「コロナで少子化が進んでいますね」
「昨年の出生数は最小の84万人です。この数がいかに少ないかを知るのに簡単な方法があります」
「どうするのですか?」
「この84万人という数に80を掛けてみて下さい。およそ6700万人位になると思いますが、今の人口の半分です」
「今の計算は、84万人という出生数が仮に80年連続した場合ということで出した数字ですね。80という数字は平均寿命ということですね」
「そして、その84万人が常にコンスタントに再生されるかどうかは、出生率を見れば分かります」
「2.0を下回っていますので、再生されませんよね」
「結婚しない人もいますし、その前に病気や事故で亡くなられる方もいますからね。多分、誰も恐ろしくて言えないのかもしれないけれど、日本はこのままだと、すさまじい勢いで人口減となるということです。50年位経つと、今の1/3位になるかもしれません」
「そんなこともあって「子ども庁」の構想がでてきたのでしょうか?」
「その辺りは分かりませんが、子どものことを真剣に考えなければいけないという切迫感があるのかもしれません」
「少子化対策に役立つのでしょうか?」
「難しい質問ですね。少子化というのは、様々な原因が複雑に絡み合って生じているので、それを解きほぐすような仕事ができるようならば、少子化対策にとってプラスになると思います。いずれにしても、社会の真ん中に「子ども」を位置付けることが必要です」
「真ん中に位置付けられていないのですか?」
「脇に追いやられてしまっています。特に、外国からの子どもたちの多くは支援学級で授業を受けています。結婚も子育ても、完全に私的なこととして動いています」
「その辺りについて、見ていきましょうか。ここからが本論です ↓」
出生率、5年連続減
出生率の低下について、『日経』は明治大学の加藤久和教授のコメントを紹介しています――「若い世帯の雇用環境の悪化、特に非正規雇用にある女性の不安定さ、将来に対する期待の低下、両立支援対策の不足などが影響している」。ただ、加藤教授が指摘したことが例え改善されたとしても、出生率が戻ることはありません。つまり、少子化の問題の根底にある原因は、そういうことではないのです。
どういうことか。人間が牛や馬や犬であれば、雇用環境や育児環境を改善すれば子供を産み始めるでしょう。残念ながら、女性は当たり前ですが人間なので、そういう単眼的な視点だけでは解決は出来ません。複眼的な視点が必要なのです。
(「厚生労働省」)
イスラーム世界では何故、高い出生率を維持できるのか
複眼的な視点ということで、イスラームの世界を紹介したいと思います。もしかしたら、何かの参考、ヒントになるかもしれないからです。イスラーム社会と言ってもいろいろな国がありますので、エジプトを例に取り上げてみたいと思います。
というのは、エジプトの出生率は大変高いからです。2018年統計ですが、3.33です。何故なのかということですが、イスラーム教の影響が大きいと思います。イスラームには「結婚は宗教の半分である」という教えがあります。結婚すれば、イスラーム教徒として半分認めてくれるということです。逆に、結婚しない者は、一生イスラーム教徒として死ぬまで真面目に尽くしたとしても「0.5」の評価しかもらえないということです。
イスラームの神に賞賛してもらうためには、何としてでも結婚の相手を見つけなければいけないということになります。そして、「子どもはアッラーの賜物」という教え、つまり授かりものという考え方があるのです。そうなると、授かった子供を大切に育てようということになり、それが次世代に受け継がれていくのです。
そしてイスラームでは、経済力の低い家庭にとっては子供は重要な働き手です。小学校低学年くらいから簡単な軽作業や清掃作業をさせます。社会の一員として認知してもらうと同時に、共に社会を支える仲間としての結び付きを深めます。
以上、見てきたようにイスラーム世界では、結婚と子づくりと子育てを私事的なこととせず公的なことであり、それはアッラーに対する義務とされます。そのような宗教的縛りの中で高い出生率が維持されているのです。
(「朝日新聞デジタル」)
日本の先人の知恵に学ぶ時代
日本にもイスラーム世界のような「構造」がありました。「産めよ増やせよ」は戦前ですが、「子宝」、「子供は神様からの授かりもの」との教えは薄れてはいるものの消えてはいません。その節目には神社に報告に行きます。その名残が、お宮参り、七五三という形で遺っています。
