「SDGsって前に少し話題にしましたが、覚えていますか?」
「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)でしょ。企業関係者が最近よく使っているという印象があります」
「SDGsは2015年9月の国連サミットで採択されたものですが、2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標です」
「Goalsと複数になっているので、確かいくつかの項目があるのですよね」
「全部で17あります。日本人はこういうものが出ると、すぐ飛びつくところがありますが、前にも言ったように、この中のいくつかをつまみ食い的に取り出して企業活動をしたからといって、その企業が持続的に活動できるとは限りません」
「コーポレート・アイデンティティを確立した上で、17あるうちのいくつかの項目と有機的に結び付けたところで活動するのですよね」
「そうですね、そうすればその企業は長く市場で持続的に活躍できると思います」
「要するに、項目の捉え方が大事なのですね」
「すぐ飛びついて、早とちりをして、勘違いをするというパターンが結構多いと思います」
「これは国にとっての目標でもあるのですよね」
「もちろん、そうです。だから、国連サミットで採択されたと思います。この17項目というのは、自己点検表だと思っていますが、日本はどの項目に問題ありと思いますか?」
「そうですね、貧困の問題、健康、福祉の問題。教育と男女平等の問題あたりでしょうか」
「私は4番目の『質の高い教育をみんなに』の項目に問題意識を感じます」
「ここからが本論です ↓」
目次
文科省ではなく、なぜか外務省が教育問題について意見表明
「質の高い教育をみんなに」とありますので、普通に考えれば文科省の領域分野ですが、なぜか外務省がSDGsの教育に関する意見を表明しています。これは多分、SDGsが国連サミットで採択されたことなので、外務省の問題として捉えようとしたのだと思います。
その内容について、外務省はホームページで発表していますが、国内教育の細かい状況を把握しておらず、目が海外に向いてしまっています。
「包摂的かつ公正な質の高い学びに向けた教育協力」(外務省ホームページ)という言葉から、日本は教育については特に問題はないと思っていることが分かります。
外務省ホームページには、教育に関して「(2)産業・科学技術人材育成と社会経済開発の基盤づくりのための教育協力」、「(3)国際的・地域的な教育協力ネットワークの構築と拡大を挙げており,学び合いを通じた質の高い教育の実現を目指しています」と、「教育協力」という言葉が目につきます。教育学には、教育協力という言葉はないのですがね。
日本は教育については、あくまでも「協力」する立場にあるので、日本の教育については何の問題もないと言外に言っているのです。しかし、そこに大いなる錯覚があります。
外務省の錯覚が日本政府の錯覚を生む
SDGsに関して政府主導でいろいろな取り組みが行われています。2019年末に発表した「SDGsアクションプラン2020」の骨子は以下の3つです。
1. SDGsと連携する「Society(ソサエティー)5.0」の推進
2. SDGsを原動力とした地方創生、強靭かつ環境にやさしい魅力的なまちづくり
3. SDGsの担い手として次世代・女性のエンパワーメント
1.は経済やビジネスの観点から、2.は地方創生の観点から、3.は女性活躍推進、高校無償化、高齢化など主に人にまつわる観点から推進されています、というのが政府の説明ですが、そういったものが上手くいくかどうかは、実は教育に掛かっていることを見落としています。
持続可能な発展を続けるためには、教育システムを立て直す必要あり
日本が持続可能な発展を続けるためには、安定的に能力ある人材が社会に供給されなければいけないのですが、そのためには、教育をどうするかという議論に向かう必要があります。時代に応じて、求められる人材の質が変わります。当然、教育の在り方も変えなければいけないのです。
どうも、子供たちは学校に行って、特に問題なく学校生活を過ごし、そこで社会で求められる能力を得ていると思い込んでいるフシがあります。
現状を指し示すデータをいくつか紹介します。(2018年度)
・小中学校と高校の児童・生徒の自殺者数は332名。1980年以降で最多。
