(この話は3/7日に書きました)
中高一貫校で社会科の教師として37年間勤務する傍ら執筆活動にも力を入れる。
著書多数。
「一人ひとりに合った教育の創設を追究したいと思っています」
詳しくはトップページプロフィールより。
目次
行政は限界集落や危機的状況に陥っているところに手を差し伸べるべし
2人の話の中で出てきた限界集落は、現在15,568箇所あります(2015年総務省集計による)。集計は5年ごとに行われているのですが、前回調査の時は、10,091箇所でしたので、集落の限界化が現在においてもかなりのスピードで進行しているのが分かります。ちなみに、最も限界集落の数が多かったのは、中国地方です。次に九州地方、四国地方と続きます。
今、日本は人口減で悩んでいますが、自治体や国がまず手当てするところは限界集落ですし、関心をもつべきは檜枝岐村のように、全村挙げて努力している所に行って様々な視点から調査し、分析することです。一つの組織や共同体が存続するためには、そこには構成員をつなぎ止める力が働いているからです。それが、文化なのか宗教なのか、習俗、はたまた誰か人の力かもしれません。すべての物事を偶然ということですべて片付けて良い訳ではありません。分析し、データ化して行政に生かすという姿勢が欲しいと思います。
行政の発想は「大合併」しかない――ワンパターンの対策ではダメ
人口が多い地域をそのままにして、人口少ない市町村を合併して行政効率を上げるという、ワンパターン行政が今まで行われてきました。市町村の町名や区割りというのは、それなりの歴史を背負っているものが多いのですが、合併によって町の名前をいとも簡単になくしたり、変更したりしてきました。行政側からすると重要なことではないと思いがちですが、そういったことをする中で、人の気持ちがその地域から離れることになります。行政に携わる人間は、デリカシーな感覚をもつ必要があります。
例えば、平成の大合併で2010年に愛知県に七宝町、甚目寺町、美和町が合併してあま市が誕生しました。海部(あま)郡からあま市への昇格かもしれませんが、歴史ある「海部」の字が消されてしまいました。なぜ、そんなにこだわるのかと言いますと、海部郡は父の故郷だからです。地域に愛着心をもっている人ほど、こだわるものです。
日本弁護士連合会が調査をしています。その内容を「東京新聞」が「社説」(2019.12.12)で紹介しています。以下は、その「社説」をまとめたものです
同じような規模で産業構造が似ている町村の中で、合併を選んだ町村と合併を選ばなかった町村の47組を選んで比較したそうです。47組のうち、41組では、合併を選んだ町村の方が高齢化の進み方が早かったそうです。さらに43組では合併を選んだ町村の方が人口減少率が大きかったという数字が出ています。例えば、飯田市と合併した南信濃村は29.5%減に対して、隣接する泰阜(やすおか)村は18.9%減という具合です。
合併すれば確かに行政効率が良くなり人件費の節約になるかもしれません。ただ、経済というのは循環していますので、人件費として支払われたものは、消費に使われ経済活性化の役に立ちます。
実際に、役場が一つなくなるということは、周辺の飲食店が寂(さび)れることを意味し、その人たちがどこかに移動することも当然あります。ついでに言いますと、私の母校の亀島小学校は名古屋駅西近くにある小学校でしたが廃校となり、今はありません。そのため、学区の商店街は寂(すた)れてしまいました。それを見て、故郷を捨てる人もいます。というように、それだけでは終わらずに、周りに経済的な影響に限らず、さまざまな影響を必ず与えます。
「スマートシティ」の実験は、過疎化が進む地域を対象にまず実行すべし
データを使い都市機能を高める「スマートシティ」が世界各地で広がっています。「スマートシティ」というのは、簡単に言えばAIを使っての街の高機能化をはかることです。今年の1月にはトヨタ自動車が静岡県裾野市にスマートシティ建設構想を発表しています。そんなこともあり、一般社団法人 スマートシティ・インスティチュートがシンポジウムを開催していますが、受け止めている方たちのイメージは、都会をさらにハイテク化するという感覚だと思います。
東京都の多摩市にニュータウンが建設され、1970年代から入居が始まりました。あれから50年、地区によっては活気がなくなっているところもあります。土地を造成して、何もないところに新しい構想の「スマートシティ」を創るという発想では、そのニュータウンの単なる焼き直しであり、意味がありません。言ってみれば、100年、200年という長きスパンを視野に入れた街づくりをする必要があります。そのためにも、実際の今の日本の町の状況に有効活用できるような構想があり、テクノロジーが町の発展に役立つものでなければ意味がありません。
そういった街づくりをする上で、大事なことは「魂」となる文化の注入です。その点について、先に紹介したシンポジウムの中で、シェアリングエコノミー協会事務局長の石山アンジュ氏が
「ポリシー、テック、カルチャーの3つをバランスよく解決しなければいけない」
と発言されています。特に、カルチャーについて該当地域の人たちが集まり、どうするかを決める必要があります。そして、このような手間がかかる作業を、これからは企業が中心となって行う時代ではないかと思っています。
ESGとかSDGsといった略語がやたらに目につくようになりました。一つのトレンドになりつつありますが、意味するところは、「社会の役にたつ行動を企業もしましょう」ということだと思います。何故、このような考え方が生まれてきたのかと言いますと、格差が拡大していてそれを少しでも解消することが資本主義というシステムを長持ちさせる上で重要という認識が広がっているからです。
従来のように、内部留保ということで利益をため込むのではなく、社会に還元する意味も含めて、スマートシティといった街づくりに企業が参画することが求められるようになっているということです。
海外に展開している日本企業が多くあります。祖国日本が危機的状況に陥りつつあります。コロナ騒ぎもあり、国内回帰が今のトレンドになりつつあります。広い視野に立っての企業行動をお願いしたいと思っています。