ただ、日本の神道は自然宗教のため教義はありませんし、義務的なものは少ししかありません。そこがイスラーム教とは違うところです。イスラーム教は六信五行の宗教なので日々の礼拝や断食など、日常生活に浸透しています。
日本でも戦後しばらくの間までは、農漁村では子どもは重要な働き手として考えられていました。そして、子供をその家の家族の一員として考え育てるのは当然のことですが、それにプラスして地域社会の中で子育てが担われてきました。子供は地域の人たちの見守る環境の中、子供集団の中で育ち成長していったのです。そのような社会環境が、長い時間をかけて自然に地域に形成されていったのです。今、ちょうどNHKの朝ドラで「おかえりモネ」が放送されていますが、モネの幼馴染(おさななじみ)たちは、地域で繋がっているのでお互いの家同士が知り合いになっています。だから、モネの家で男女5人が泊まるというシーンもありましたが、そのようなことが普通にあったのでしょう。そういった地域社会が、かつては日本の全国至る所にあったのです。
(「仙台めぐり」)
そして、日本の結婚は、家と家との結びつきの中で行われてきました。それは「嫁」という漢字の成り立ちを見れば分かります。つまり、結婚、子づくりと子育てが公的なこととして捉えられ、その中で人口が増加していったのです。動植物は自然環境を整えれば、子孫が勝手に増えていきます。人間の場合は、非常に複雑な生き物なので、単純にはいきません。そのため、先人は人口が増え、地域社会が発展するために、2重3重の「仕掛け」を用意したのです。
つまり、社会環境だけではなく、理念や道理といったものが必要なのです。簡単に言えば「理屈」です。人間は理屈がないと動かない動物なのです。どうして結婚しなければいけないのか、どうして子供を産み育てなければいけないのか。それを公的な面から説明する理屈が必要です。それがきちんとしていないと、人は動きません。イスラーム世界での理念や道理は、イスラーム教に尽きます。日本の場合は、神道ですので強力な理念や道理といったものがありません。それを補うように家制度を設け、結婚の相手は当人任せにしないで、家人あるいは地域の人たちが見つけてくるというシステムを作ったのです。結婚を私的なこととせず、家名と財産を守り、それを子孫に受け継いでいくための大事な儀式と考えられたのです。そして、そういう中で人口が増加していったのです。
人口減のメカニズムを踏まえた対策をする必要あり
そのようなメカニズムの中で結婚が考えられ、子供が出来、育ち、人口も増え地域が発展していきました。現在、急速に人口減が進んでいるのは、そういったメカニズムが壊れかかっているからです。学校統廃合という政策も地域衰退の原因となっています。学校、特に小学校は地域の中心組織だからです。
話をまとめたいと思います。まず、結婚が完全に私的なことになってしまいました。そして、地域の中の人の結び付きが弱くなっています。沖縄のように地域の繋がりが強いところは人口を維持できますが、「隣は何をする人ぞ」といった地域では人口減が進みます。例えば、東京都の昨年の出生率は1.13です。人口が多いからといって、それに比例して男女の出会いが増えて子供か出来る訳ではありません。人間はイヌやネコではないからです。
子供を中心にした地域社会を作る、結婚に対して社会的な意義づけをする。男女の出会いのシステムを公的な機関が考える。この3つのことを考えないと、人口減はこのまま進んでいきます。子育て支援ということでどうしても財政的支援、法的整備に目が行きがちですが、日本人が長い歴史の中で作ってきたシステムを地域の中で再構築するという発想を持たない限り、いくら財政的支援、法的整備をしても全く無駄とは言いませんが、空回りするだけです。
【首都圏1都3県の出生率】
都道府県 | 2020年 | 2019年 |
東京都 | 1.13 | 1.15 |
神奈川県 | 1.25 | 1.28 |
千葉県 | 1.28 | 1.28 |
埼玉県 | 1.26 | 1.27 |
(全国平均 / 1.33)
数字が低い都道府県は、それだけ地域社会が崩れているという見方をして下さい。地域社会が崩れると、ほんの些細なことで近隣同士がいがみ合ったり、暴力事件が起きやすくなります。そして、その地域の公立学校が荒れる遠因をつくることになります。すべてが繋がっているのです。
読んでいただき、ありがとうございました。
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