、日本経済が強くなったため
戦後は固定相場制でした。1ドル360円というレートが不変のレートとして使われていました。そのうち、日本が戦後復興を経て、高度経済成長を達成して経済力が強くなるに従って、そのレートを維持できなくなり、ついに変動相場制に移行することになります。
その頃は、日本に対する世界の評価が大変高かった時代だと思います。ロベール・ギランというフランスのジャーナリストが著した『第三の大国日本 JAPON』(朝日新聞社、1969年)という書が手許にあります。この書が書かれた頃は、丁度日本は高度経済成長の真っ只中という時代です。1964年に東京オリンピックを成功裡に治め、世界に日本の目覚ましい復興振りをアピールした頃です。
ギラン氏は、当時の日本の成長性の要因として多くのものを挙げています。項目だけ紹介します。「勤勉な日本人」(112ページ)、「勤労的な国民」(116ページ)、「第二の家族としての企業」(120ページ)、「高い教育水準」(127ページ)、「教育の浸透と読書熱」(134ページ)というように続きます。背中がこそばゆい感じを持つかもしれませんが、この位高い評価を受けていたのです。
折角ですので、最後の項目の中の記述を一部紹介します――「日本の読者の飽くことを知らぬ好奇心は、彼らを外国の書物の翻訳の大消費者とし、日本に、世界でもっとも国際的な出版社を生んでいる。……あらゆる有名な著作またはあらゆる大きな発行部数を持った書物が、日本語に訳されている。知名の評論家犬養道子は、たとえば、日本はロシアの現代文学をもっとも多く訳している国だと報告している。そして、それを読む読者層は、決して「スノップ」や知識人だけでなく、りっぱな著作物を読むためにわずかな給料を節約している男女「平均日本人」、まったくもって広範な大衆で構成されていると強調している。……大部分の住民が、鉱山労働者で構成されている、ある小さな町の本屋では、2週間では、アンドレ・モーロワとルイ・アラゴン共著のアメリカとソ連の「平行史」が40部売れた。そのような書物を読む坑夫は、ふつうの坑夫とはいえないだろう」(同上138ページ)。
経済成長を押し上げるのは人の力
実はこの書は、敗戦国がわずか30年位で世界第二位の経済大国にどうしてなることが出来たのかという問題意識のもとに書かれたもので、「帯」には「エコノミック・アニマル日本のレポートとして、たちまちベストセラーとなった」と書かれています。
そして、ギラン氏はその秘密は教育にあると結論付け、その辺りについて本書の中で細かくレポートしています。経済ということでつい数字を追いかけようとしますが、実はその経済をけん引するのは人の力であり、人財力であると考え、それを引き出すのは教育力に他ならないと考えたのです。
岸田内閣は「新しい資本主義」とアドバルーンを上げ、「成長と分配」ということを言っていますが、どうやって成長させるのかについては語っていません。人を成長させるという視点、つまり教育という視点が欠落しているのです。1960年代にフランスのル・モンドの記者を感嘆させた日本の教育について、今一度いろんな意味で見直す時期なのかもしれません。
(「西日本新聞」)
読んでいただきありがとうございました。
よろしければ「ブログ村」のクリックをお願いします。
↓