「『ザイム真理教』という題名の本、発行して7か月で17刷だそうです。売れているということで買ってみました」
「宗教の本ですか?」
「簡単に言えば、財務省批判の本です」
「財務省は国のお役所ですよね。何をどう批判しているのですか?」
「財務省は国の組織であり、国の金庫番の役割をしています。だから当然、収入(歳入)と支出(歳出)管理を厳正にするという役割があります。歳入に見合った歳出管理について、批判をしています」
「収入に見合う支出を考えることは、ある意味当たり前だと思います。どうしてそれが宗教になってしまうのですか?」
「財務省の考え方を財政均衡主義というのですが、財務省は国の金庫番としてその考えを頑なに守ろうとしています。それを宗教のように見立てているのです」
「段々分かってきました。その財政均衡主義を改めなさいということが書かれているのですね」
「ただ、財務省にそれを求めるのは無理です」
「そうでしょうね。内閣の指揮下にある組織ですものね。組織を批判しても余り意味がないし、建設的な意見がそこから出るとは思いませんけどね……」
「そうでしょうね。道路事情が悪いと言って、国交省を批判するようなものですからね」
「最終的な解決策は何だと言っているのですか」
「財務省は解散しろと言っています」
「そんな無茶な! ここからが本論です ↓」
大手出版社が出版拒否をしたのは内容が非常識だから
新聞広告に大きく「大手出版社が軒並み出版拒否した問題作」とありましたので、もしかしたら言論弾圧の類なのかと思い、興味本位で買ってみました。200ページ足らずの薄い本の割には値段が高く税込み1540円でした。値段が高いのは、出版社がリスクを考えたからでしょう。
内容を一読しましたが、この本の最大の問題点は、方向性がないことです。日本経済のことを心配しているようですが、その解決策も解決する方向性も示されていません。財務省を目の敵にしていることは分かりますが、それだけでは意味がないということです。2人の会話にあるように、財務省は国の金庫番として歳入と歳出を厳格に管理するのが職務です。著者が言うように歳入に関係なく、お金を出すことは出来ません。
ましてや、その職務を行っている省庁を揶揄(やゆ)するように「ザイム真理教」とレッテルを貼った上で、カルトの教えであると言うのは非常識だと思われます。大手出版社に原稿を持ち込んだのでしょう。常識ある出版社であれば拒否をすると思います。ただ、それを逆手にとって、それをウリにして出版をするところは大したものだと感心しています。
(「www.amazon.co.jp」)
森永氏の根拠なき積極財政論
著者はテレビ出演もされたりして有名な獨協大学経済学部教授の森永卓郎氏です。彼がこの本の中で主張していることは、歳入と歳出のバランスなど考える必要はない。そのバランスを考えるから、消費税など増税をしたり、社会保険料を上げたりしなければならないというものです。そのバランスを説く財務省を目の仇にしているのです。
ただ、そうなると歳入不足が生まれますが、その分は国債を発行して賄えば良いと言います。日本の国債発行残高が約1000兆円なので、財務省の立場からすれば簡単にYESとは言えません。森永氏の著書の資料によると、国債発行残高がGDP(国内総生産)の約2.5倍もあり、G7の中で最も国債発行残高が多い国、つまり借金大国なのです。
それに対して、まだ大丈夫というのが森永氏の主張です。根拠は政府が保有する流動資産が800兆、固定資産が280兆あるから、それらを引けば日本の借金はG7の他の国と同じ位だろうというものです。そして、さらにそれ以外に高速道路とか議員宿舎も資産として活用できるので、それらを差し引けばプラスマイナス0くらいとなり、ここを基準にしなければいけないというのが彼の主張です。
(「毎日新聞」)
何のための借金なのか、「質」が問われる
借金をどのように考えるかによって、その金額が増減することはあると思います。分かり易くするために、家庭を例にとって考えたいと思います。1千万の所得があったので5千万のローン(借金)をして家を買い、元金と利払いで200万とします。当然その人の生活は1千万-200万=800万に合わせることになります。ただ、森永氏の言っていることは、土地や建物の資産が5千万あるので、200万を借りてよいので、1000万円の生活をしろと言っているのです。その根拠は住んでいる土地と建物の価値が5千万あるので大丈夫ということです。そうなると毎年200万ずつ借金が増えることになります。資産が5千万ありますので、数年は生活できるでしょう。ただ、その考え方であれば、どこかで破綻します。
しかし、破綻しない方法があります。何らかの事業を行って収益をあげることです。仮に毎年200万の借金を5年間ためておいて、それを元手に事業をしたとします。事業が上手くいけば問題はないのです。つまり、仮に負債があったとしても、それを元手に事業で収益をあげることができれば何ら問題がないのです。つまり、何のために借金をしたのかという、借金の「質」の問題です。森永氏に求められるのは、収益をあげることができる国家プロジェクトであり、国家戦略を示すことです。それが提示できれば「借金何するものぞ」と言って良いと思います。
ところが、それが何もないという情けない状態です。著書のどこを探しても何も書いていません。要するに、単に無責任に借金をしろ、そして消費税と社会保険料の国民負担を減らすことを勧めた本ということです。大手出版社が出版を引き受けなかったのは、そういった理由からでしょう。そして、この本を2人の大学教授が推薦しています。きちんと読まないで推薦をしたと思っています。
(「note」)
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