
「今、にわかに「70歳定年制」という話が持ち上がっています」

「ついこの前、60歳を65歳に引き上げたばかりだと思いますけど……」

「日本ではなく、世界的な潮流としてそのような動きが出ているのです」

「実際に「70歳定年制」に踏み切った国はあるのですか?」

「デンマークが今年の5月に2040年までに「70歳定年制」に段階的に引き上げる法案を可決しました」

「それが一番先進的な動きでしょうね」

「日本もやがてそれに右倣えをすると思います」

「定年制延長の流れは、平均寿命の伸びが大きな理由ですか?」

「最も大きな理由は、年金制度維持です。先進国は少子高齢化が進んでいます。高齢者を働く世代で支えるという前提で今の年金制度が成り立っているのですが……」

「その前提が崩れ始めたということですね」

「このまま少子高齢化が進めば、制度そのものが維持できなくなります。定年を延長して、年金受給の開始を遅らせようと考えているのです。日本では、その動きは出ていませんが、フランスでは受給開始を62歳から64歳に引き上げる政府プランが出されています」

「私がその年齢の頃には、年金受給年齢が70歳かもしれませんね」

「このままだと、そうなる可能性が高いです。支給額も下手をすると、少なくなる恐れがあります」

「ここからが本論です ↓ 表紙写真は「ファイナンシャルフィールド」提供です」
定年制度の現状と年金制度の限界
定年については「高年齢者雇用安定法」(以下「高齢法」)に規定があります。同法の8条で、企業には「65歳まで働ける機会を確保する義務がある」と定めています。ただし、定年年齢を65歳に設定することを義務付けているわけではありません。そして、努力義務なので、仮に定年を60歳としても罰則はありません。
「高齢法」は2021年4月に改正され、企業には以下のいずれかの措置を取る努力義務が課されました。①70歳までの定年引上げ。②70歳までの継続雇用。③業務委託契約での継続、などです。③は、本人が希望すれば、委託契約を結んで会社での就業をはかるべきだという意味です。
定年延長と切り離せないのが年金制度です。年金は「現役世代がリタイア世代を支える」という賦課方式を採用しており、少子高齢化が進む中では制度維持そのものが難しくなります。現役世代は、2020年の約7,500万人から2060年には約4,400万人に減少する一方で、受け取る側の人数は、現在と殆んど変わらないだろうと予測されています。この構造では、拠出期間の延長や支給開始年齢の引上げといった“縮小均衡型”の見直しは避けられません。

(「シニアガイド」)
現在すでに政府が進めている「見えない調整」
定年延長とか年金支給については、変更されれば人によっては生涯プランが大きく変わります。そのため、変更内容とその政策を出すタイミングを誤ると、世論の反発を招きます。フランスのマクロン政権は、年金の受給年齢を62歳から64歳への変更をしたところ、世論の猛反発と野党の反対に遭って、提案を棚上げする事態に追い込まれてしまいました。正面からの改革はそのようなことになりかねないので、政府は静かな改革を行い始めています。
受給開始が60〜75歳の間で選択となっていますが、内閣府・財務省からは受給開始年齢を70歳に近づけるべく、そのための方法論について議論が進んでいるとのことです。「65歳受給」を明記したままにしつつも、実質的には後ろ倒しに誘導する、という方法がとられやすいと思われます。今後10~20年の間に、①就業年齢は70歳までが標準化し、②それに伴って、年金受給開始が70歳になり、③支給額はスライド調整で少しずつ減っていく。④年金は生活を支える中心的な収入から、補助的な収入として位置付けられるようになるでしょう。
しかし、以上の考え方は、日本経済が成長せず、現状のまま推移するという前提での話です。収入が伸びない中で、どのように家計をやりくりするかというようなものです。定年や年金といった個人の生涯設計に関わる問題について、国が一律に決めるようなシステムを取っていますが、本来は様々な選択肢があっても良い問題です。

(「東洋経済オンライン」)
地方主導の経済拡大こそ本質的解決策――中央集権からの脱却を
この問題の本質は、「すべてを中央が一律に管理しようとする制度」そのものにあります。個人や地域が本来持っている活力が、この中央集権型システムの下で大きく制約されてしまっています。日本人一人ひとりの能力は極めて高いものがあります。ノーベル賞受賞者の数、スポーツや文化の領域での世界的活躍を見ても、それは明らかです。その才能を十分に引き出せていない最大の理由こそ、官僚独裁的ともいえる中央集権体制です。
企業が地方税として支払っているものは、法人住民税と事業税です。その税率はどの地方でも同じです。アメリカやドイツのように州によって税率を変えられれば、企業誘致をすることができます。例えば、テキサス州; サウスダコタ州:法人所得税ゼロ、ニューヨーク州:6.5%というように州の考え方によって税率が違います。例えば、道州制を導入して、歳入権(徴税権)と予算権、さらには教育権を中央から移譲したとします。北海道では、観光・農林水産教育、九州では半導体・宇宙工学教育といったように地方が描くマスタープランに従って教育、研究体制を採ることができます。予算責任が道州に移るため、財政規律が働き、中央主導のバラマキ政治が制限されるため、財政赤字の抑制につながります。地域が「最適化された政策」を実行することができますし、東京への一極集中もなくなります。都心のタワーマンションが億ションという変な価格もなくなるでしょう。
こうした大胆な地方分権によって「経済全体の底上げ」が進めば、年金問題も定年問題も“縮小均衡”の議論から解放されます。経済が拡大すれば、支える側も受け取る側もその金額が増え、制度そのものが持続性を取り戻します。むしろ、地方分権が進めば、定年や年金のあり方を州ごとに決めることもできるでしょう。定年を60歳とする州、75歳とする州、高負担・高福祉モデルの州、低負担・自己責任型の州。個人は自分の価値観や生き方に合った地域を選び、自由に移住できます。こうした社会こそが、成熟国家として自然な姿です。
今の日本は、国がすべてを統一的に決めるために制度疲労が生じ、「穴だらけ」の状況になっています。必要なのは制度の微修正ではなく、官僚独裁的中央集権からの脱却です。地方の自立と個人の自己決定によって、日本経済の活力を取り戻し、全体の「パイ」を大きくすることを考えるべきです。その発想こそ、定年・年金問題の根本的解決につながると考えます。
【参考記事】原田亮介「70歳ていねん日本は倣えるか」(『日経』2025.12.8日付)

(「スマート選挙ブログ」)
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