「前回はインフレをテーマにして、現在の経済状況を中心に見ました。今日は、これまでの経済の流れを歴史的な視点から見てみたいと思います」
「私が生まれてから今までインフレが起きていないので全く実感が湧かないのですが、うちの母がオイルショックの時は凄かったわよと言っていました」
「狂乱物価という言葉が編み出された頃ですね。50年位前の話ですね。その時と、戦後すぐの時期、いわゆる戦後インフレーションがありました」
「ということは、2回ですね」
「そうですね。平成に入った頃に資産バブルがありましたけどね。土地やマンション価格が急騰したことがありました」
「それもインフレなんですか?」
「難しい質問をしますね。正確に言うと、資産インフレだと思います。他の物価に殆ど影響を与えなかったのです。私なんか、ちょうどその頃にマンションを購入したので、いわば「被害者」ですよ。東京郊外の公団分譲の中古マンション3LDKで約5000万でした」
「ちなみに、今はいくら位ですか?」
「今は1500万位で売れるかな、というレベルです」
「それは悲惨ですね。ご愁傷様です」
「職場の同僚から、どうしてそんなに高いモノを買ったのかと言われたことがありますが、家族が4人になる時なので、2DKのアパートでは無理だろうという判断がありました。決して、贅沢な広さではなかったのですが、当時はすべての物件が高かったのです」
「インフレというのは、要するに人迷惑なものという理解で良いのですね」
「インフレ退治という言葉がある位ですからね。ここからが本論です ↓」
戦後インフレーションの時代
日本の戦後はインフレで始まっています。日本の負の遺産として語り継がれるべきですが、中学、高校の教科書を見ると中学の歴史教科書にわずかに書いてある程度です――「日本経済を自立させ、インフレーションをおさえるため、GHQは財政の均衡・徴税の強化などを内容とする経済安定九原則を指示した」(『中学歴史』山川出版)。インフレーションが何故起きたのかを教科書から学ぶことは出来ません。
戦後インフレが起きた原因は、敗戦となり統制経済が解除された途端のモノとカネのアンバランスにあります。要するに、政府は戦費を調達するのに戦時国債を大量に発行して、それを戦争の資金としていたのですが、統制経済が解除され市場に大量に出回った紙幣に見合う財・サービスの絶対的不足が生じたためです。
戦後の焼け野原の中、完全なモノ不足、食料不足なので、人々はカネをいくら積んででも食料や生活必需品を買おうとします。当然の行動です。貨幣価値は下がる一方となります。下のグラフを見てもらえれば分かりますが、1970年代の「狂乱物価」の比ではないインフレが戦後の日本を襲います。政府は今までの厘、銭といった単位が使えなくなる程でした。その規模といい、凄まじさといい、インフレが起きる典型的な例として分かりやすいものなので、理由も含めて載せるべきなのです。
(「千葉の空」)
アベノミクスーー日本の慢性デフレ解消のための政策
この30年間の日本経済はデフレという状況でした。物価も上がらず、ベースアップもなく、低金利で安定していました。一市民の立場からすると、大変住みやすく良い時代だったということなのでしょうが、日本の経済ということを考えると、デフレ経済ということで問題ありだったのです。
鎖国日本であれば、何も言うことはないのです。まさに理想状態だと思います。ただ、世界との経済的な結びつきが無ければ立ちいかない時代です。世界の経済動向を見て、日本経済のかじ取りを考える必要があったのです。
そして、実はアベノミクスはそのデフレ経済から脱却させるための経済政策だったのです。彼の存命中は数字上の効果は表れませんでしたが、方向性としては正しかったと思います。アベノミクスは積極財政と金融緩和が主要な中身です。2012年12月に再度首相に返り咲いた安倍氏が打ち出した経済政策です。異次元の金融緩和と言われた位に、これ以上下げることができない程の低金利政策を打ち出します。
ところが、これでも日本のデフレ経済はピクリとも動きませんでした。理由の一つとして、前回紹介した書の中で渡辺教授が指摘しているのは、「日本版賃金・物価スパイラル」(『世界インフレの謎』p.238)です。賃金を上げないから、企業は商品の価格を上げない。この2つが、ぴったり引っ付いて2人3脚で長距離を走ったのです。
そして、気が付いて改めて他国と商品価格の比較をしたところ「安い日本」になっていたということです。
(「You Tube」)
インフレの波は必ず日本を襲う
理由の二つ目は、サプライチェーンです。冷戦が終わり、グローバリズムの時代となります。簡単に言えば、国境を取り払って手を取り合い、平和な世界を目指そうというものでした。そして、まずは経済連携ということで、それぞれの得意分野を生産し、それぞれ交易によって取引をすればお互い経済的な利益を得られるというものでした。
サプライチェーンが進めば、商品価格は抑えられます。デフレ経済の素地が作られた原因です。
そして、三番目の原因は、日本人の人間性です。歌手の三波春夫は「お客様は神さまです」と言ったが、そういう感覚の企業人が日本には多いということです。要するに、原材料価格が上がっても、まず企業内で努力をします。時には、社内留保の資金まで取り崩すなど精一杯努力をしてまで、価格据え置きを追究します。
この辺りの感覚は外国人経営者と違うところだと指摘を受けています。アメリカを見れば分かりますが、彼らはその辺りは非常にドライです。平気で人員削減をしますし、価格転嫁も素早いです。「それがビジネスだろ」という答えが返ってきそうです。そのため、890円の大戸屋の「かあさん煮定食」がニューヨークでは24ドル(3360円/1ドル=140円)になってしまうのです。フロリダのディズニーランドの入場券は日本の倍以上です。これらのことは、すべてのことに正比例するはずです。ということは、日本で89万円の車が、ニューヨークでは336万円とは言わないまでも、200万で売れるはずです。
この余りにも開いてしまった価格の実態は、今後必ず「調整」に入ります。経済はボーダレスの世界だからです。そのため「歩み寄り」があるということですが、通常は下から上となります。ということは、日本においてもインフレが確実に進行するということです。次回は、その辺りについて書きたいと思います。
(「You Tube」)
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