「はやぶさ2が偉業を成し遂げましたね」
「長い旅、お疲れ様でしたという感じですね。地球を出発したのが2014年の12月、小惑星のリュウグウに到着したのが2018年6月です」
「それだけでも、凄いと思うのですが、その小惑星のサンプルをカプセルの中に入れて、地球に送り届けたというのを聞いて、どういう計算をしたのかなと驚きました」
「そうですよね、はやぶさ2が飛んだ距離は52億キロメートルだそうです。6年間の旅の成果としてカプセルを地球に送ってくれました」
「初代のはやぶさもサンプルを持ち帰ってくれましたよね」
「初代はやぶさは、確か何回かトラブルに巻き込まれたと記憶していますが、今回のはやぶさ2は目立ったトラブルもなく任務を遂行したのは凄いことだと思います」
「ちょうどそのNHKニュースを見たのですが、カプセルが流れ星のようになって戻ってくるシーンを放映していました」
「私も見ましたが、感激の余り涙ぐんでいた女性の方がいましたね」
「感情移入しちやったのですね。お帰りなさいという感じだと思います」
「可愛い子には旅をさせろ、そうやって送り出して、よく帰ってきたねという母の心ですね」
「ただ、はやぶさの本体は、次の天体を目指して飛び続けているのでしょ」
「次の目標の小惑星は1998KY26だそうです」
「何かつまらない名前ですね」
「まあ、整理番号のようなものだから、ある意味仕方がないと思います。接近して、サンプル採取に手が届きそうになれば、愛称がつくと思います」
「小惑星を探査すると、どうして地球の生命の起源が分かるのですか?」
「私は文系の人間なのでその辺りについては説明できないのですが、地球の生命は小惑星がもたらしたという説があります。その手掛かりを探ろうというプロジェクトみたいです」
「それで、さらに別の小惑星のサンプルが必要ということなのですね」
「だと思います」
「何か、気の遠くなるような計画ですね」
「次の小惑星1998KY26に到着するのは11年後だそうです」
「うわっ、私は40歳になっています!!」
「どさくさに紛れてサバを読まないようにして下さい。ここからが本論です ↓」
JAXAは、目標達成10000%と発表
今回の小惑星リュウグウまでの距離は、地球から約3億6千万キロとのこと。想像できないような距離ですが、ちなみに地球から月までは約38万キロ、地球から太陽までが約1億5千万キロです。いかに多くの距離を飛んだのか、分かると思います。
サンプル回収においては、いろいろなアイディアが詰まっていたと思います。まず、到着した後の問題です。表面の「砂」は太陽によって風化して大きく変質している可能性があるので、持ってきても余り意味がない。太陽系誕生当時の「証拠」を取るためには、地中深くの岩石のサンプルを取る必要があるのです。小惑星の深部の岩石を取るにはどうすれば良いか。達した結論が、「爆弾搭載計画」(山根一眞『はやぶさ2の大挑戦』講談社、2014年)だったのです。
これは見方を変えると軍事技術です。かなり離れた所に正確にクレーターができる位の爆弾を打ち込むことが出来るということです。新聞には、その辺りについて、さりげなくクレーターを作ってとか、「金属弾を打ち込んで」(『日経』)と、柔らかく表現をしています。学術会議の発想だと、宇宙開発技術かもしれないが、軍事に転用できるので駄目となるかもしれません。それはともかくとして、このような試みは、世界初であることは確かなようです。
日本企業連合体の勝利
はやぶさ2の開発・製造には200~300社の企業が参画したそうですが、その多くは日本企業だったそうです。テレビでも紹介されていましたが、例えばその一つとして、誤差が0.01%という精度の高いスプリング技術が求められ、それを町工場の技術者たちが何回も試作品を作ってチャレンジをしたそうです。たぶん、これ以外に多くの苦労話やいろいろなエピソードが埋もれていると思います。
そして、技術力を支える手先の器用さは、農耕民族が土いじりの中から育くんだ祖先譲りのものがあります。勘と経験によって精度の高い工芸品を作る技術が、工業製品や精密機器を作る際にも生かされているのです。
転機にきている宇宙開発
今回のはさぶさ2が前回のはやぶさと大きく異なるのは科学者たちの関わり方だそうです。前回のはやぶさは宇宙科学研究所のスタッフが中心だったそうですが、「はさぶさ2では、宇宙研の理学研究者に加えて全国の30を超える大学、研究機関や天文台のおよそ100名が参加している。そのサイエンスチームは、はさぶさ2によって日本がさらに大きな科学的成果を得ることを目指している」(山根一眞『はやぶさ2の大挑戦』講談社、2014年/272ページ)ところだそうです。
実は世界の宇宙開発は「大変革の最中にある」(「日本 惑星探査で存在感」『日経』2020.12.7日付)とのこと。簡単に言えば、国家プロジェクトから民間委託に流れが変わってきているということです。狙いはコスト削減ですが、それが「米スペースXなどの宇宙スタートアップを育て、投資マネーを呼び込むきっかけにもなっている」(同上『日経』)と言います。
スペースXは、11月には日本人宇宙飛行士の野口聡一さんたちを宇宙ステーションに運ぶということで、ニュースで紹介されていました。現在はNASAやJAXAといった国家機関が主導していますが、今後は民間主導が主流になるだろうと言われています。
JAXAの培った技術をどのように守り、発展させ、民間に引き継いでいくのか、という問題があります。軍事機密にもなりうるので、その技術の中には、容易に外部に出せないものもあると思います。民間に引き継げないとなれば、予算枠を広げる必要があります。はやぶさ、はやぶさ2で予算は200~300億です。この金額はアメリカの宇宙関連予算と比べると数十分の1です。それでも、はやぶさ2の予算は長く通らないまま、計画は延期されていたという過去があるのです。
確かに、宇宙にロケットを飛ばして何の役に立つのかと思う人がいるかもしれません。それは、宇宙ビジネスの具体像が現在はハッキリしていないからです。
宇宙への挑戦が本格的に始まる時代
多分、大航海時代にも当時の人はきっと思ったことでしょう。何のために巨額な費用をかけて危険を冒してまで大海に漕ぎ出していく必要があるのだろうか、と。今では別に不思議ではないことが、当時の人には不思議に思ったことでしょう。
今が、宇宙という大海に人類が競って出航しようとしている時なのです。後で振り返って、分かることなのでしょう。そして、「宇宙科学も物理、天文,化学、生物などあらゆる科学の進歩の源泉です。宇宙への挑戦は日本が科学技術を進化させ、世界をリードしていく上で欠かせないことなのです」(山根一眞、前掲書、286ページ)
ただ、そのためには文科省ということで、科学技術をつかさどる機関と教育機関が合体させられているので、それを分離独立することが必要でしょう。その上で科学技術に関する予算をきちんとつけ、専門家の養成も計画を立てて行うということでしょう。
ちなみに、アメリカの宇宙開発予算は約400億ドルですが、日本はその20分の1くらいしかありません。学術会議の問題も絡んでくるのですが、根本的なところで止まっているというのが現状だと思います。そういった悪条件の中で、現場の方たちの一致団結した力によって今回の成果が得られたのだと思います。
読んでいただき、ありがとうございました。
よろしければ、「ブロク村」のクリックをお願い致します。 ↓