・不登校児童生徒数は16万4,528人。6年連続で増加し、過去最多。
「#学校行きたくない」のツイートには、多くの子供たちの叫び声が響いています。「高校行っても友達できないし、学校つまんない」。「月曜日から学校マジで無理。休みたいけど休んだ方が辛かった。学校休んだ瞬間にみんなが乗っているレーンから外れる気がして」などの声がSNSから溢れています。
・いじめの認知(発生)件数は54万3,9133件。過去最多。
以上、「平成 30 年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について 文部科学省初等中等教育局児童生徒課」(2019年10月)
・子どもの相対的貧困率13.9%
*世帯構造別 相対的貧困率の推移|厚生労働省 2015年
この数字から言えることは、日本の子供の7人に1人が貧困状態に陥っているということが分かります。「相対的貧困線」はOECDによって基準が示されていて、世帯人数によって違うのですが、4人世帯だと約250万円(年収)以下が該当します。日本は子供の相対的貧困率がOECD加盟国(34か国加盟)の中で、下から数えて10番目に低いのです。目を外に向けている場合ではないのです。
・「ニート」(15~39歳の若年無業者) 74万人(2019年統計)
74万人というのは、全体の2.3%です。これは過去最高です。15から39歳の若者の43人に1人は無業者ということです。
すべての項目で、最悪を更新しています。これが現状です。何とかしなければいけないという問題意識もありません。そこにこの問題の深刻さがあります。国会議員は一体どこを見ているのかと思っています。
SDGsが求めているのは「質の高い教育」
単に学校があり、無償の義務教育制度が用意され、教科書が支給されというのは、最早当たり前のことです。SDGsが求めているのは「質の高い教育」なので、そこをきちんと認識して欲しいと思っています。大学を乱立させれば、質の高い教育が保障されるわけではありません。
・教育の公的支出、日本は35か国中最下位(OECD調査)
2019年に発表したOECD調査によると、教育の公的支出が2.9%と35か国中最下位です。要するに、日本の学力は各家庭の経済力に支えられているということがデータの上で明らかになったということです。これを改める必要があるでしょう。
40人学級(小1は35人)というのが、今の日本の規準です。ただ、これは国際的には非常識な数です。今や時代は、少人数による多様な教育の時代です。20世紀の半ば、はるか昔に作った規準を見直しもせずに、平然といるようでは国際競争に勝てません。実際に、負け始めています。
不登校やいじめの問題、減ることなく、増え続ける状況が現にあります。当然、見直しをするべきでしょう。
何を「質の高い教育」と考えるか
日本とは違い、公的支出を多く出し、学力の高い子供たちをコンスタントに輩出しているフィンランドの様子を探ってみました。
フィンランドでも不登校はいるそうです。ただ、数が少なく、0.5%とのことです。フィンランドは教育立国を目指しているだけあって、クラスには2人から3人の教員を配置しているそうです。そして、教育についてはデジタル化が進み、様々な工夫をこらしています。そもそも、教員は大学院の修士課程以上でないとなれないそうです。教育実習も半年あるそうです。それに比べて、日本は……。
不登校のための施設ということで言えば、ユースセンターを地域に設置して、そこで 中学生から30歳以下の学生を受け入れているそうです。ユースセンターには、ユースワーカーが常駐して子供たちをサポートする態勢をとっているそうです。このユースセンターのコンセプトが大変ユニークで、誰もが気軽に訪問でき、そこで勉強もできるし、仲間と過ごすこともできるのです。ユースセンター内には、キッチン(自由に料理できる)、卓球台、テレビゲーム、ビリヤードなどがあるそうです。
日本の場合、教育は大丈夫という根拠のない自信みたいなものがあるのかもしれません。
問題意識があるところに工夫と解決の途がありますが、そのような問題意識すらないので対策もないし、そこに危機の本質があるのかもしれません。
読んでいただき、ありがとうございました。
よろしければ、「ブログ村」のクリックをお願いします ↓