「素朴な疑問ですが、何故、いまだにアベノミクス(安倍首相の経済政策)がどうのこうのって話が出ているのでしょうか。菅さんが総理大臣だったのでしょう」
「簡単に言えば、菅総理はアベノミクスを受け継いだからです。そもそもアベノミクスというのは、デフレ脱却のために金融緩和と財政出動を積極的に行おうという政策です」
「立憲民主党が検証とか言っていますけど、どうなんですか?」
「何をどう検証したいのかよく分かりませんが、方向性としては正しかったと思います。ただ、大規模な金融緩和を行いましたので、これは現在も続いているのですが、それによって株式や不動産価格が上昇し、資産を殖やした人はいたでしょうね」
「いわゆる格差が広がったということですね」
「これは前にも言ったのですが、資本主義社会は競争社会ですので、どうしても差が出ます。その差をどのように捉えるか、止む無しと考えるのか、修正する必要があると考えるのかが最初の分かれ目となります」
「岸田総理は、どういう立場なのですか?」
「彼は、修正派でしょう。分配ということをしきりに所信表明演説でも言っていましたから、再分配に配慮して格差是正を目指すという考え方だと思います。ちなみに、高市氏は、そのまま突っ走れという考え、その対極に河野氏、野田氏がいました」
「岸田総理の立ち位置ならば、立憲も一緒に出来るのではないかと思いますけど……」
「政権奪還と言っていますので、一緒にやるつもりはないでしょう。彼らは、格差是正を重点的に考えると思います」
「格差が広がったと言われていますが、実際のところはどうなんですか?」
「2020年以降のコロナ禍で企業が非正規雇用を整理解雇するなど行い、そういった傾向は強まったことは確かです。ただ、「ジニ係数」で国際的に比較すると、日本は先進国の中では真ん中位に位置しており、格差が大きい国とは言えません」
「ちなみに、その係数によると格差が大きい国というのはどこですか?」
「特に大きいのがアメリカとイギリスですね」
「格差が全くないという国はありませんよね?」
「全国民がAIロボットの国であれば可能だと思います。現実には、無理でしょう」
「ここからが本論です ↓」
頭が痛くなるほどの大きな数字をどう見るか
今月号の「文藝春秋」に掲載された矢野康治財務事務次官の論文「財務事官、モノ申す」を改めて読んでみました。文章を読めばおよそ、その人柄が分かります。次官らしからぬ(失礼)謙虚さに溢れた控え目な方だということがよく分かります。そのような方が、「このままでは国家財政は破綻する」と思い切った表題をつけていますので、思い詰めてこれを書かれたのだなということが容易に想像できます。
彼が危険と思っているものは国や地方の長期債務です。国は973兆円、地方は193兆円、合わせて1,166兆円という膨大な金額が根拠です。この金額だけを見つめて真剣に考えると、多分めまいがすると思います。
1兆円と言っても多分ピンと来ないと思いますので、ここでクイズを出します。「今、あなたは1兆円持っています。毎日1,000万円使うとして何年間使えるでしょうか」。計算してみて下さい。1,000万円というのは凄い金額だと思いますが、それを毎日使う訳です。あっと言う間に無くなると思うかもしれませんが、計算してみると約300年使えます。1兆円が大金だということが実感できたと思いますが、その1,166倍ですので、真面目に考えれば、頭が痛くなるような数字だと思います。
(「WEDGE Infinity」)
本日の「夕刊フジ」に矢野論文に対する批判が載る
今日の「夕刊フジ」(2021.10.14日付)に彼の論文に対して、元財務官僚の高橋洋一氏が「大批判 論理破綻」ということで批判の文章を掲載しています。同じ経済の専門家なのに、どうして相反する見解が出るのか。これは、社会科学系の分野では多く見られることです。驚くに値しません。
大事なことは、何をベース(根拠)にして、そしてそれをどのような視点から分析して、どういう結論に達したのかということです。両者とも専門用語を使って自説を述べていますので、それをそのまま紹介出来ませんので、両者の主張について解説したいと思います。
(「Twitter」)
一番の問題は長期債務に対する捉え方の違い
矢野氏の一番の問題意識は長期債務にあります。債務というのは借金ですが、この長期債務をどう見るかということです。よく家計の借金に例えられますが、それは実態に合っていないと思います。国や地方の債務というのは、企業と家計(家庭)の両方の性格をもったものという見方をする必要があります。ただ、人によっては専ら企業的視点で見る人と、専ら家計的視点で見る人に分かれるということです。矢野氏は後者の立場から文章を書き、それに対して高橋氏は前者の立場から批判をしたのです。
企業の長期債務ですが、これは借金ですが、純粋に借金とは言えません。例えば、トヨタ自動車の有利子負債は2021年3月末日現在で12兆2120億円あります。企業の場合は、これだけの借金ができる会社だという一つのステータスとなります。言ってみれば、信用力ということでしょう。考えて頂ければ分かると思いますが、訳の分からない会社に何十兆円もお金を貸しません。信用できないような人であれば、1万円ですら借りるのは難しいでしょう。
要するに、国と地方合わせて1,166兆円という膨大な金額を、信用の証、経済大国のステータスシンボルの一つとして考えるのか、それともなるべく早く返さなければいけない借金として考えるのかということです。世界第三位の経済大国というのは、あくまでも今までの努力の成果としての到達点です。激しい競争社会、油断をしていれば、ランキングはあっという間に下がり、ステータスが不良債権にならないとも限りません。そうなる可能性は50%という人もいます。私も内心そう思っています。
ステータスシンボルが、このままでは不良債権となる
日本の経済力が伸びない場合は。ステータスシンボルの債務が不良債権の候補になります。矢野氏は財務省の現場にいて、日本の経済力が弱くなっていることを膚で感じているのではないかと思います。
実は、今、ちょうどその端境期にあるのではないかというのが私の見方です。そのため、このように同じ現象なのに真っ二つに意見が分かれてしまう、自民党の総裁選の4候補の間でもやはり2つに分かれてしまうということが起きたのだと思っています。
だから、別の意味で危機的状況なのかもしれません。「日本株の時価総額が世界に占める比率は、1989年の37%から6%に激減した。上位500社に日本企業が200社以上あったが今は33社にすぎない」(「新政権に問う」/『日経』2021.10.7日付)。日本のファンダメンタルが確実に低下している中で、労働生産性も低下しています。今や、韓国よりも下の位置にいます。労働生産性が低いということは、人材育成、つまり教育が上手くいっていないということです。
総裁選、国会での議論、マスコミは、経済や財政問題について、表面的なことだけを問題にしていますが、実はその根底の部分に於いて亀裂が入り始めています。誰もそれを指摘することなく、実は時限爆弾の針だけが進んでいるような状況になっているのです。
読んでいただき、ありがとうございました。
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